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JAXAの「革新的衛星技術実証4号機」に膜面展開アンテナ技術の実証衛星が選定

オリガミ膜展開式リフレクトアレーアンテナを宇宙実証

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2023.03.24

要点

  • 膜面展開アンテナ技術の宇宙実証が「革新的衛星技術実証4号機」の実証テーマ(キューブサット)に選定
  • 折り紙技術により畳める2層展開膜にアンテナ素子を貼付した、軽量・高収納率な展開アレーアンテナを軌道上実証
  • 小型・超小型衛星への大面積アンテナ搭載を可能にすることで、新たな衛星利用につなげる重要な技術

概要

東京工業大学 工学院 機械系の坂本啓准教授(エンジニアリングデザインコース 主担当)を代表者として、工学院 電気電子系の戸村崇助教、岡田健一教授および科学技術創成研究院 未来産業技術研究所の白根篤史准教授らの研究チームが提案した宇宙システム新規技術の軌道上実証が、このたび国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)の「革新的衛星技術実証4号機」の実証テーマに選定された。

選定されたテーマ「折り紙構造による超高利得展開リフレクトアレーアンテナ技術の宇宙実証」では、超小型衛星キューブサット「OrigamiSat-2」(10 cm×10 cm×34 cm、4 kg)を開発する。この衛星に搭載した、2層式展開膜による軽量・高収納率な大型(50 cm×50 cmサイズ)のリフレクトアレーアンテナを軌道上で展開し、高利得アンテナ性能を実証する。

小型衛星に大型アンテナを搭載できれば、地球周回衛星通信網や、小型合成開口レーダー(SAR)衛星コンステレーション、小型深宇宙探査機など、既存および新規サービスの大容量化、性能向上、低コスト化が期待できる。アンテナは開口面積が大きいほど通信速度や通信距離、観測データの解像度が向上する。しかし、アンテナ面に求められる高い形状精度が軽量化・高収納率化の妨げとなり、大型化が難しかった。

本実証技術は、アレーアンテナ面を剛性が著しく低い膜面で構成し、あえて高い平面度を要求しないというアプローチにより、積極的にアンテナを軽量化・高収納率化して大面積化するものである。2024年度の打ち上げに向けて開発を実施し、宇宙での技術実証を実現する。

背景と技術課題

2003年に東京工業大学などが世界初の超小型衛星(10 cm×10 cm×10 cm、1 kg)を実現させて以降、衛星の小型化が急速に進み、今日では「New Space」と呼ばれる宇宙ビジネスのイノベーションが活性化している。日本政府が提唱するSociety 5.0[用語1]の実現にも、小型衛星群を用いた大容量通信網の構築が期待されている。しかし、小型衛星では質量と打ち上げ容積が強く制限されるため、宇宙で大電力・大容量通信を可能にするにはまだ技術的な課題がある。

小型衛星に大型アンテナを搭載できれば、新サービスの実現や既存サービスの革新的発展が期待できる。具体的には、(i)地球周回衛星通信網の大容量化、(ii)高頻度地球観測を実現する小型合成開口レーダー(SAR)衛星コンステレーションのさらなる低コスト化と高解像度化、(iii)小型深宇宙探査機への大型アンテナ搭載による通信距離・容量の増大がある。アンテナは開口面積が大きいほど通信速度の向上、通信距離の拡大、観測データの高解像度化が可能になる。しかし従来はアンテナ面が高い形状精度を持つことを前提としており、結果として軽量化・高収納率化が阻害され、大型化が難しかった。

こうした課題を踏まえ、東京工業大学の研究チームは、アレーアンテナ面を剛性が著しく低い膜面で構成し、あえて高い平面度を要求しないというアプローチにより、積極的にアンテナを軽量化・高収納率化して大面積化する技術を開発した。この提案技術の実証ではまず、地球観測で広く用いられ、アマチュア無線帯でもあるC帯(5.8 GHz)でのアンテナ利得向上を実証する。

「折り紙構造による超高利得展開リフレクトアレーアンテナ技術の宇宙実証」ミッション

「革新的衛星技術実証4号機」の実証テーマに選定された「折り紙構造による超高利得展開リフレクトアレーアンテナ技術の宇宙実証」では、3Uサイズ(10 cm×10 cm×34 cm)のキューブサット「OrigamiSat-2」(4 kg)を開発し、2層式展開膜を用いた、軽量・高収納率の展開リフレクトアレーアンテナ構造物(50 cm×50 cm)を軌道上で展開して、高利得アンテナ性能を実証する。図1にOrigamiSat-2の概念図を示す。

図1 「折り紙構造による超高利得展開リフレクトアレーアンテナ技術の宇宙実証」を目指す超小型衛星「OrigamiSat-2」の概念図(打ち上げ時のサイズ10 cm×10 cm×34 cmの衛星から50 cm×50 cmの膜アンテナおよび1 mの姿勢安定用マストを展開)

図1. 「折り紙構造による超高利得展開リフレクトアレーアンテナ技術の宇宙実証」を目指す超小型衛星「OrigamiSat-2」の概念図(打ち上げ時のサイズ10 cm×10 cm×34 cmの衛星から50 cm×50 cmの膜アンテナおよび1 mの姿勢安定用マストを展開)

