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【創発的研究支援事業紹介】No. 7 藤泰子 准教授

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2024.04.08

生命理工学院の教員が研究代表を務める研究課題が創発的研究支援事業に採択されました。創発的研究支援事業は、特定の課題や短期目標を設定せず、多様性と融合によって破壊的イノベーションにつながるシーズの創出を目指す「創発的研究」を推進するため、既存の枠組みにとらわれない自由で挑戦的・融合的な多様な研究を、研究者が研究に専念できる環境を確保しつつ長期的に支援する文部科学省の事業です。

採択された教員をクローズアップしてご紹介するシリーズ記事(全7回)を連載いたします。全7回のうち、第7回目は“植物のエピゲノムパターン構築機構の解明と応用”の研究課題の研究代表を務める藤泰子 准教授です。

藤泰子 准教授

藤 泰子 准教授

居室 B2棟928号室
E-mail to.t.ab@m.titech.ac.jp
Tel/Fax 045-924-5818

-まず、藤先生の研究テーマを聞かせて下さい。

 私たちの研究室では、「エピジェネティクス」の探求により、植物の生育や環境適応性を革新し、植物の世界に革命をもたらす可能性を追求しています。

 多細胞生物の一個体内の細胞は、基本的に同じDNA配列を持ちます。細胞に固有の形質を発現させるためには、細胞毎に特有の遺伝子を使いわける必要があり、それを可能にするのが「エピジェネティクス」です。エピジェネティクスとは、DNAやヒストンタンパク質に化学修飾を施して、DNA配列の変化を伴わずに遺伝子の活性状態を規定する仕組みです(図1)。その制御の中核は多くの真核生物に保存され、生殖、発生、環境応答など様々なプロセスにおいて重要な役割を果たします。

 多くの生物のゲノムDNA(全遺伝情報)には、生命機能に必要な遺伝子だけでなく、転移因子やウィルスなどの潜在的に有害な配列も多量に含まれます。そのため生物は、これらをきちんと見分け、それぞれに適したエピジェネティック修飾を施して、その発現を制御します。この制御機構に異常や破綻が生じれば、発生異常や癌などの疾患を誘発してしまいます。それだけ重要であるにもかかわらず、生物がゲノム内の遺伝子と有害配列をどのように見分けるのか? いつ、どの細胞で見分けるのか?外から新しく有害配列が侵入した場合はどうなる?など、今だに多くの謎が未解決のまま残されています。

 私たち藤研究室では、多くの生物学的イベントを司る根幹機構「エピジェネティクス」について、植物や分裂酵母(図2)を実験材料に用いて、基礎と応用の両面から、精力的に研究を展開しています(図3)。特に、生物がエピジェネティック修飾を介して遺伝子や有害配列を適切に制御する仕組みや、そうした修飾がどのように次世代へと遺伝するのか、環境変動がエピゲノムパターンに与える影響などを解明しようとしています。加えて、こうした基礎研究の成果を軸として、人為的エピゲノム編集技術の開発にも挑戦しています。得られた新技術を、モデル生物だけでなく作物や動物細胞にも応用展開し、SDGs達成や医療技術開発にも貢献していくことを目指しています。

-この研究を始めたきっかけを聞かせて下さい。

 私は、中学生の頃から、地球環境問題(砂漠化)を分子生物学の力で解決することを夢見てきました。その夢は、実は今でも持ち続けています。しかし一方で、私の研究信念は「基礎的な研究ほど応用の近道」です。社会貢献が可能な応用に最終目標を据えつつも、常に、出来る限り根本的な視点から物事を捉えるよう努めてきました。そうした信念のもと、学位取得後は植物科学研究を実社会で利活用する障壁「遺伝子組換え生物(GMO)問題」に基礎から取り組むため、遺伝子組換えをせずに遺伝子発現を操作し得るDNAメチル化に焦点をあて、植物がどのように遺伝子と有害配列を正しく識別し、エピジェネティック修飾を適切に施して、正しいエピゲノムパターンを構築するのか、その機構を解明しようと研究活動を行なってきました。その一連の成果は、新たなDNAメチル化構築経路の発見をはじめ、これまでの植物エピジェネティクスの常識を覆す結果であり、分野に大きく貢献しただけでなく、応用展開への足がかりとなりました。

-今回の創発的研究支援事業で取り組まれる具体的な研究内容を聞かせて下さい。

 DNAメチル化などのエピジェネティック修飾は、長期的な遺伝子抑制状態を記憶する情報としてはたらきます。動植物のゲノムに多く含まれる転移因子やウイルス等の有害配列に特異的に蓄積して、その発現の抑制に寄与します。本事業では、植物が遺伝子と有害配列を正しく識別して、DNAメチル化などの抑制的なエピジェネティック修飾をゲノム上に正しく構築する機構の解明を目指しています。また、その基礎研究の成果を軸とした、生物種横断型の人為的エピゲノム編集技術の創出にも取り組みます。その発展的応用によって、SDGs達成に貢献しうる“GMOフリー” な有用植物作出技術の開発に挑戦します。

-今後の目標を聞かせて下さい。

 エピジェネティクスは、遺伝子の発現制御をはじめ、生殖やストレス応答など、様々な生命現象を司る重要な仕組みです。「基礎的な研究が応用の近道」とする私の研究モットーに基づいて、これまで一貫して行ってきた植物エピジェネティクスの基礎研究をさらに発展させるとともに、培ってきた経験を最大限に活かして応用的研究を展開し、持続的社会に貢献できるよう、研究に邁進していきたいと思います。こうして創出された技術は、遺伝子組換えフリーな遺伝子発現改変型農作物の作出などの植物における応用展開に加えて、動物にも適用可能です。植物研究を発端とした新規医療技術の創出も将来的な目標の一つに掲げて、日々研究活動に勤しんでいます。

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