生命理工学系 News
12月10日(スウェーデン時間)、大隅栄誉教授らがストックホルムにて、ノーベル賞の受賞式、晩餐会に出席しました。大隅栄誉教授が招待したゲストの1人である本学、生命理工学院の中戸川仁准教授(生命理工学コース主担当)から届いた授賞式と晩餐会の様子をご紹介します。
12月10日(ノーベルの命日)、スウェーデン・ストックホルムにて、ノーベル賞の授賞式および晩餐会が開催されました。これらのイベントへは、本学の三島良直学長、益一哉科学技術創成研究院長と私を含む、大隅先生から招待された14名の公式ゲストが出席を許されました。
ドレスコードは燕尾服でした。7日の午前中に前もって、お決まりとなっているストックホルム市内の衣装店ハンス・アルデでレンタルしておいたこの非日常的な衣装を生まれて初めて身につけ(皆でこれが最初で最後だと笑いあいました)、出発前から自然と気分が高揚しました。雪が降り、日が暮れ始めた15時頃、大隅先生と奥様はノーベル財団の専用車で、私たちゲストは大型のバスで、例年、受賞者とゲストが滞在することになっているグランドホテルを出発しました。
授賞式の会場はストックホルム コンサートホールです。エントランスで招待状とID(パスポート)を提示して入ります。私たちは3階席に通されました。深い青色の絨毯が敷かれた壇上が眼下に飛び込んできました。
壇上には、過去の受賞者や審査員、王立アカデミーやカロリンス研究所の方々などが座る青い椅子、受賞者が座る赤い椅子、スウェーデン国王、王妃、王子、王女が座るひときわ立派な椅子が並べられていました。壇上の上段にはオーケストラが配置され、さらにその上には巨大なパイプオルガンがあり、その中央にはスウェーデンとノルウェーの国旗(平和賞はノルウェーで授与されるからでしょうか)をイメージさせるデザインの大きな装飾が取り付けられていました。会場は非常に荘厳な雰囲気に包まれ、しばしゆったりとその雰囲気を味わいました。1階席3列目右方に上品な着物姿の奥様とご子息2人の姿も見えました。
予定時刻である16時15分を過ぎ、壇上の列席者が揃った頃、アナウンスに合わせて参列者全員が起立し、王室の方々が入場されました。そして、素晴らしいオーケストラの演奏と共に大隅先生を含む今年のノーベル賞受賞者がゆっくりと入場してきました。大隅先生は、燕尾服姿に先日授与された文化勲章を掛けていました。普段とても気さくで身近な存在の大隅先生をこのような煌びやかな場で目にして、大隅先生がノーベル賞を受賞されたという事実が心に染みわたり、大きな感動に包まれました。
授賞式は、オーケストラが奏でる威厳溢れる音楽の流れの中で進行していきました。ノーベル財団のチェアマンのスピーチの後、物理学賞、化学賞、そして大隅先生が受賞された生理学・医学賞という順に授与が進みました。各賞の授与の前に、ノーベル財団の各賞の担当者が受賞理由を含むスピーチをスウェーデン語で行いました。参列者の手元にはスピーチの内容が英訳された冊子が配られていました。それによれば、会場であるコンサートホールが1926年に落成されてから、日々の修復やメンテナンスによりこれまで美しいまま維持されてきたことが挙げられ、そのことと大隅先生の受賞理由となった細胞内の恒常性維持に関わるオートファジーとを結びつけ、大隅先生の業績が具体的に紹介されていきました。
そしていよいよ、大隅先生の名前が読み上げられ、参列者全員が起立する中、メダルと賞状がカール16世グスタフ国王から大隅先生へと手渡されました。大隅先生はこれまでも数々の大きな賞を受賞され、私もいくつかの賞の授賞式に参列させていただいてきましたが、今回の授賞式は、これが科学者としての栄誉の頂点であり、他とは別格であることが強く感じられました。
