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蛍光イメージングとMRIの両方で使えるイメージング材料を新たに開発

水に溶ける「光るラジカル」が二つのイメージング技術に応用できることを世界で初めて実証

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2026.09.29

ポイント

概要

FIやMRIは、体内での薬剤の行方や腫瘍等の場所の特定、がん手術におけるがん細胞の見える化など、基礎研究だけでなく臨床的にも重要な技術です。赤色-近赤外領域の光を発する発光ラジカルは、その性質からFIとMRIの両方で使用できるイメージング剤として期待されています。東京科学大学(Science Tokyo) 総合研究院 化学生命科学研究所の岡田智准教授(人間医療科学技術コース 主担当)、九州大学 先導物質化学研究所のアルブレヒト建 准教授、大学院 総合理工学府 博士課程3年の安楽滉允、量子科学技術研究機構 量子医科学研究所の住吉晃 主幹研究員、産業技術総合研究所 分析計測標準研究部門の細貝拓也 上級主任研究員らの研究グループは、水の中で光る発光ラジカルの開発とそのFIおよびMRIへの応用を検討しました。一般的な発光ラジカルは水に溶けず、溶けてもFIに重要な発光性を失ってしまうものがほとんどでした。我々は、適切な分子設計により、水の中で深い赤色の光を明瞭に発するラジカル分子の開発に成功しました。また、開発した発光ラジカルは、MRI造影剤[用語5]の要件ともいえる常磁性緩和促進効果[用語6]を示しました。これらの結果を踏まえて、本研究では実際に開発したラジカル分子を用いた細胞内FIおよびMRI画像の取得に成功し、発光ラジカルのこれらの分野への応用可能性を提示しました。今後さらに性能を高めることで、一つの分子でFI/MRIの両方を同時に測れるイメージング材としての応用も期待されます。

本研究成果はWiley社発行の国際学術誌「Advanced Science」に2026年9月28日(月)午後3時(⽇本時間)にオンライン掲載されました。

参考図. (中央)開発した水溶性発光ラジカルの分子構造および概念図とそれを用いた(左)蛍光イメージング画像および(右)MRI画像

背景

FIやMRIといったバイオイメージング技術は、薬剤の行方の追跡、がんや腫瘍等の場所の特定、がん手術におけるがん細胞の可視化、臓器の状態の検査など、基礎研究や臨床応用において極めて重要な役割を果たしてきた強力な画像化技術です。FIは高感度であるため、細胞や分子を正確に追跡することができますが、撮像できる深さが比較的浅いという欠点があります。一方で、MRIには理論上撮像できる深さに上限がないため、体内のあらゆる場所を撮像できるという利点がありますが、感度が比較的低いという欠点があります。このように、FIとMRIはそれぞれに利点と欠点があるため、互いに相補的な二つのイメージング技術を組み合わせることで、基礎科学の進歩だけでなく、医療現場においてより信頼性の高い診断結果につながることが期待されています。

そこで我々は、蛍光プローブ[用語7]として必要な発光性を有し、かつMRI造影剤として振る舞うことが期待できるtris(2,4,6-trichlorophenyl) methyl (TTM)ラジカルに着目しました(図1)。TTMラジカル誘導体は、FIに有利な赤色-近赤外発光を示し、従来の常磁性金属錯体[用語8]を基盤とするMRI造影剤とは異なりメタルフリーな材料であることからも、FIおよびMRIへの応用が期待されています。しかし、一般的な発光ラジカルは水に溶けず、溶けてもFIへの応用に必要不可欠な「発光性」を失ってしまうものがほとんどであったため、報告されている論文の数も限られていました。

図1. FI/MRIのメリットおよびデメリットとTTMラジカルの分子構造

研究成果

我々の研究グループは、水中で明確に発光する水溶性発光ラジカルを開発し、そのFIおよびMRIの両用イメージング材としての応用可能性を実証しました。

水の中で安定に存在しかつ発光する発光ラジカルの開発を目指し、不安定な化学種として知られるラジカルの中でも比較的安定とされるTTMに対して、水溶性かつ発光性を促す置換基(TP3BまたはTP9B)を三方向に結合した、TTM-trisTP3BおよびTTM-trisTP9Bを設計・合成しました。狙い通りこの水溶性発光ラジカルは、水中で明確な劣化挙動が見られないほど高い安定性を示し、約690 nmの深赤色の発光を示しました。発光の効率を表す発光量子収率(PLQY)[用語9]は1%以上の値を示しました。また、開発した水溶性発光ラジカルは、MRI造影剤として必要な常磁性緩和促進効果も併せて示しました。

図2. 開発した水溶性発光ラジカル(TTM-trisTP3BおよびTTM-trisTP9B)の分子構造と、それぞれの水中における発光ピーク波長(λPL)およびPLQY

これらの結果に基づいて行った水溶性発光ラジカルを用いたFIおよびMRI実験では、それぞれHeLa細胞[用語10]の蛍光イメージング画像および縦緩和時間(T1)-強調MRIファントム画像[用語11]の取得に成功しました。この結果は、一つの発光ラジカルがFIとMRIのどちらにも応用可能であることを示しています。

図3. 開発した水溶性発光ラジカル(TTM-trisTP3B)を用いたHeLa細胞の蛍光イメージング画像およびTTM-trisTP3BとTTM-trisTP9Bを用いたT1-強調MRIファントム画像。

