融合理工学系 News

村上研究室 -研究室紹介 #21-

脱炭素に貢献する環境・エネルギーの次世代技術を創る

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2022.09.22

研究室紹介シリーズでは、ひとつの研究室にスポットを当てて研究テーマや研究成果を紹介します。今回は、人類の未来をひらくネクスト・エネルギーの研究開発を行う、村上研究室です。

村上陽一 教授

地球環境共創コース・原子核工学コース
研究室:大岡山キャンパス・北1号館 409号室
教授 村上陽一別窓

構成:研究室ウェブサイトの「メンバー」ページ別窓参照。
本ページの末尾
に集合写真があります。

研究分野 材料科学/環境・エネルギー科学/熱流体工学/計算科学
研究キーワード 次世代CO2吸収材/全固体電池素材/エネルギー変換/システム設計/量子化学計算
Webサイト 村上研究室別窓

研究室のアピールポイント

学生さん同士の仲もよく、指導教員に気軽に相談や打ち合わせができる風通しの良い雰囲気の研究室です。環境・エネルギーの科学と工学を学べ、実験と学術の両輪から自分の将来のスキルの基盤をしっかりと形成することができ、理工人として成長することができます。研究テーマは多様なテーマから自分の志向に合ったテーマを選ぶことができます。実験装置は特に充実しています。この研究室は2022年4月にゼロカーボンエネルギー研究所内にできたばかりの新しい研究室です。(村上は来年度から融合理工学系の授業を担当開始します。なので今まで授業で皆さんに会ったことはありません。)

研究テーマ

共有結合性有機骨格を用いた新技術開拓

「共有結合性有機骨格(Covalent Organic Framework, COF, コフ)」というのは聞きなれない言葉だと思いますが、これは近年非常に多くの応用可能性が提案・追求されており、海外ではここ数年研究が急速に活発化している新世代の材料ジャンルです。COFは、以下の図のように、基本単位として選択した「ビルディングブロック分子」を規則的に相互に共有結合させて構築する「分子の幅の棒からなるナノスケール構造のジャングルジム」であり、骨格(棒)とナノ孔(隙間)の両方が様々な応用に利用できます。

共有結合性有機骨格のイメージ図

これは(i) 原料ビルディングブロック分子の狙いに沿った選択により、COFの孔サイズ・骨格構造・発現機能・物理特性をある程度予測的にデザイン可能、(ii) 全体が共有結合で形成されるので高い安定性と耐熱性をもつ、(iii) 炭素・水素・窒素・酸素などの軽元素のみからなるので環境に優しく廃棄が容易、(iv) ナノ多孔体なので材料内部を輸送路・貯蔵空間・触媒などに利用可能、といった特長を備える、デザインフレキシビリティが極めて高い究極の材料系です。私たちはこれを3種類の応用(全固体電池、CO2吸着材、蓄熱材)に展開中で、次世代の環境・エネルギー技術として社会実装を目指しています。
本テーマは手を動かすモノづくり、観察、測定、量子化学計算が関係します。最近期間の長い科研費に採択され、企業からの委託研究も始まりました。この取り組みを担当してみたい人を募集します。最大限のサポートをします。

冷却しながら発電を行うフロー熱電発電

世の中には、データセンターのCPUや電気自動車のパワー半導体などで「どんどん出てきてしまう熱」「積極的に除かなければならない熱」が大量に存在しています。これらは排熱といいます。出ないのが理想なのですが、必然的に発生し、取り除かないと機器故障や動作不良を起こす「やっかいな熱」です。一方、熱もエネルギーの一種ですから、やっかいとはいえ「もったいない」側面もあります。しかし、今までは冷却の緊急性の陰に隠れ、この「もったいない」への対処が行われてきませんでした。いわば技術発展の歴史における「盲点」として残っていた未解決課題です。
私たちは数年前から、まだ世界の誰も取り組んでいなかったこの盲点問題に取り組み、解決への挑戦を始めました。誰もやっていなかった事なので、やることなすこと未知だらけで不安も大きかったのですが、それを突破し、現在では世界からこの分野のパイオニアとして認知されています。
今、新しいコンパクトなフローシステムを設計しようとしています。最近ある予算に採択されたので今後数年間は行います。メカCAD設計、熱流体システム構築、熱流動シミュレーション、電気化学、熱利用に興味がある人、一緒にやりましょう。以下にイメージ図を示しておきます。

冷却しながら発電を行うフロー熱電発電のイメージ図

太陽光で使えていない波長部分を使える波長にする、光エネルギー変換

高校のとき、光は粒(光子、フォトン、photon)から成り立っていると学んだと思います。例えば同じ1ワットの光でも、短波長の紫外線は日焼けする(作用が強い)のに対し、長波長の赤外線では日焼けしない(作用が弱い)ですね。これは、「1ワットという大きさのラウンドケーキ」があったとき、ケーキを一切れあたり大きく切ったのが紫外線で、小さく切ったのが赤外線で、今の例えだとケーキ一切れがフォトン、一切れのサイズがフォトンのエネルギーつまり作用力になります。この「作用力」が重要で、それが十分かどうかで太陽電池なら「材料を励起して電流を作れるかどうか」、人工光合成なら「化学反応を起こして人工燃料や糖を作れるかどうか」、水分解水素製造なら「光触媒を活性化して水の分解を起こせるかどうか」が決まります。
大事なのは、フォトンのエネルギーが材料の「しきい値エネルギー」を上回っていないと、たとえ入射する光エネルギーの量がどれだけ多くとも利用されないという点です。このため、現在では色々な波長が混じった太陽光スペクトルのうちの「短波長側のごく一部」しか利用できていません。これが太陽光エネルギーの利用効率が現在高くない理由となっています。
では、今利用できておらず無駄になっている、ある大きさ以下のケーキの一切れを互いにペアにしてくっつけて「大きなケーキの一切れ」を作ればいいのではないか?と思った人、鋭いです。それがフォトン・アップコンバージョン(Photon Upconversion, UC)です。UCは今使えていない長波長光(低エネルギーのフォトン群)を、ナノレベルのエネルギー移動を上手く使って作用力の高い短波長光へと変換する、新世代の光変換技術です。下にUCのイメージを示します。

