融合理工学系 News
自然エネルギー100%の電力システムへの道筋を描く
研究室紹介シリーズでは、ひとつの研究室にスポットを当てて研究テーマや研究成果を紹介します。今回は、高比率の再生可能エネルギーの統合シナリオの分析や数理社会学の応用による再生可能エネルギーの社会受容性の研究を行う、分山研究室です。
研究分野 | エネルギー政策 / 電力システム / 地熱発電 |
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研究キーワード | 再生可能エネルギー / 電力システムモデル / 政策調和 / 地域合意形成 |
Webサイト | 分山研究室 |
将来の100%再生可能エネルギー電力システムの全体像を描くために、線形計画法による経済負荷配分モデル、ユニットコミットメントモデル、市場モデルと系統モデル、GIS・地球統計学などを使用して、2030年から2050年までの再生可能エネルギーの導入拡大シナリオを分析します。電力需給や地理情報など各種データを活用して、分析対象にあわせたモデルを構築することで、電力コスト、再エネ比率と出力制御量、電力市場や電力系統、土地利用への影響を分析することができます。
自然資源は人類や社会が共有する有限の資源であり、個人の配慮のない行動によって資源が損なわれる危険性にさらされています。E・オストロムは、資源枯渇の悲劇を招かない方法として地域による自治管理を挙げ、これを機能させるための条件を示しました。オストロムは一方で、規制による資源保護には限界があることに言及しています。しかし今後、情報技術や新規技術の活用によって新しい資源管理や合意形成の可能性が考えられます。本研究室では、日本やケニアの地熱発電所をフィールドとして、新規技術の活用と数理社会学的な制度設計による、持続可能な資源管理と将来の地域合意形成の在り方を研究しています。
脱炭素社会の構築へ向けて必要となる再生可能エネルギーや蓄電池、水素燃料技術などはまだ新しく比較的コストが高い技術であり、普及拡大が進みにくいことがあります。しかし、このような新技術の社会実装では、従来型の技術を前提とした政策が障壁の一つになっていることもあります。実際に、近年の再生可能エネルギーの導入拡大においては、従来型電源によって先着優先で確保された系統の利用権が、より効率的な系統運用を阻んでいることが明らかになり、系統運用方法が変わりました。本研究室ではモデル分析や政策研究によって新技術の社会実装を促進するためカギとなる政策を明らかにします(著作[1]など)。
限界費用ゼロの再生可能エネルギーが支配的な将来のエネルギーシステムでは、グリッド上に多くのプロシューマーが存在し、エネルギーの新しい取引、需給調整、決済、および消費が期待されています。工学、経済学、コンピューターサイエンス、人工知能、数理社会学を用いた学際的アプローチにより、将来のエネルギー技術とグリッドを提案します。
太陽光発電や風力発電など変動型の再生可能エネルギーの導入拡大によって、これまで火力発電が担っていた調整力の確保が課題となります。本研究では再生可能エネルギーの導入拡大時の2030年の系統モデルを構築し、大規模電源脱落時の系統周波数への影響を分析しました。分析の結果から、大規模電源脱落時のブラックアウトのリスクを低減するために再エネの瞬時供給比率に上限を設けることの効果などを明らかにしました。本研究は国内外の政策シンクタンク、系統運用事業者との共同研究として実施しました(論文[1])。
発電における燃料費がゼロである太陽光発電や風力発電などの導入拡大は、電力市場価格の低下につながります。本研究では電力系統制約を考慮した電力市場モデルを用いて、各エリアの需給と短期限界費用価格を評価します。短期限界費用価格は電力の前日スポット市場価格を決める主要因となります。そこで、モデルを用いて将来の短期限界費用価格を分析することで発電、蓄電の事業採算性の見通しを明らかにすることができます。本研究は国内のシンクタンクや発電事業者との共同研究を行いながら実施しています(論文[2])。
欧州や北米では電力をより経済的かつ安定的に利用するために国を越えた送電網が構築されてきました。近年は、再生可能エネルギーをより安価に、大量に、無駄なく活用するための方策としても、国際的な送電網の拡大が検討されています。本研究では、日本と韓国をつないだ電力市場モデルを構築し、日韓の国際送電線構築によるメリットを分析しました。国際送電網を九州や中国地方など、どの地点に接続するかによって期待されるメリットが変化しうることを明らかにしました(論文[3])。
本研究室は2022年度にスタートしました。まだ新しく少数精鋭の研究室のため、指導教員と対面でもオンラインでも気軽に打ち合わせができます。指導教員は、これまで研究者として国の政策を研究したり、コンサルタントとして自治体や事業者の取り組みをサポートしたり、様々な面から再生可能エネルギーの導入拡大に取り組んできました。脱炭素社会の構築へ向けてはまだ課題が山積みです。しかしモデル分析や政策研究によって、意外なところに問題解決のきっかけが見つかることがあります。「自然エネルギー100%の電力システムへの道筋を描く」という大きな目標のもとで、一緒に問題解決に取り組んでみませんか。
※この内容は掲載日時点の情報です。最新の研究内容については研究室サイトをご覧ください。
※11月22日 14:35 研究室のURL変更にともない研究室サイトのリンク先を修正しました。