生命理工学系 News
生命理工学院 生命理工学系の太田啓之教授が、7月12日、第23回国際植物脂質シンポジウムにおいて2018年テリー・ガリアード・メダルを受賞しました。
テリー・ガリアード・メダルは2年に1度、植物脂質の分野における研究および当該コミュニティの発展に国際的に顕著な貢献をした研究者に与えられる賞です。今回の受賞は、太田教授の植物・シアノバクテリアにおける糖脂質合成経路※1とその制御機構、植物・藻類におけるリン欠乏ストレス下の油脂蓄積機構、植物の陸上化の鍵となる車軸藻植物※2のゲノム解読、植物ホルモンのジャスモン酸※3のシグナル伝達機構、植物における遺伝子共発現データベース※4構築に関するこれまでの太田教授の植物脂質研究すべてに対して授与されました。
テリー・ガリアード・メダルは、1974年の創設以来40年以上の長い歴史を持つ国際植物脂質シンポジウムで植物脂質科学研究者に与えられる最も名誉ある賞で、この会の創設者であるテリー・ガリアード氏が亡くなられた翌年の1994年に設けられました。それ以来、過去12人の受賞者がおられますが、日本人としては第1回の受賞者である基礎生物学研究所の村田紀夫名誉教授以来、24年ぶり2人目の受賞になります。今回の受賞は、この東工大で最初の指導学生として一緒に研究を立ち上げ、また現在の同僚でもある下嶋美恵准教授をはじめとする多くの卒業生や同僚と一緒に27年間行ってきた成果が認められたものです。特に私は、この東工大で、多くの才能ある東工大生の皆さんと一緒にこのように国際的に高く評価される一連の研究を行うことができたことを、何よりも嬉しく、また誇りに思います。
※1 糖脂質合成経路 : 植物の光合成を担う葉緑体は、光合成をおこなう重要な場であるチラコイド膜と呼ばれる葉緑体内部の膜の大半が糖脂質で作られており、その組成は、葉緑体の起源と言われるシアノバクテリアと極めてよく似ている。特にその主要成分のモノガラクトシルジアシルグリセロール(MGDG)は葉緑体の膜脂質のうち50%近くを占めており、植物のバイオマスの大きさから、地球上で最も大量に存在する極性脂質と言われている。1997年太田教授は、当時東工大生であった下嶋准教授らとともにこのMGDGを合成する酵素遺伝子を世界に先駆けて発見し、それ以来、その植物における機能や生合成の仕組みを明らかにしてきた。
※2 車軸藻植物 : 現在の陸上植物が、緑藻のような単細胞性の水生の藻類からどのように進化して陸上の激しい環境に適応できるようになったかを明らかにすることは、植物の進化の解明のみならず、動物の陸上進出の過程を考える上でも重要な課題である。車軸藻植物は緑藻とコケなどの基部陸上植物の中間に位置しており、現在植物の陸上進出研究のモデルとして世界中で注目されている。太田教授は国内の多くの研究者との共同研究を主導し、車軸藻の中でも最も原始的な仲間であるクレブソルミディウムに着目して、車軸藻ゲノムを世界に先駆けて解読し、ゲノム情報からその原始的な細胞表層脂質やホルモンの情報伝達の存在を明らかにした。
※3 ジャスモン酸 : 植物の葉緑体に存在する膜脂質中の脂肪酸から合成される脂肪酸由来の植物ホルモン。太田教授らは、ジャスモン酸でその発現が誘導される遺伝子群を網羅的に見出し、それらの機能の一端を解明するとともにジャスモン酸の前駆体である12-オキソフィトジエン酸がジャスモン酸と異なる機能を持つことも証明した。
※4 遺伝子共発現データベース : 生物のゲノム情報や発現情報を閲覧できるデータベースは一次データベースとして広く活用されている。一方、太田教授と現在東北大学の大林武准教授らは、大林准教授の東工大在学時に個々の遺伝子の発現の協調性を遺伝子の網羅的な発現情報をもとにその相関係数を指標として表し、初めて網羅的にデータベース化した。このようなデータベースは共発現データベースと呼ばれ、未知の遺伝子の機能解析や特定の代謝経路に関わる遺伝子の同定などに広く用いられている。現在世界中で様々な共発現データベースが作成され利用されている。