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オートファジーにおける脂質輸送を時空間的に制御するスイッチを発見

脂質輸送タンパク質Atg2の小胞体結合メカニズムの解明

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2026.09.04

ポイント

  • 脂質輸送タンパク質Atg2と小胞体膜タンパク質Scs2の相互作用の同定
  • リン酸化を介したAtg2-Scs2相互作用の制御機構を解明
  • オートファジーの包括的理解と、将来的な活性制御技術の開発、さらには関連する癌や神経変性疾患などに対する創薬につながる

概要

東京科学大学(Science Tokyo) 総合研究院 細胞制御工学研究センターの小谷哲也特任講師、中戸川仁教授(生命理工学コース 主担当)、大阪大学 大学院生命機能研究科の田邊春樹大学院生、同大学院 医学系研究科 保健学専攻の久万亜紀子特任准教授らの研究チームは、オートファジーの膜形成において、脂質輸送タンパク質[用語1]Atg2が、脂質の供給源である小胞体を認識・結合するメカニズムを解明しました。

オートファジーは真核生物で種を超えて共通に存在する細胞内の分解機構です。オートファジーが誘導されると、細胞質に現れた隔離膜と呼ばれるカップ状の脂質膜が細胞質の一部を取り囲みながら球状へと伸張し、閉鎖することでオートファゴソームが形成されます。この後、オートファゴソームが分解酵素を持つ液胞やリソソーム[用語2]と融合し、取り込んだ細胞質の一部は分解されます。隔離膜の伸張には、Atg2が小胞体と隔離膜を架橋して脂質を供給する必要がありますが、Atg2がどのようにして小胞体と結合しているのかはこれまで未解明でした。

本研究では、酵母細胞を用いた解析により、タンパク質リン酸化酵素Atg1によるリン酸化をスイッチとして、Atg2が小胞体の膜タンパク質Scs2と結合し、さらに自身のN末端領域と協働して隔離膜への脂質供給を開始することを明らかにしました。また、この相互作用が哺乳類細胞においても保存されており、オートファゴソーム形成を促進することを示しました。

本研究は、脂質輸送の時空間的な制御機構を分子レベルで解き明かしたもので、オートファゴソーム形成の包括的理解のための重要な基盤情報となります。

本成果は、7月29日付(米国東部時間)の「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America」誌に掲載されました。

図. Atg1によるリン酸化を介したAtg2の小胞体認識機構

背景

オートファジーは、酵母から哺乳類にいたる真核生物で共通に存在する細胞内分解機構であり、さまざまな細胞内成分を液胞やリソソームへと運搬して分解します。オートファジーの誘導に伴い、細胞質内には隔離膜と呼ばれる脂質膜構造体が形成されます。この隔離膜は脂質の供給を受け、カップ状から球状へと伸張し、最終的にその開口部が閉鎖することでオートファゴソームが完成します。この膜伸張に必要な脂質の輸送は、脂質輸送タンパク質であるAtg2が担っていることが明らかになっています。Atg2は脂質供給源である小胞体と隔離膜を架橋し、脂質を輸送すると考えられていますが、Atg2がどのようにして小胞体を認識し、結合しているのか、その詳細なメカニズムは未解明でした。

研究成果

オートファジーが誘導されていない条件では、Atg2は細胞質中に拡散しており、小胞体に局在する様子は観察されません。さらにオートファジーが誘導されても、オートファゴソーム形成の場への局在化は確認できますが、小胞体全体への局在は確認できません。このことはAtg2の小胞体との結合が時空間的に厳密に制御されており、オートファゴソーム形成の場にいるAtg2に制限されていることを示唆します。オートファゴソーム形成の場にはタンパク質リン酸化酵素Atg1が存在しており、オートファゴソーム形成に関わるタンパク質の多くをリン酸化することが知られています。Atg2もまたAtg1によりリン酸化されることが知られています。これらのことから、Atg2がAtg1によってリン酸化されることで小胞体に結合できるようになる可能性が考えられました。そこで、細胞質にいるAtg2にAtg1を強制的に結合させリン酸化させました。その結果、Atg2が小胞体に局在化することを見いだしました。さらに、小胞体に局在化したAtg2を免疫沈降し、質量分析を行い、Atg2が小胞体膜タンパク質であるScs2と相互作用していることを明らかにしました。