フォトン・アップコンバージョンのイメージ図

今まではトルエンなどの有機溶媒溶液の形態が多く、これでは可燃性・揮発性・蒸気毒性などから応用は難しかったのですが、最近私たちは、以前にはできると思われていなかった高性能を示す全固体化に成功しています(イメージの下半分)。これはUC効率が非常に高く、安定性があり、自然太陽光の強度以下でUCが行える革命的な開発成果です。本成果は英国王立化学会の論文賞受賞別窓に加え、以下ニュースサイトで紹介されています。

こちらも最近ある企業との共同研究が始まりました。このような光エネルギーの材料革命を担当してみたい人を募集しています。

出版リスト

代表論文:

  1. "Ionic Additive Strategy to Control Nucleation and Generate Larger Single Crystals of 3D Covalent Organic Frameworks,"のアイキャッチ画像

    [1]  "Ionic Additive Strategy to Control Nucleation and Generate Larger Single Crystals of 3D Covalent Organic Frameworks," Chemical Communications, vol. 57, pp. 6656–6659, 2021.
    DOI : https://doi.org/10.1039/D1CC01857D別窓

  2. "Thermogalvanic Energy Harvesting from Forced Convection Cooling of 100–200 °C Surfaces Generating High Power Density,"のアイキャッチ画像

    [2] "Thermogalvanic Energy Harvesting from Forced Convection Cooling of 100–200 °C Surfaces Generating High Power Density," Sustainable Energy and Fuels, vol. 5, pp. 5967–5974, 2021.
    DOI : https://doi.org/10.1039/D1SE01264A別窓

  3. "van der Waals Solid Solution Crystals for Highly Efficient In-air Photon Upconversion under Subsolar Irradiance,"のアイキャッチ画像

    [3]  "van der Waals Solid Solution Crystals for Highly Efficient In-air Photon Upconversion under Subsolar Irradiance," Materials Horizons, vol. 8, pp. 3449–3456, 2021.
    DOI : https://doi.org/10.1039/D1MH01542G別窓

  4. "Kinetics of Photon Upconversion by Triplet-Triplet Annihilation: A Comprehensive Tutorial,"のアイキャッチ画像

    [4]  "Kinetics of Photon Upconversion by Triplet-Triplet Annihilation: A Comprehensive Tutorial," Physical Chemistry Chemical Physics, vol. 23, pp. 18268–18282, 2021.
    DOI : https://doi.org/10.1039/D1CP02654B別窓

  5. "Thermoelectrochemical Seebeck coefficient and viscosity of Co-complex electrolytes rationalized by the Einstein relation, Jones–Dole B coefficient, and quantum-chemical calculations,"のアイキャッチ画像

    [5]"Thermoelectrochemical Seebeck coefficient and viscosity of Co-complex electrolytes rationalized by the Einstein relation, Jones–Dole B coefficient, and quantum-chemical calculations," Physical Chemistry Chemical Physics, vol. 24, pp. 21396–21405, 2022.
    DOI : https://doi.org/10.1039/D2CP02985E別窓

主な著作:

書籍ではないですが、色々一般向けの解説を発表しています。

  1. [1]東工大模擬講義 「なぜ熱力学を学ぶのか」|YouTube別窓

    (以前工学院代表として行ったオープンキャンパス模擬講義。熱力学は、おかしな環境・エネルギー技術や研究主張を信じてしまわないためにも極めて重要な基礎学術です。)

  2. [2]河合塾みらいぶっく「究極の有機固体『COF』で革新的な機能材料を創ろう」別窓

    (理系志望の高校生向けの記事。理系大学生向けでもある。)

  3. [3]機械学会 未来マッププロジェクト「『空気をきれいにする車』の技術的バックキャスト別窓

    (日本機械学会創立120周年記念事業の一環)

  4. [4]機械学会 未来マッププロジェクト「地球を冷やす機械 2:機械の具体的な検討」別窓

    (日本機械学会創立120周年記念事業の一環、上の第2弾)

教員からのメッセージ

  • 村上陽一 教授より

脱炭素、カーボンニュートラルに貢献する新技術の開発は人類の存続をかけた緊急の課題であり、今の社会・世界からの重要な要請です。私たちは大学ならではのフロンティア開拓に果敢に挑戦しています。行っていることが本質的に新しいので充実感と開拓感を持てることは保証します。企業との連携もあります。皆さんが自分の研究を支障なく遂行できるように指導教員から適宜助言や打ち合わせを行い、皆さんが自発的に研究できる手助けをしますので、未知のテーマでも安心して頂いて大丈夫です。やりたいという気持ちの方が大事です。研究の過程で皆さんが自分ならではの物事の見方、論理的考え方、スキルを育成し成長して頂ければ良いと思います。メッセージを読んでくれた学生さん、試しに見学のコンタクトをとってみて下さい。お会いできるのを楽しみにしています。

雰囲気の参考:最近の集合写真、学外ゼミ、学会での授賞式後、レクリエーションなど。

雰囲気の参考:最近の集合写真、学外ゼミ、学会での授賞式後、レクリエーションなど

お問い合わせ先

教授 村上陽一

E-mail : murakami.y.af@m.titech.ac.jp

この内容は掲載日時点の情報です。最新の研究内容については研究室サイト別窓をご覧ください。

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