生命理工学系 News
平成28年度第4回 蔵前ゼミ印象記
7月15日にすずかけ台キャンパスJ221講義室にて、平成28年度第4回の蔵前ゼミ(通算第58回)が開催されました。
蔵前ゼミは同窓生による学生・教職員のための講演会です。
日本社会や経済をリードしている先輩が、これから社会に出る学部生・大学院生に熱いメッセージを送ります。
卒業後の進路は?実社会が期待する技術者像は?卒業後成功する技術者・研究者とは?など、就職活動とその後の人生の糧になります。
当日の印象記を、博物館の広瀬茂久特命教授が綴りました。その一部をご紹介します。
物静かで淡々とした語り口が一瞬途切れた。「柿沼さん、効きました!」と言って同僚が駆け込んできた時の様子を伝える場面だったが、高まる感情を抑えきれなかったのだ。柿沼さんが合成した有機化合物(コード名:TS-033)が糖尿病の治療薬になる可能性があるか否かの運命の実験がポジに出たとなれば、「薬理効果を測ってくれていた同僚が、測定機から打ち出されたばかりの記録紙を引きちぎって...」というくだりで声が詰まるのも無理はない。自分もこんな経験をしてみたいと決意を新たにした学生も多いだろう。
薬の開発は“千三”(せんみつ)といわれる。候補分子(シード化合物)が見つかっても最終的に薬になるのは1,000に3つ程度しかないからだ。低濃度で効き、副作用がなく、かつ比較的安価に、しかも大量に合成できなくては薬としては使えない。大部分の候補分子は、これら第2、第3の壁を越えられずに消えていく。柿沼さんのTS-033も臨床試験結果が不十分となり、開発中止の寸前まで追い込まれた。当初は数名いた開発メンバーも柿沼さん一人になった。柿沼さんが打った最後の逆転の一手とは?そしてその実現のために、ワインを持って訪ねた先とは?以下、柿沼さんの略歴をたどりながら詳しく見てみよう。
創薬という“イバラの道”を歩むのは大変だが、その分、成功した時の喜びは大きい。演者の柿沼さんは「情熱」という言葉を一度も使わなかったのに、講演後のパネルディスカッション『社会で活き活きと活躍するためには何が必要か』では、学生は皆「情熱」に触れていた。言葉(美辞麗句)が躍る現代社会にあって、何よりも大事なのは中身であることを再認識させてくれた講演でもあった。導入部の会社紹介で登場した『紳商』という言葉も印象的だった。
結びの言葉にも触れておこう:「久しぶりに学生時代を過ごした建物を見ると、今の自分があるのは東工大のお陰と感謝の念が込み上げてきます。今日紹介したのは東工大の伝統から生れた医薬品と言っていいでしょう。皆さんも是非研究室生活を大事にし、そこに根を張り、貪欲に吸収して、将来の糧としてください」。
印象記のつづきは以下のPDFよりご覧ください。