生命理工学系 News
高大連携サマーチャレンジは、2019年夏で16回目、2004年夏の開始以来、震災の年も含めて1度も休まず着実に歴史を重ねてきました。
異例の長さとなった梅雨も明け、夏空が広がる埼玉県武蔵嵐山に3校53名の高校3年生が、ちょっと緊張したおももちで集まりました。まずは、初対面の班メンバーともアイスブレイクで打ち解け合い、その後、4つの講義形式チャレンジと、伝統の分解チャレンジへ進みます。学校は異なっても同じ理系分野への関心や熱意や悩みを共有する仲間どうし、食事や宿泊もともにすることで、プログラムが進行するにつれて緊張がほぐれ、さまざまな難題に好奇心と探究心全開で取り組んでいました。高校生の新鮮な発想にエスコート役の大学教員側が刺激されることもあり、多くの出会いやスパークをもたらした充実の3日間でした。その概要をリポートします。
日時: 2019年8月1日 - 3日
場所: 埼玉県比企郡嵐山町 国立女性教育会館
参加生徒: 53名(東京工業大学附属科学技術高等学校35名、お茶の水女子大学附属高等学校8名、東京学芸大学附属高等学校10名)
参加教員: 31名(東工大教員23名、引率高校教員3校8名)
事務職員: 8名(東工大)
合計: 92名
チャレンジの滑り出しは、すっかり恒例となった「コラムランド」。事前に各自が執筆してきた短い文章を、匿名の状態でディスカッションして評価しあい、初対面のメンバー同士のアイスブレイクとしました。
今年のお題は「れい」。新元号にちなんだ、ひらがなのお題にチャレンジします。数字の0、礼儀正しい「礼」、霊魂に冷蔵庫にX-RAY(エックス レイ)、さまざまに趣向を凝らした「れい」が出そろいました。
首位をさらったのは面接でコチコチに緊張して礼をする心情をレイアウトできれいに表現した技巧派さん。ジョン・ケージも金子みすゞも飛び出す振幅の大きさに各班のディスカッションも沸きました。さいごは、班のなかでお互いの作品を読み合うミニ自己紹介タイムです。
文は人なり。お互いの文章を批評しあうことで、メンバー同士への親しみも湧き、次へとつながるチームビルディングをどの班も達成しました。
「サイキューコーカホー?」初めてお目にかかる概念です。それが今話題の機械学習につながると聞いて、生徒たちはぐいぐい引き込まれます。
とても高度な内容が3ステップで体感できるよう構成されています。
ホップ。まずは直感で原理を把握。「等高線と直交するように山を降りるルートを地図にトレースしてみてください。」
ステップ。「つぎにそのルートを数式で表現してみましょう。」これで直感に頼らず、計算でルートが表現できるようになります。
さいごに大ジャンプ。「この最急降下法を人工知能に応用してみましょう。」複雑な計算はコンピュータにまかせてシミュレーション実験してみると、「学習誤差」と「テスト誤差」の推移に違いが出ます。「ほんとうに最小化したいのはテスト誤差のほうですが、どんな工夫をしたら実現できるでしょうか。班ごとにディスカッションしてみてください。」
初めての概念に出会って、ときめいて、そこから最先端の機械学習まで射程を伸ばす—とてもチャレンジングな90分間でした。
初日の夜は、おなじみの分解チャレンジです。コーヒーメーカーやロードメジャーなど、これまで大物にもチャレンジしてきましたが、今年は手のひらサイズのカラフルでかわいいミニカーたち、そしてもっと身近なシャープペンシルが対象です。
工具も安全確保の備品も整えられたテーブルで、いざ分解スタート。小さな空間にぎっしり詰まったパーツたちのそれぞれが、しっかり個々の役割を果たしていることに驚かされます。ばねや歯車のメカニズム解明だけでなく、初速をどう付ければ距離はどのくらい走るか、坂道ではどうなるのか、シャープペンシルを振る強さと芯の出方の関係や、上に向けると芯の出方はどう変化するか、班ごとに工夫を凝らした性能試験も繰り広げられました。
翌日の午前は、その研究成果を5分間にまとめたプレゼンテーションです。今年はリハーサルの時間を設けたおかげで、時間切れになる班が少なく、タイム・マネジメントについてもきっちり体得できました。
