生命理工学系 News
本学と本学の同窓会組織である一般社団法人蔵前工業会は、2月17日にパレスホテル東京において、大隅良典栄誉教授ノーベル生理学・医学賞受賞記念祝賀会を開催しました。
祝賀会には、鶴保庸介内閣府特命担当大臣(科学技術政策)を始め、本学出身の衆参議員、樋口尚也文部科学大臣政務官、山脇良雄内閣府政策統括官、伊藤洋一文部科学省科学技術・学術政策局長、関靖直文部科学省研究振興局長、ノーベル賞受賞者で本学卒業生の白川英樹博士など680余名の大学関係者や蔵前工業会員が出席し、大隅栄誉教授の受賞を祝いました。
最初に主催者である三島良直学長から、大隅栄誉教授のノーベル賞の受賞は大変喜ばしく、受賞決定から学内が活気づいており、ノーベル賞の偉大さを改めて感じたとの挨拶がありました。続いて来賓代表として鶴保内閣府特命担当大臣から、出来る限り多くの思いを集約した新しい形の科学技術政策を仕立てていきたいとの力強いご祝辞の後、壇上で3つの樽を囲んで盛大に鏡開きが行われました。
吉田賢右本学名誉教授からは、大隅栄誉教授の研究は非常にユニークなものであり、酵母を目(光学顕微鏡)で見て、突然変異体を拾うというローテク、かつ小さな研究室の片隅でなされた研究でありながら、これまでの独創によって非常に大きな分野に発展してきたという現代では稀有な例であり、ノーベル委員会はほとんど悩むことなく単独授賞を決定しただろう、また、大隅栄誉教授を一つのチャンピオンとする日本の分子細胞生物学のレベルの高さを示すものである、との乾杯の発声で華やかな祝賀会がスタートしました。
大隅栄誉教授や萬里子夫人を囲んで、あちらこちらで談笑する姿が見受けられ、会場は祝賀ムードに包まれました。また、会場にはノーベル生理学・医学賞受賞メダルと賞状も展示され、記念写真を撮影する出席者も多数いました。
祝賀会は和気あいあいと進行し、最後に、基礎生物学研究所時代のゆかりのある方々から大隅栄誉教授夫妻への花束の贈呈が行われ、大隅栄誉教授から出席者へのお礼の挨拶がありました。
本日はご多忙の中、遠路はるばるこのような多数のご臨席を賜りまして、ありがとうございます。このたびの名誉あるノーベル生理学・医学賞の受賞に際しましては、全国津々浦々、友人はもとより60年ぶりの方、存じ上げない方も含め、世界中の方々から温かいお言葉と励ましをいただきました。皆さまにお礼も申し上げずに今日に至りましたことをお許しいただきたいと思います。
昨年の10月3日の発表以来、想像を超えるようなプレッシャーの中で日々を過ごしてまいりました。ストックホルムでの1週間はその日その日のスケジュールに追われて、今をもって全容が自分の中で把握できていないような感じですが、おかげさまでノーベルレクチャー、授賞式、晩餐会、ロイヤルバンケットなどの行事を終えることができました。ノーベル財団でこれまでの受賞者、教科書上の人物だとか学生時代に憧れた大先輩の方々のサインがされたノートにサインをする貴重な経験をいたしましたし、帰る前の日には雪の積もったノーベルのお墓に献花をすることができました。忘れえない大変貴重な経験をできたと思っております。
先ほども申し上げましたように怒涛のような1週間で、それぞれが断片的で、いつかゆっくり振り返ってその1週間をつなぐ作業をしてみたいと思っております。一方、私は、ノーベル賞は日本では特別な賞であるということもこの間、再認識させられる機会でもありました。押し寄せるマスコミとの対応とか、思いもかけない総理府、衆参両院、文科省、政党の訪問とか財界の方々とお話をする機会を与えていただきました。私は半年前と自分では何にも変わっていないと信じているのですが、日常の生活はなかなか元の生活を取り戻せないでおります。一方、3時には暗くなるスウェーデン・ストックホルムのノーベル賞週間は、多くの人々が受賞者に関する1人1人の1時間のテレビ番組を見たり、科学について考える週間であることも私は知ることができました。個人的には日本は少しノーベル賞に騒ぎすぎるのではないかと思っております。幸運に恵まれた研究者のことは少し置いておいて、この機会に科学とは何かということと、人類の未来はどういうような方向に進むべきだ、という議論が進んでほしいと個人的には思っております。
