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分山研究室 -研究室紹介 #22-

自然エネルギー100%の電力システムへの道筋を描く

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2022.10.12

研究室紹介シリーズでは、ひとつの研究室にスポットを当てて研究テーマや研究成果を紹介します。今回は、高比率の再生可能エネルギーの統合シナリオの分析や数理社会学の応用による再生可能エネルギーの社会受容性の研究を行う、分山研究室です。

分山達也准教授

エネルギーコース
研究室:大岡山キャンパス・南6号館 217号室
准教授 分山達也別窓

構成(2022年10月現在):博士後期課程 1名

研究分野 エネルギー政策 / 電力システム / 地熱発電
研究キーワード 再生可能エネルギー / 電力システムモデル / 政策調和 / 地域合意形成
Webサイト 分山研究室別窓

研究室のアピールポイント

  • 自然エネルギー100%の電力システムの実現へ向けて、学生の皆さんの問題認識や関心をもとに研究テーマを選定します。
  • 学生の皆さんが対象分野の学問的理解と研究手法を身につけるとともに、脱炭素社会の構築へ向けた課題について理解を深めることを目標としています。
  • 国内外のシンクタンクや発電事業者との共同研究を実施しています。

研究テーマ

電力システムのモデル分析

将来の100%再生可能エネルギー電力システムの全体像を描くために、線形計画法による経済負荷配分モデル、ユニットコミットメントモデル、市場モデルと系統モデル、GIS・地球統計学などを使用して、2030年から2050年までの再生可能エネルギーの導入拡大シナリオを分析します。電力需給や地理情報など各種データを活用して、分析対象にあわせたモデルを構築することで、電力コスト、再エネ比率と出力制御量、電力市場や電力系統、土地利用への影響を分析することができます。

モデルの例:発電所・需要・気象データを条件にコスト最小化する電源構成を分析

モデルの例:発電所・需要・気象データを条件にコスト最小化する電源構成を分析

再生可能エネルギー利用の地域合意形成

自然資源は人類や社会が共有する有限の資源であり、個人の配慮のない行動によって資源が損なわれる危険性にさらされています。E・オストロムは、資源枯渇の悲劇を招かない方法として地域による自治管理を挙げ、これを機能させるための条件を示しました。オストロムは一方で、規制による資源保護には限界があることに言及しています。しかし今後、情報技術や新規技術の活用によって新しい資源管理や合意形成の可能性が考えられます。本研究室では、日本やケニアの地熱発電所をフィールドとして、新規技術の活用と数理社会学的な制度設計による、持続可能な資源管理と将来の地域合意形成の在り方を研究しています。

ケニアオルカリア地熱発電所と温水プール,JST-JICA SATREPS「東アフリカ大地溝帯に発達する地熱系の最適開発のための包括的ソリューション」にて実施

ケニアオルカリア地熱発電所と温水プール

  1. JST-JICA SATREPS「東アフリカ大地溝帯に発達する地熱系の最適開発のための包括的ソリューション」別窓 にて実施

環境・エネルギー技術の社会実装にむけた研究

脱炭素社会の構築へ向けて必要となる再生可能エネルギーや蓄電池、水素燃料技術などはまだ新しく比較的コストが高い技術であり、普及拡大が進みにくいことがあります。しかし、このような新技術の社会実装では、従来型の技術を前提とした政策が障壁の一つになっていることもあります。実際に、近年の再生可能エネルギーの導入拡大においては、従来型電源によって先着優先で確保された系統の利用権が、より効率的な系統運用を阻んでいることが明らかになり、系統運用方法が変わりました。本研究室ではモデル分析や政策研究によって新技術の社会実装を促進するためカギとなる政策を明らかにします(著作[1]など)。

系統ルールの転換:先着優先から経済性重視の運用へ

系統ルールの転換:先着優先から経済性重視の運用へ

将来のエネルギーシステムの研究

限界費用ゼロの再生可能エネルギーが支配的な将来のエネルギーシステムでは、グリッド上に多くのプロシューマーが存在し、エネルギーの新しい取引、需給調整、決済、および消費が期待されています。工学、経済学、コンピューターサイエンス、人工知能、数理社会学を用いた学際的アプローチにより、将来のエネルギー技術とグリッドを提案します。

研究成果/研究詳細

2030年の系統安定性分析

太陽光発電や風力発電など変動型の再生可能エネルギーの導入拡大によって、これまで火力発電が担っていた調整力の確保が課題となります。本研究では再生可能エネルギーの導入拡大時の2030年の系統モデルを構築し、大規模電源脱落時の系統周波数への影響を分析しました。分析の結果から、大規模電源脱落時のブラックアウトのリスクを低減するために再エネの瞬時供給比率に上限を設けることの効果などを明らかにしました。本研究は国内外の政策シンクタンク、系統運用事業者との共同研究として実施しました(論文[1])。