このようなサイズの大型アンテナを、折り紙のように折り畳める平面形状で構成するために、「リフレクトアレー」アンテナ方式を用いる。このアンテナ構造には次のような独自性がある。

  • 高い平面度を要求しない展開膜を用いて、アンテナ構造を軽量化する。
  • 膜材として平織布の伸縮性を活用し、低容量収納を実現する。
  • 折り線をまたがない反射素子構造を採用する。
  • 「飛び出す絵本」のように展開後に5 mm間隔で離れる2層構造にすることで、誘電体層の厚さを確保する。

これらの独自の設計アプローチにより、収納面積から25倍規模に拡大する衛星搭載アンテナ技術を世界に先駆けて軌道上で実証する。

東京工業大学は、この折り紙構造による展開リフレクトアレーアンテナ技術の実証に先立って、2つの宇宙実証機を開発しており、今回の開発もそれら2つの技術の延長線上にある。1つ目の技術が、坂本准教授が開発責任者を務め、JAXA「革新的衛星技術実証1号機」の実証テーマの1つとして選定された超小型衛星(3Uキューブサット)OrigamiSat-1[用語2]に搭載された膜展開技術である。OrigamiSat-1は、2019年1月にイプシロンロケット4号機で地球周回低軌道へ打ち上げられた。図2にOrigamiSat-1のイメージ図を示す。

図2 東京工業大学が中心となって開発し、2019年1月に宇宙へ打ち上げられた超小型衛星OrigamiSat-1イメージ図

図2. 東京工業大学が中心となって開発し、2019年1月に宇宙へ打ち上げられた超小型衛星OrigamiSat-1イメージ図

2つ目の技術として開発されたのが、2024年度打ち上げ予定のJAXA「革新的衛星技術実証4号機」にて再チャレンジが実施される実証テーマ「Society 5.0に向けた発電・アンテナ機能を有する軽量膜展開構造物の実証」(提案代表者:サカセ・アドテック株式会社)のミッションの1つである、「第5世代通信ミリ波アンテナ」ミッション[用語3]機器である。

研究チームは今回、東京工業大学工学院の機械系と電気電子系が融合したこれら2つの継続的な開発の経験をもとに、膜面展開式「リフレクトアレー」アンテナ新技術を搭載した3Uキューブサットを開発する。このキューブサットにより、宇宙利用の拡大と新たなイノベーション創出が期待される技術を軌道上で実証することを目指す。また、その開発には多くの大学生・大学院生が参加し、次世代を担う高度な科学技術関係人材を育成する場となる。

今後の展開

今後、東京工業大学とJAXAの間で打ち上げに必要な取り決めの締結、技術調整、各種試験、安全審査等を進め、2024 年度の打ち上げに向けた衛星の開発を行う。

  • 付記

本研究はJSPS科研費 JP20H00281、JP20H02146、JP20H00236および公益財団法人電気通信普及財団、東京工業大学基金からの助成を受けた。

  • 用語説明

[用語1] Society 5.0 : サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立させた、人間中心の社会(Society)を指す取り組み。第5期科学技術基本計画(2016年~2020年)から、日本が目指す未来社会の姿として提唱されている。

[用語2] 超小型衛星(3Uキューブサット)OrigamiSat-1 : 東京工業大学工学院機械系の坂本准教授、中西洋喜准教授らが中心となって開発し、2019年1月にJAXA「革新的衛星技術実証1号機」の実証テーマの1つとして、イプシロンロケット4号機で地球周回軌道へ打ち上げられた約4 kgの人工衛星。サカセ・アドテック株式会社、株式会社ウェルリサーチ、日本大学との共同開発。OrigamiSat-1は(1)薄型電子デバイスを模擬したダミー膜を貼り付けた1 m×1 mの展開膜(多機能展開膜)の展開実証、(2)宇宙での展開構造の計測、(3)膜上アンテナによるアマチュア無線通信の3つの宇宙実証を目指した。打ち上げ後1週間後に衛星と地上局間の通信が途絶する不具合があったが、2年後の2021年1月下旬に通信が復活し、搭載カメラによる展開膜形状計測に成功した。2022年4月30日に大気圏突入し運用を終了した。

[用語3] 「第5世代通信ミリ波アンテナ」ミッション : 2022年10月12日にJAXAのイプシロンロケットで打ち上げられた「革新的衛星技術実証3号機」の実証テーマ「Society 5.0に向けた発電・アンテナ機能を有する軽量膜展開構造物の実証」(提案代表者:サカセ・アドテック株式会社)として搭載されたミッションの1つ。坂本准教授、白根准教授、岡田教授らが開発を担った。宇宙空間で展開する1 m×1 mの膜面の上に8 cm×12 cmサイズの2枚に分割されたフェーズドアレー無線基板を載せ、この2枚が同じ平面上になくともアンテナ素子が電気的に電波の放射方向を変更することで非平面度を補償するという、ビームフォーミング技術の新たな活用法を実証する。「革新的衛星技術実証3号機」は軌道投入に失敗したが、「革新的衛星技術実証4号機」にて再チャレンジを行う。

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