少しだけ私の研究テーマであるオートファジーについてお話しをさせていただきます。私がこの仕事を始めた頃は、オートファジーという言葉は生物学者の間でもほとんど知られていませんでした。最近はテレビ番組でもたびたびオートファジーという言葉が登場したりして、たくさんの報道を通じて、少しはオートファジーの理解が深まったことには大変ありがたいと思っております。私たち生命はいかに動的な存在で、たゆまない合成と分解の平衡で成り立っていて、分解が合成に劣らず重要な過程であるということが次第に認識されてまいりました。しかし、オートファジーの研究はまだ揺籃期にありまして、たくさんの解くべき課題が山積しております。ぜひ若い人がこの領域に参加していただけることを強く願っております。
私はこの間、基礎科学、大学が抱える問題、次の時代の科学の担い手の若手の問題、科学と社会の在り方について現在感じていることを率直に述べさせていただきました。世の中が忙しくなり、錯綜する情報の中で人が考えることを放棄して、単純な言葉や雰囲気に流される風潮が蔓延していることを私は恐れます。私は役に立つということを安易に若者が言う風潮にも大変危機を感じています。若者が未来に大きな夢を語らなければ、その社会は衰退すると思うからです。私が学生だった頃は、役に立たないことこそ大事なことだと言える幸せな時代だったと思っています。それは人類の未来に対して、もっと長いスパンで考えようということであったと思っています。確かに技術の進歩は素晴らしく、素晴らしい勢いで私たちの生活を変えています。しかし、私たちは100年後の自分たちの孫やその先の世代について十分に考えてみることが大切なのではないかと思っています。科学者は様々な謎解きに挑戦していますが、社会的には1人の人間でしかありません。しかし、私は、知が広がるということは人類の未来へのかけがえのない財産であると信じていますし、同時に、その成果や考え方をいかに多くの人々と共有できるかということが、私たちの未来を決める大事なことなんだろうと思っております。
私はこれまで大変な幸運に恵まれてまいりました。私は様々な人生の節目で絶妙なタイミングで、今堀先生、前田先生、安楽先生などの諸先生方、素晴らしい友人たち、そして分子生物学、酵母などに出会いました。何にもまして、オートファジーという現象は茫漠としていて汲めども尽きない奥深い課題で、あまり論理的ではなくて、対象に向き合いながら研究を進めてきた私にとっては最大の出会いであったと思っております。私の研究の原点は東大教養(学部)の小さな研究室にありますが、この20年間、基礎生物学研究所、東京工業大学で恵まれた研究環境と十分な研究のサポートをいただきました。それにもまして、研究を始めて以来40年、いつも素晴らしい研究仲間に巡り合うことができました。私の研究室の出身者が全国各地で独立して頑張ってくれていることも私にとってはこの上もなく幸せなことだと思っています。
暮れには思いもかけず、天皇陛下から温かいお言葉をいただき驚き入りましたが、早く普通の生活に戻れるように努力するつもりであります。残された時間で、オートファジーの謎をもう一度酵母に問いかけてみるということを進めると同時に、次の世代に何かのメッセージが残せるような研究をしてみたいと思っております。もう一つ、今の大学や研究者の研究環境が少しでも改善されて、楽しく長期的な視点をもって研究できるようなシステムの構築に努力をしたいと思っております。この点でも皆さまのご助言とご協力をいただければと思います。以上をもちましてわたくしの挨拶とさせていただきます。本日はどうもありがとうございました。
最後に、主催者を代表して蔵前工業会の石田義雄理事長より、本日のパーティーが時間の経過を忘れるほど気持ちの良い会となったことについてのお礼の挨拶がありました。
出席者には、大隅栄誉教授からオートファジー現象を発見した「酵母」にちなんだ記念品として、オートファジーの図柄のサイン入りラベルの日本酒が贈られ、賑やかな祝賀会は終了しました。
大隅良典栄誉教授が「オートファジーの仕組みの解明」により、2016年ノーベル生理学・医学賞を受賞しました。受賞決定後の動き、研究概要をまとめた特設ページをオープンしました。
「大隅良典記念基金」は、大隅栄誉教授がノーベル賞を受賞したことを機に、将来の日本を支える優秀な人材の育成などを目的として設立されました。学生の修学支援や若手研究者の研究支援などに活用します。