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筋細胞内に管状のリソソームネットワークを発見

超高齢化社会の課題である筋機能の維持に向けた新たな知見

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2020.10.20

要点

  • ショウジョウバエの筋細胞が作り変えられる際に、オートファジーに依存して、リソソームが管状のネットワークを形成する現象を発見
  • 管状ネットワークの形成により、筋細胞の広い範囲でリソソームが同調する
  • 超高齢化社会の課題である筋機能維持へ向けて新たな知見を提供すると期待

筋細胞内の管状リソソームネットワーク(マゼンタ)と後期エンドソーム(グリーン)

筋細胞内の管状リソソームネットワーク(マゼンタ)と後期エンドソーム(グリーン)

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 細胞制御工学研究センターの藤田尚信准教授(生命理工学コース主担当)らは、ショウジョウバエの筋細胞(筋肉を構成する細胞)が作り変えられる際に、オートファジー[用語1](図1)に依存して、リソソーム[用語2]が管状のネットワーク構造を形成する現象を発見した。

通常は球状のリソソームが管状のネットワーク構造になることにより、広い範囲でリソソームが同調し、効率的な分解が可能になると考えられる。この構造体は非常に壊れやすいものだが、ショウジョウバエ個体の筋細胞を生きたまま観察することにより、はじめて見つけることができた。

筋細胞は非常に長寿な細胞であり、筋機能の維持には筋細胞内のタンパク質や細胞小器官の分解が非常に重要であることが知られている。この研究成果は、超高齢化社会の大きな課題の1つである「筋機能の維持」へ向けても新たな知見を提供すると期待される。

研究成果は2020年10月19日付で英国科学誌「Journal of Cell Science(ジャーナル・オブ・セル サイエンス)」電子版に掲載された。

図1. オートファジーの模式図

図1. オートファジーの模式図

背景と経緯

リソソームは酸性加水分解酵素[用語3]を含む細胞小器官であり、真核細胞に普遍的に存在する分解の場である。通常、リソソームは球状だが、特殊な条件下では形態を変化させることが知られている。しかしながら、その詳細なメカニズムと意義はこれまで明らかにされていなかった。

筋細胞は力を発生させるために高度に分化した巨大な細胞であり、収縮に必要な特殊な細胞小器官を持つ。筋細胞が萎縮もしくは肥大する際には、それらの細胞小器官の量が適切に調節され、筋機能が維持されている。

藤田准教授らの研究グループは、ショウジョウバエの変態期に一群の筋細胞がオートファジーにより大規模に作り変えられることを先に報告した[参考文献1]。オートファジーが誘導され、筋細胞の細胞小器官が分解・解体される際には、最終的な分解を担うリソソームの活性も調節されていると考えられるが、その詳細は不明だった。

研究成果

同研究グループはショウジョウバエの筋細胞が作り変えられる際に、リソソームの量と形がどのように変化するのか経時的に調べた。その結果、オートファジーが亢進(こうしん)するタイミングに、筋細胞内に管状のリソソームネットワークが張り巡らされる現象を発見した。オートファジー欠損変異体では管状構造が失われ、球状のリソソームが見られたことから、この管状ネットワークの形成はオートファジーに依存していることが判明した(図2)。

図2. 管状リソソームネットワークの形成はオートファジーに依存している

図2. 管状リソソームネットワークの形成はオートファジーに依存している

コントロールでは管状のネットワークが形成されるのに対し、オートファジー欠損変異体では管状構造は見られない。

また、管状ネットワークの内部は実際につながっており、球状のリソソームと比較して、広い範囲でより均質になっていることが明らかになった(図3)。管状リソソームネットワークの形成能と筋細胞の機能との間に良い相関が見られたことから、管状リソソームネットワークは筋細胞内のリソソームを広い範囲で同調させると同時にその表面積を増大させて、効率的かつ同調した分解を可能にしていると考えられる。

図3. 球状と管状リソソームの比較

図3. 球状と管状リソソームの比較

球状のリソソームに比べて、管状のネットワークではより均質である。また、単位体積あたりの表面積は管状ネットワークの方が球状よりも大きい。

今後の展開

今回の研究成果により、オートファジーに依存した管状リソソームネットワークの存在が明らかになった。この構造体は、細胞を固定する際に容易に壊れてしまうため、これまで見つかっていなかったと考えられる。

今後はショウジョウバエ以外の生物種でも筋細胞に管状リソソームネットワークが形成されるのか検討する必要がある。また、管状リソソームネットワークの形成にはオートファジーやリソソームの分解能が必要であることが明らかになったが、その詳細なメカニズムは不明であり、今後の解明が期待される。

超高齢化社会を迎えた我が国では筋機能の維持は大きな課題である。リソソームをはじめとした細胞内分解系は、筋細胞の恒常性の維持に重要な役割を果たしていることから、本成果は筋機能の維持へ向けて新たな知見を提供すると期待される。

  • 用語説明

[用語1] オートファジー : 細胞小器官や細胞質成分を膜構造で包み込み(オートファゴソーム)、リソソームへと運び分解する細胞内大規模分解経路。2016年のノーベル医学生理学賞の対象となった。

[用語2] リソソーム : 様々な物質を分解する種々の酸性加水分解酵素を含む細胞小器官。通常は球状であり、その内部は酸性に保たれている。

[用語3] 酸性加水分解酵素 : タンパク質、DNA、脂質、多糖など様々な生体高分子を酸性条件下で効率よく分解する酵素群。

参考文献

[1] Fujita N, et al., "Genetic screen in Drosophila muscle identifies autophagy-mediated T-tubule remodeling and a Rab2 role in autophagy." eLife (2017) 6. e23367

  • 論文情報
掲載誌 : Journal of Cell Science
論文タイトル : An Autophagy-Dependent Tubular Lysosomal Network Synchronizes Degradative Activity Required for Muscle Remodeling
著者 : Tadayoshi Murakawa, Amy A. Kiger, Yuriko Sakamaki, Mitsunori Fukuda, and Naonobu Fujita
DOI : 10.1242/jcs.248336 別窓

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院 細胞制御工学研究センター

准教授 藤田尚信

E-mail : nafujita@bio.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5131

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