生命理工学系 News
東京工業大学は、45歳未満の研究者に対し基礎研究の資金を支援する「あすなろ研究奨励金」の支援対象者を決定し、6月23日、支援決定通知書授与式を開催しました。
「あすなろ研究奨励金」は、本学の浅野康一名誉教授より「在籍中の地道な基礎研究に対して、長期にわたり研究費を措置してもらったことで研究が花開いたので、後進育成のため、基礎研究の支援に充ててほしい」と、自身の研究成果の実用化により得た収益の一部から寄付を受け、2020年度に創設されました。
第3回となる今回は12人の応募から5人が採択されました。支援決定通知書授与式では、益一哉学長より、「今後の研究の発展に期待する」とのあいさつがありました。
理工学に関する基礎・基盤的研究(理学分野の研究だけではなく、成熟した工学分野における地道な研究や、流行にとらわれず長期的視点に立って新しい可能性に挑戦する研究、独創的であっても研究費が取りにくい工学分野の研究を含む)における研究者への研究助成を目的とする。
45歳未満の本学に雇用されている准教授、講師、助教(特任教員を除く)
原則、支援開始日より1年間。ただし、研究計画によっては2年間の計画申請まで可能。
1件あたり100万円まで。
持続可能社会の実現に向けて、排熱利用のための熱電変換素子の開発が進められています。出力電力の向上を妨げる一因となっているのが、温度差によって生じる熱起電力が高い物質ほど電気伝導度が低いという逆相関(トレードオフ)の問題です。類似した逆相関は電子だけでなく熱電効果を引き起こす粒子全般に存在します。
そこで本研究では、粒子の密度やフロー構造といったパラメータを同一の物質内で自在に制御することで、熱起電力と移動度の積を最大化する条件を探る実験を行います。実験対象として超伝導体の中に存在する磁束量子と呼ばれるナノ粒子を用いることで、外部磁場による粒子密度の制御が可能です。さらにこれまでの研究で、液体のように無秩序なフローから固体のように格子を組んだフローに至るまでの自在制御を確立させています。
今後は、これらの制御パラメータと熱起電力や移動度の関係を明らかにすることで、出力電力の向上に対して基礎的な見地から貢献します。
分子の中にはある特定のイオンと特異的に結合するものが存在し、なぜそのようなイオン認識能が発現するのか注目されています。
クラウンエーテル(CE)はイオン認識を示すドーナツ状の分子で、ドーナツの空孔にイオンを閉じ込めることができます。これまで、イオンの大きさがCEの空孔の大きさと合致したとき、イオンとCEの結合エネルギーが最大となり選択性が発現すると考えられてきました。しかし、CEとの(真空中での)結合エネルギーが大きいにも関わらず、水溶液中でのCEとの錯形成定数が小さくなるイオンが報告されており、従来の理解の枠組みを超えた新たな理論を構築することが求められています。
そこで本研究では、これまで軽視されてきた水分子による錯形成の阻害効果に着目し、先駆的な赤外分光法を用いてクラウンエーテルのイオン選択性の原理を再構築することを目指します。
持続可能な社会の構築に向け、二酸化炭素を還元し有用物質を生み出す反応は、環境・エネルギーの観点から非常に重要な研究のトピックです。しかしながら、これまでの電気化学的二酸化炭素還元の研究では、生成物としてメタンや一酸化炭素などの炭素を1つだけ含む化合物が得られる例が多く、より付加価値の高い、炭素を2つ以上含む化合物が得られる反応は非常に限られています。
私たちはこの反応を効率的に進行させるべく、金属硫化物に着目した電極触媒の開発を行っています。金属硫化物は金属に加え、硫黄も電子状態を柔軟に変化させることができるという特徴があります。こちらの特徴を活かすために、本研究では、電位を交互に与えるという電位ステップ法を適用します。これにより、反応の駆動のために定電位を加えていた既往の研究よりも、より効率的に反応化学種の電子状態を変化させ、炭素―炭素結合が生成可能であることを期待しています。
発生過程の胚への栄養供給法は、脊椎動物の進化の過程で変化してきました。その様式としては主に、卵黄から血管を介して栄養を供給する「卵黄依存型」、および胎盤などを介する「母体依存型」があります。私は、これらの栄養供給において重要な機能を有する化学感覚受容体や膜輸送体の同定、およびそれらの種や繁殖様式を越えた共通性や変化に着目しています。
今回の研究申請では、栄養源として豊富な卵黄を蓄積させる生物種において、卵母細胞の恒常性を保つために水や電解質濃度を適切に維持する輸送体の解明を目指します。具体的には、魚類、両生類、爬虫類の卵巣に共通に発現する輸送体に着目し、局在と輸送特性の解析からその機能を明らかにします。
長期的には解析対象の生物種を広げ、胚発生における物質輸送の仕組みを比較することで脊椎動物の多様な生存戦略を分子レベルで理解したいと考えています。
炭酸プロパルギルエステルは、入手容易な原料から容易に調製可能な反応剤であり、有機合成化学において広く用いられています。パラジウム触媒による炭酸プロパルギルエステルの分子変換法は、約40年前の報告に端を発し、今日に至るまで精力的に研究されてきました。その成果として、現在では求核剤との反応メカニズムが体系的に理解されています。
一方、私はアザボリンと呼ばれる含ホウ素化合物を対象とした合成研究に取り組む中で、既存の知識体系では捉え難い分子変換反応を見出し、そのメカニズムを合理的に説明し得る鍵活性種として、これまでに報告のないアレニリデン種を提唱するに至りました。
そこで本研究では、この未知アレニリデン種について基礎的な知見を蓄積させ、さらに本活性種を用いた不斉合成反応や、種々の新奇合成反応の開発に挑戦します。これらの検討を通して本活性種の理解に迫りつつ、その合成化学的な有用性を顕在化させます。