今後の展開

本研究は、発光ラジカルのFIおよびMRIへの応用可能性に加えて、水に溶けて発光するラジカルの新たな分子設計指針を提示しています。本研究成果を基盤として、例えばがん細胞に集積するようにしたり、発光効率を改善したりした水溶性発光ラジカルが開発できれば、将来的にはFIやMRIのみならずいくつかのバイオイメージング手法への臨床応用も期待できます。さらに、本研究における分子設計指針は、細胞内での微小な磁場や温度変化等をセンシングできる量子センシング技術にも応用できる可能性があります。

付記

本研究はJSPS科研費 (JP26K01568, JP25K01850, JP24KJ1764 and JP26KJ1765)、JST 先端国際共同研究推進事業(ASPIRE) (JPMJAP2334)、「人と知と物質で未来を創るクロスオーバーアライアンス」(文部科学省)(2026Y004)、JST SPRING(JPMJSP2136)、公益財団法人渡邉財団の助成を受けたものです。

用語説明

[用語1] ラジカル:奇数個の電子を有し、電子のペアを作らない不対電子を有する分子。一方、通常の分子は偶数個の電子を有し、電子同士がペアを作る。ラジカルはこの電子構造に由来して通常の分子よりも不安定な化学種として知られている。

[用語2] 蛍光イメージング(FI):標的となる生体内の組織や細胞等に蛍光色素を集積させて共焦点蛍光顕微鏡等で観察することで、標的部位を光で検出するイメージング技術。がんをはじめとする様々な病気の早期発見に役立つ。

[用語3] 核磁気共鳴イメージング(MRI):生体内にある水分子に含まれる水素原子核の緩和時間(磁場の存在下で水素原子の核スピンを励起した後、平衡状態に戻るまでにかかる時間)を測定し、その違いを通常白から黒のグラデーションで表現するイメージング技術。病変部位と健常部位の緩和時間が異なることを利用してその白黒の濃淡の違いで通常は病変部位を特定するが、不明瞭な場合がしばしばある。そこで、MRI造影剤を使用することでその白黒の濃淡の違いをより明瞭にすることができる。

[用語4] バイオイメージング材:生体内の組織や細胞等を可視化(イメージング)するために用いられる材料。通常、イメージング手法によって用いられるイメージング材の設計が大きく異なる。

[用語5] MRI造影剤:標的部位に集積させることで、標的部位とそれ以外の白黒のコントラストをより明瞭にするイメージング材。ラジカルのようにペアを作らない独立した電子を有する常磁性材料が使われ、この独立した電子と水分子の水素原子核が相互作用することで緩和時間が短くなり、標的部位以外との緩和時間が変化することでコントラストの良いMRI画像を取得できる。

[用語6] 常磁性緩和促進効果(PRE効果):MRI造影剤のような常磁性材料が持つペアを作らない電子と水分子の水素原子核が磁気的に相互作用することで、水素原子核の緩和時間が短縮する効果。これにより、標的部位とそれ以外の部位における水分子の水素原子核の緩和時間に違いが生まれ、よりコントラストの良いMRI画像の取得が可能になる。常磁性緩和促進効果は英語ではParamagnetic Relaxation Enhancement effectと呼ばれ、PRE効果と略される。

常磁性緩和促進効果(PRE効果)の説明図

[用語7] 蛍光プローブ:蛍光イメージングに使われる自らが発光するイメージング材。光の生体透過性の観点から、赤色から近赤外といった長波長領域で発光する蛍光プローブの開発が求められている。

[用語8] 常磁性金属錯体:ラジカルのようにペアを作らない独立した電子を有する金属イオンと有機分子が化学的に結合した分子。MRI造影剤としても広く研究されており、特にガドリニウム錯体は臨床にも使用されている。しかし、ガドリニウム錯体をはじめとするいくつかの常磁性金属錯体は、脳への蓄積や腎機能が低下した患者への副作用が問題視されている。

[用語9] 発光量子収率(PLQY):発光材料がどれだけ効率よく発光するかを表した指標。発光量子収率は発光材料が吸収した光子数と放出した光子数の割合で表され、0から100%までの値をとる。発光量子収率は英語ではPhotoluminescence Quantum Yieldと呼ばれ、PLQYと略される。

[用語10] HeLa細胞:ヒト子宮頸がん由来の培養細胞株。細胞生物学や薬理学、バイオイメージング等で非常によく使われる代表的なヒト細胞株である。HeLa細胞という名前は、初めてこの細胞を提供した患者であるHenrietta Lacksの名前に由来している。

[用語11] MRIファントム画像:MRI造影剤の水溶液が入ったチューブを模型(ファントム)として撮像したもの。

論文情報

掲載誌: Advanced Science
タイトル: Water-Soluble Luminescent Trityl Radical for Fluorescence/Magnetic Resonance Dual-Modal Imaging Probe
著者: Kosuke Anraku, Satoshi Okada, Akira Sumiyoshi, Kenshiro Matsuda, Kazuhiro Nakamura, Takuya Hosokai, Ken Albrecht
DOI: 10.1002/advs.77710別窓

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お問い合わせ

東京科学大学 総合研究院 化学生命科学研究所

准教授 岡田智

Email okada.s.e21a@m.isct.ac.jp

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