調整力が確保できていなければ大規模電源脱落時に系統周波数が回復できずブラックアウトのリスクが高まる(左図)。系統モデルにより再エネ比率と系統周波数の回復時間を分析(右図)

調整力が確保できていなければ大規模電源脱落時に系統周波数が回復できずブラックアウトのリスクが高まる(左図)。系統モデルにより再エネ比率と系統周波数の回復時間を分析(右図)

電力市場モデル分析

発電における燃料費がゼロである太陽光発電や風力発電などの導入拡大は、電力市場価格の低下につながります。本研究では電力系統制約を考慮した電力市場モデルを用いて、各エリアの需給と短期限界費用価格を評価します。短期限界費用価格は電力の前日スポット市場価格を決める主要因となります。そこで、モデルを用いて将来の短期限界費用価格を分析することで発電、蓄電の事業採算性の見通しを明らかにすることができます。本研究は国内のシンクタンクや発電事業者との共同研究を行いながら実施しています(論文[2])。

電力前日市場価格(灰)と短期限界費用モデル計算値(黒)の比較例(2018年10月1時間ごと九州エリア)

電力前日市場価格(灰)と短期限界費用モデル計算値(黒)の比較例
(2018年10月1時間ごと九州エリア)

国際連系線分析

欧州や北米では電力をより経済的かつ安定的に利用するために国を越えた送電網が構築されてきました。近年は、再生可能エネルギーをより安価に、大量に、無駄なく活用するための方策としても、国際的な送電網の拡大が検討されています。本研究では、日本と韓国をつないだ電力市場モデルを構築し、日韓の国際送電線構築によるメリットを分析しました。国際送電網を九州や中国地方など、どの地点に接続するかによって期待されるメリットが変化しうることを明らかにしました(論文[3])。

日韓の電源構成と国際連系線構想

日韓の電源構成と国際連系線構想

出版リスト

代表論文:

  1. [1]  Kuwahata, R., Merk, P., Wakeyama, T., Pescia, D., Rabe, S., & Ichimura, S. (2020). "Renewables integration grid study for the 2030 Japanese power system." IET Renewable Power Generation, 14(8), 1249-1258.
    DOI: https://doi.org/10.1049/iet-rpg.2019.0711別窓
  2. [2]  Tatsuya Wakeyama, Ko Setoguchi, Romain Zissler and Keiji Kimura (2020) "The Impact of Renewable Energy Expansion on Power Exchange Prices in Japan", Proceedings of 10th Solar & Storage Integration Workshop 2020(国際会議プロシーディング)別窓
  3. [3]  Romain Zissler, Tatsuya Wakeyama and Jeffrey S. Cross (2021) "International electrical interconnection to unlock solar photovoltaic potential and accelerate progress towards carbon neutrality in Japan and South Korea"別窓, Proceedings of Renewable Energy Grid Integration Week 2021(国際会議プロシーディング)

主な著作:

  1. [1]  分山達也、自然エネルギーの導入拡大に向けた系統運用―日本と欧州の比較から―、自然エネルギー財団報告書、2016年3月 https://www.renewable-ei.org/activities/reports_20160303.php別窓
  2. [2]  馬奈木 俊介, 尾沼 広基, 藤田 敏之, 板岡 健之, 原田 達朗, 岡田 重人, 島谷 幸宏, 村川 友美, 柿本 浩一, 西澤 伸一, 矢部 光保, 村田 純一, 分山 達也, エネルギーの未来 脱・炭素エネルギーに向けて, 中央経済社, 2019.03
    ISBN:9784502285219
  3. [3]  丸山 康司、分山 達也、古屋 将太、尾形 清一、島田 泰夫、本巣 芽美、松田 裕之、西城戸 誠、門畑 明希子、飯田 誠、再生可能エネルギーのリスクとガバナンス、ミネルヴァ書房、2015年10月
    ISBN : 9784623073733

教員からのメッセージ

  • 分山達也准教授より

本研究室は2022年度にスタートしました。まだ新しく少数精鋭の研究室のため、指導教員と対面でもオンラインでも気軽に打ち合わせができます。指導教員は、これまで研究者として国の政策を研究したり、コンサルタントとして自治体や事業者の取り組みをサポートしたり、様々な面から再生可能エネルギーの導入拡大に取り組んできました。脱炭素社会の構築へ向けてはまだ課題が山積みです。しかしモデル分析や政策研究によって、意外なところに問題解決のきっかけが見つかることがあります。「自然エネルギー100%の電力システムへの道筋を描く」という大きな目標のもとで、一緒に問題解決に取り組んでみませんか。

お問い合わせ先

准教授 分山達也

E-mail : wakeyama@tse.ens.titech.ac.jp

この内容は掲載日時点の情報です。最新の研究内容については研究室サイト別窓をご覧ください。


11月22日 14:35 研究室のURL変更にともない研究室サイトのリンク先を修正しました。

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