Scs2はVAP(vesicle-associated membrane protein-associated protein)タンパク質[用語3]ファミリーに属し、FFATモチーフと結合するMSPドメインを持ちます。MSPドメインとの相互作用がFFATモチーフのリン酸化で制御されている場合があり、この場合のモチーフはphospho-FFATと呼ばれます。Atg2にphospho-FFAT様の配列を見いだし、その配列に変異を導入するとScs2との相互作用が低下しました。しかし、この変異ではオートファジー活性にはほとんど影響がありませんでした。研究グループはこれまでにAtg2のN末端領域が小胞体との結合に関与することを報告していました。このN末端領域には今回見つかったScs2結合モチーフは含まれておらず、Scs2とは無関係に小胞体と結合することが示唆されました。そこでN末端領域を介した小胞体との結合に欠陥があるときにScs2との相互作用が重要になる可能性を考えました。Atg2のN末端領域を一部欠失した変異体では、オートファジー活性が部分的に低下しますが、この変異とphospho-FFAT モチーフの変異を組み合わせると、オートファジー活性がほぼ完全に失われることが明らかとなりました。

これらの結果から、Atg2とScs2の相互作用は、Atg2のN末端領域と協働してAtg2の小胞体への結合を担っていることが明らかになりました。

最後に、酵母のAtg2と同じ働きをする哺乳類細胞のATG2もVAPタンパク質ファミリーに属するMOSPD1やMOSPD3と相互作用すること、この相互作用がオートファゴソーム形成を促進することを示しました。

社会的インパクト

オートファジーは、細胞内の異常なタンパク質や不要になった細胞小器官を分解・除去することで生体の恒常性を維持しており、その異常は癌や神経変性疾患をはじめとする多様な疾患の発症と深く関連しています。これらの疾患に対する治療法や創薬を実現するためには、オートファゴソーム形成の分子メカニズムを詳細に理解し、オートファジーの活性を自在に制御する技術を確立することが、極めて有力なアプローチとなりえます。

本研究成果は、オートファゴソーム形成における脂質輸送の時空間的な制御機構の一端を解明したものであり、関連疾患の病態解明や、オートファジーの活性調節を標的とした治療薬開発に向けた重要な基盤情報になると期待されます。

今後の展開

本研究によりAtg2が小胞体から隔離膜へと脂質を供給するときに、小胞体膜タンパク質であるScs2(哺乳類ではMOSPD1/3)と結合することが明らかとなりました。しかし、このAtg2-Scs2相互作用を欠失させてもオートファジー活性にはほとんど影響を与えませんでした。これは、Atg2のN末端領域を介した小胞体の認識機構が存在するからだと考えられます。今後の課題は、このAtg2のN末端領域を介した小胞体認識機構の詳細を明らかにすることです。さらに、高度に保存されたAtg2-Scs2相互作用が重要になるような生理的条件を特定する必要があります。これら未解明の疑問を解消することで、オートファゴソーム形成機構の包括的な理解が進むと期待されます。

  • 付記

本研究は、文部科学省科学研究費助成事業(JP23K20044、JP24H00553、 JP25H01322、 JP24H01896、JP23K05764、JP26H00925、JP22H04982、JP19K16071、JP25K09544)、革新的先端研究開発支援事業AMED-CREST(JP25gm1410004、JP22gm1410014、 JP25gm0010012)、武田科学振興財団研究助成、高深度オミクス医学研究拠点ネットワーク形成事業、徳島大学先端酵素学研究所、による支援を受けて行われました。

  • 用語説明

[用語1] 脂質輸送タンパク質:脂質分子をその内部に取り込み、細胞内の特定の膜から別の膜へと移動させるタンパク質。

[用語2] 液胞、リソソーム:さまざまな分解酵素を含み、不要物を分解する細胞小器官。酵母や植物では液胞、動物細胞ではリソソームと呼ばれる。

[用語3] VAP(vesicle-associated membrane protein-associated protein)タンパク質:小胞体膜に存在する膜タンパク質ファミリー。細胞質側にMSP(Major Sperm Protein)ドメインを持ち、FFAT(Two Phenylalanines in an Acidic Tract)モチーフを持つタンパク質と結合する。

  • 論文情報
掲載誌: Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America
タイトル: Spatiotemporal control of Atg2 association with the ER during autophagosome formation
著者: Tetsuya Kotani, Haruki Tanabe, Shinri Kitta, Momoko Higashi, Tatsuya Niwa, Tatsuya Kaminishi, Chika Kakuta, Junko Shimasaki, Hidetaka Kosako, Tamotsu Yoshimori, Akiko Kuma, and Hitoshi Nakatogawa
DOI: 10.1073/pnas.2606606123別窓

研究者プロフィール

小谷 哲也 Tetsuya Kotani
東京科学大学 総合研究院 細胞制御工学研究センター 特任講師
研究分野:分子細胞生物学

中戸川 仁 Hitoshi Nakatogawa
東京科学大学 総合研究院 細胞制御工学研究センター 教授
研究分野:分子細胞生物学

関連リンク

お問い合わせ

東京科学大学 総合研究院 細胞制御工学研究センター

教授 中戸川 仁

Email hnakatogawa@cbc.iir.isct.ac.jp
Tel 045-924-5735
FAX 045-924-5743

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