エクスカーションで軽く運動したあとの第5チャレンジは、はるかな宇宙空間へ、惑星がどんなふうにしてできるかがテーマです。
惑星といっても成分はさまざまで、太陽系だけ見ても、地球のような岩石惑星、木星のような巨大ガス惑星、はじっこの海王星まで行くと巨大氷惑星とまちまち、他の恒星の惑星系にはさらに多様なパターンが見られます。
そんな個性ゆたかな惑星たちも、生まれるときは共通のプロセスをたどっているようで、その主役は何と塵なんです。塵といっても宇宙空間の塵は1ミクロン以下の微小サイズで、その塵がぐるぐる渦を巻いて円盤状になります。この塵が合体してより大きな塊をつくり、さらにその塊は惑星をつくります。残った塵の円盤の中をできたての惑星が通過すると、塵がはねのけられて円盤に溝ができます。この溝が観測できれば、その軌道上では惑星が誕生している可能性があるのです。
では問題です。ここに3つの溝をもつ塵の円盤があります。真上からでなく45度の角度から観測しても溝が見えるためには、円盤の厚み、もしくは薄さは、どの程度である必要があるのか、方眼紙に図を描いて理論値を計算してみてください。
観測と理論計算を組み合わせて、惑星誕生のメカニズムに迫る、スケール無限大のチャレンジでした。
鉄道から自動車へ、人間のたゆまぬ努力によって交通システムは進化してきました。今、交通システムを動かすためのエネルギーの確保、化石燃料を使ったときに発生する二酸化炭素による地球温暖化という難問にぶつかっています。また高齢化社会を迎え、安全性の確保も重要です。グラフを多用したカラフルな30分間レクチャーで現状の問題点を把握したあと、「さあ夢の交通システムを設計してみよう」、と各班に課題が投げかけられます。
夢だから何でもありだけれど、でも議論を拡散させないために、はじめに新システムの目標を定めてください。安全性?効率?省エネルギー?どれに重きを置きますか。
自由度を重視して、個人単位の乗り物を構想する班もあれば、ユニットをうまく組み合わせて効率性の高いシステムを設計する班もあります。いざ模造紙に絵柄を描こうとなると、女子生徒がリーダーシップをとる班が多かったのも印象的でした。夢の実現に必要な技術を丹念に書き入れて設計図の完成です。
「生きてるって、どういうこと?」とても大きな問題を考える手がかりにクラゲくんの登場です。無性生殖と有性生殖の2パターンが可能で、無性生殖なら不死が得られ、有性生殖は死が運命づけられます。そんな変わり種を紹介し、固定観念を揺るがせたあと、課題が提示されます。バクテリアとか冬眠マウスとか古代ハスの種とか、広い世界にはじーっとしてるだけの生物がいますが、彼らが生きてるか死んでるか、どう判別したら良いのか、その基準や方法をディスカッションしてみてください。
30分間の議論の末、顕微鏡で詳細に観察する、電気や薬品で刺激してみる、放置したら腐敗するか待ってみるなど、さまざまなアイディアが出ました。時間はかかっても非侵襲性に重きを置くか、ちょっと危険でも直接刺激を与えて確かめるかが悩みどころだったようです。とても奥深い問いに、クラゲくんと一緒に挑んだラスト・チャレンジでした。
令和の「れい」は始まりの0
「科学的なチャレンジが多い中で最初が文系で、意見をかわすというのが面白く、本イベントの知性の高さを感じた」
はじめまして最急降下法
「最急降下法と言う高校では習わない概念であるが、等高線と水の流れるルート、計算の方法、AIにおけるデータ計算の原理と、学んだことが最先端に繫がり興味深かった」
身近なモノを分解しよう~ミニカー×シャープペンシル
「全員ほぼ一度は観たことのある身近なものが題材だっただけに、細かい観察力が試された」
塵も積もれば惑星となる
「実際のおうし座HL星の円盤構造から、上から見た構造、横から見た構造、斜め45度からの構造を考えるなど、非常に興味深いお話だった」
未来の交通システム
「交通システムは、社会的なつながりも多く、またグループ課題が近未来の交通システムの定義ということもあり、今までの知識や講義の知識を用いるとともに、発想力も見られる面白いチャレンジだった」
生と死の分かれ目とは?
「生徒の生死のとらえ方が興味深かった」
※この記事は、2019年9月11日に東工大ニュースに掲載されたものです。