ミュージシャン初の文学賞受賞者である米シンガー・ソングライターのボブ・ディラン氏の本人不在の授賞式と、ディラン氏から影響を受け、授賞式に代理参加したパティ・スミス氏による心打つ歌唱(歌が途切れて歌い直したトラブルも会場では温かい拍手で受け入れられていました)、そして経済学賞の授与を最後に、やはりオーケストラが奏でる演奏と共に授賞式は幕を閉じました。
授賞式終了後、息をつく間もなくバスに乗り、晩餐会の会場であるストックホルム シティホールに向かいました。ここでもID(パスポート)を確認されてから中に入ると、赤レンガ造りの巨大な長方形のホールに約1,300名分の席が用意されていました。自分の席をどうやって探せば良いのかと思っていたところ、66ページからなる小さな冊子が配られ、それが名前索引付きの席次表でした。ホールから長い階段が2階に向かって伸び、その先の壁沿いの通路が別室につながっていました。
そこから王室の方々や受賞者などの重要人物が入場し、中央の最も長いテーブルに着席されました。私たちゲストはそこから離れた10名座りのテーブルにつきました。晩餐会もオーケストラやコーラスなど常に音楽に彩られて進行しました。メニューは、前菜、メイン、デザートの3皿でした。どの料理も味にも盛り付けにも趣向が存分に凝らされ、美味しく、楽しみながら味わいました。飲み物はシャンパンに始まり、赤ワイン、そして最後にデザートワインが提供されました。また食後には、コニャックやスウェディッシュ・プンシュという爽やかな香りの甘いリキュールを楽しむことができました。これだけの人数の参列者に対して効率よく料理や飲み物を提供したり食器を片付けたりできるように、大勢の給仕係の動きがきっちりと統率されていたのも印象的でした。
食事が済むと、各賞の受賞者(複数の受賞者がいる場合は代表者1名)からのスピーチがありました。どの受賞者もユーモアを交えながら、それぞれの受賞に至るまでの経緯や関係した人々への感謝の言葉を述べていました。大隅先生は、まずカロリンスカ研究所とノーベル財団への感謝を、そして今年の他の受賞者へのお祝いの言葉を述べられました。また、自身が約40年にわたり酵母という生き物と向き合いながら研究を続けてきたこと、そして、研究成果だけでなく、大隅先生の大好きなお酒を作り出すのも酵母であるということで、酵母からの数々の恩恵に感謝していると話し、会場は和やかな笑いに包まれました。そして大隅先生が始められた非常に基礎的な研究が、多くの研究者により、病気の克服と関連するような研究にまで発展したことに大きな幸福を感じていることを述べ、これまでの多くの共同研究者、そして大隅先生を見守ってきたご家族への感謝を表し、スピーチを締めくくられました。その素晴らしいスピーチに胸が熱くなりました。
王室の方々、受賞者などが階段を上がり、2階の別室へと退場された後、晩餐会はお開きとなり、そのまま2階のゴールデンホールという大きな部屋で舞踏会が始まりました。少しだけ中を覗いてみると、思ったよりもテンポの速い賑やかな曲に合わせて参加者が思い思いにダンスを楽しんでいましたが、私たちはそれよりも、ホールの端のショーケースに収められていたメダルと賞状に見入りました。改めてまた、大隅先生がノーベル賞を受賞されたという実感が湧いた瞬間でした。
以上のように、通常一生かかっても経験できない多くのことを、大隅先生のおかげで経験することができました。私たちはゲストという気楽な立場で思う存分この貴重なイベントを堪能しましたが、やはり大隅先生は大いにお疲れの様子でした。この翌日にはまだ王宮での晩餐会などを控え、その後ようやく帰途につかれる予定とのことでした。帰国後、なかなか以前のとおりとはいかないと思いますが、できるだけ早く、大好きな研究に没頭できる環境に戻って欲しいと願っています。
大隅良典栄誉教授が「オートファジーの仕組みの解明」により、2016年ノーベル生理学・医学賞を受賞しました。受賞決定後の動き、研究概要をまとめた特設ページをオープンしました。