生命理工学系 News
田中(寛)・今村研究室の今村壮輔准教授(ライフエンジニアリングコース主担当)、粂・白木研究室の白木伸明准教授、金原研究室の村岡貴博助教(共に生命理工学コース主担当)の3名が、平成28年度東工大挑戦的研究賞を受賞しました。
挑戦的研究賞は、本学の若手教員の挑戦的研究の奨励を目的として、世界最先端の研究推進、未踏の分野の開拓、萌芽的研究の革新的展開又は解決が困難とされている重要課題の追求等に果敢に挑戦している独創性豊かな新進気鋭の研究者を表彰するとともに、研究費の支援を行うものです。本賞を受賞した研究者からは、数多くの文部科学大臣表彰受賞者が生まれています。
化石燃料の使用により、地球温暖化が深刻さを増す現状において、化石燃料に替わる再生可能エネルギー生産の確立が急務となっています。
藻類は、バイオ燃料の原料となる油脂を細胞内に高蓄積します。 また、藻類は大気中の二酸化炭素を固定して増殖するため、藻類油脂を用いたエネルギーは、再生可能エネルギーの一つとして注目されています。 一方、藻類を用いた商業的バイオ燃料生産を実現するための大きな障壁は、高い生産コストです。
藻類を用いたバイオ燃料生産を実現するための、分子生物学的手法による一つの解決策は、藻類が合成する油脂の生産量の向上です。そのためには、油脂生合成系の制御機構の基盤情報が必要不可欠となります。
今村氏は、TOR(target of rapamycin)キナーゼが、藻類油脂生合成のON/OFF を切り替える“スイッチタンパク質”であることを初めて発見し、更に、その知見を基盤として、油脂生産性を向上させた藻類株の育種への取り組みが高く評価されました。
近年、健康と疾病の素因は受精時から乳幼児期に決定されるというDOHaD(Developmental origins of health and disease)という概念が提唱されています。DOHaDに関しては、疫学、動物実験、分子レベル等多方面にわたって積極的に研究されていますが、ヒトにおいて妊娠時の外的環境が成人後の健康・病気に与える影響を実験学的に検証することは非常に困難です。白木氏らは、これまでに肝臓・膵臓・小腸への独自のiPS細胞分化誘導方法を開発し、この手法を用いてヒト幹細胞の未分化維持および分化にはアミノ酸の一種であるメチオニンが重要な役割を担っていることを明らかにしました。本研究では、ヒトにおいては疫学以外に実験学的エビデンスが乏しいDOHaD研究領域に対して発生過程を模倣するヒトiPS細胞分化系と栄養因子除去培地という独自のツールで検証を行ったことが高く評価されました。
2つの相反する性質から成るドメインが交互連結されたマルチブロック構造は、天然のタンパク質に広く見られます。例えば、膜貫通タンパク質は、親水性ドメインと疎水性ドメインとの交互連結構造を有し、膜貫通構造へのフォールディングと物質透過などの機能発現につながっています。またエラスチンでは、剛直なドメインと柔軟なドメインのマルチブロック構造が見られ、特徴的な弾性機能が実現されています。村岡氏は、こうした幅広い機能発現に関わるマルチブロック構造に注目し、独創的な機能性分子、材料開発を行っています。特に、現在精力的に推進しているマルチブロック型構造に基づく膜機能化分子の開発、さらに温度変化に応じて多形を示す動的結晶材料の開発に関する研究が高く評価されました。