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【創発的研究支援事業紹介】No. 5 近藤徹 講師

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2023.06.21

生命理工学院の教員が研究代表を務める研究課題が創発的研究支援事業に採択されました。創発的研究支援事業は、特定の課題や短期目標を設定せず、多様性と融合によって破壊的イノベーションにつながるシーズの創出を目指す「創発的研究」を推進するため、既存の枠組みにとらわれない自由で挑戦的・融合的な多様な研究を、研究者が研究に専念できる環境を確保しつつ長期的に支援する文部科学省の事業です。

採択された教員をクローズアップしてご紹介するシリーズ記事(全7回)を連載いたします。全7回のうち、第5回目は“揺らぎで拓く高次階層の生体光物理学”の研究課題の研究代表を務める近藤徹 講師です。

近藤徹 講師

近藤 徹 講師

居室 大岡山キャンパス 緑ヶ丘6号館 401号室
E-mail tkondo@bio.titech.ac.jp
Tel/Fax 03-5734-3777

-まず、近藤先生の研究テーマを聞かせて下さい。

私は生体内で生じる光反応に興味を持っており、特に光合成の最初期過程である光→電流変換反応の制御機構を解明したいと研究を行っています。光反応の舞台となるのは色素分子が複数結合したタンパク質です。最近では原子レベルの空間分解能で構造も分かってきており、色素の分子配置なども詳細に議論することができます。このような構造情報を基に分光実験データが解釈され、量子化学計算などの理論アプローチと組み合わせることで光反応モデルも構築されています。さらに、タンパク質構造の一部を部位特異的に変異させて反応モデルの検証実験を行う、といった一連の研究が展開されています。これらの結果から、生体系は実に巧みに機能しており、タンパク質の構造も各種反応過程が最適化するように上手く設計されていることが分かります。このように構造と機能の相関関係が明らかになる一方で、分子動力学計算などを用いた研究から、タンパク質の構造が常に変動していることも示されています。さらに、実際の自然環境下では太陽光強度が変動するなどの様々な外乱に曝されますが、タンパク質レベルで構造が柔軟に変化することで光反応を動的に制御する環境適応機構も明らかになってきました。このような生体系の構造ダイナミクスと機能の相関は、生体機能の本質を理解するために今後取り組むべき重要課題だと考えています。また、フェムト秒時間スケールで生じる超高速の光励起ダイナミクスに目を向けると、日常的な感覚とはかけ離れた摩訶不思議な量子的効果が顕わになることも示唆されています。一方で、数億年の超長期的な時間スケールで見てみれば、地球環境と生体機能の共進化ダイナミクスが見えてくるはずです。このように、フェムト秒から億年単位まで様々なスケールで生じる多種多様な生体系のダイナミクスを解き明かすべく、分光学者や地学者、理論学者、有機化学者などの野心溢れる若手研究者と手を組んで、ワイワイ議論しながら楽しく研究を進めています。これらはどれも夢のあるテーマですが、世界で誰も成し遂げたことがない非常に困難なチャレンジになります。この大博打に勝つために、我々は顕微分光法を武器に研究を進めています。現在は生命系の学生さんと一緒に装置開発から測定や解析までの一通りを自分達で行っています。最初は学生さんも、装置開発なんてやったこともないし難しそう…、なんて感想を持つみたいですが、手を動かしていれば案外できちゃうものです。オリジナルの手作り装置で世界ナンバーワンを目指せるなんて非常に貴重な体験ですし、研究の醍醐味を存分に味わうことができると思います。

-この研究を始めたきっかけを聞かせて下さい。

学部生時代は量子力学や統計力学が好きで、最初は超伝導物性を研究するバリバリの物性物理に興味がありました。当然ですが、生物系には全く見向きもしていませんでした。しかし、ある時に本屋をぶらぶらしていた際、生物物理分野を紹介する一般向けの本を見る機会があり、複雑系の物理現象について初めて興味が湧きました。特に、研究手法が確立されてない感じがとても魅力的で、いろんな研究者が十人十色の独自アプローチでよく分からない生命現象に挑んでいる自由な雰囲気を感じ取りました。当時の私は、研究なんかで賢い奴とガチンコ勝負してもどうせ勝てないし…、とかなり冷めた考えを持っていたのですが、生物物理分野だったら泥仕合に持ち込んで勝負になるかも!?、という訳の分からない理由で希望が湧いてきたのを覚えています。そんな感じでとりあえず光生物の研究を始めました。
現在の研究テーマである一分子分光法を用いたタンパク質の動的物性の解析を始めるキッカケも学生時代にありました。当時は、電子スピン共鳴法でタンパク質の構造や結合分子の配置などを解析していたのですが、たまたま参加した学会でX線自由電子レーザーを用いた次世代型の構造解析手法の講演を聴講する機会がありました。今でこそSACLAの名で知られていますが、当時はデモ実験を行っている段階で、秒も持たずに試料が蒸発してしまう、といった報告内容に会場から笑いが起きるような状況でした。しかし、その場に居合わせた私は、こんなヤバい手法が確立されたらこっちの立つ瀬がないでしょ!、と焦ったことを記憶しています。もうちょっと研究の幅を広げたいと考えていたこともあり、博士取得後は何か新しい手法にチャレンジしたいと思っていました。そんな中、博士2年次にドイツに数か月間留学する機会があったのですが、この時に一つの転機が訪れます。最先端の電子スピン共鳴装置で解析を行う予定だったのですが、到着早々に装置が故障するというアクシデントに見舞われました。留学先のボスからは、ラボにある装置は何を使ってもいいから適当に別のテーマを考えてくれ、と言われたのですが、他のアイディアは特に考えていなかったので途方に暮れました。しかし、この時たまたまラボ内のサブグループの1つが極低温一分子分光研究を進めていて、他にやるコトもないからという理由で彼らの論文を読んだのが、今現在メインの研究手法となっている一分子顕微分光との出会いとなりました。結局、ドイツ滞在中には結果を出すことはできなかったのですが、この時考えたネタでその後に学振PDとして採択され、今に繋がっています。こう振り返ると、学生時代のちょっとした体験がその後の研究テーマに多大な影響を与えているのが分かります。当時は、分野を問わず論文を読みまくったり、いろんな学会に顔を出してみたり、科学読み物を読み漁ったり、一見無意味とも思えるコトをいろいろとやりましたが、案外無駄ではなかったみたいです。

-今回の創発的研究支援事業で取り組まれる具体的な研究内容を
 聞かせて下さい。

これまでに多種多様な光合成タンパク質を解析してきましたが、それらは全て単離精製された個別のタンパク質を対象にしてきました。しかし、実際の生体内では1つのタンパク質が独立に機能することはなく、様々なタンパク質が複数寄り集まって1つのチームを形成し、互いに連携しながら機能しています。各タンパク質の性質はかなりのレベルで分かってきているのですが、それらが連動した時、どのような機能を発現するかについては未知の領域です。ただ、各タンパク質の機能が単純に足し合わされるだけではないことが徐々に分かってきています。例えば、光合成光捕集タンパク質は太陽光を吸収し、反応中心と呼ばれる光電変換反応を担うタンパク質へと光エネルギーを輸送する働きがありますが、反応中心での光反応が過剰に生じると、一転して光エネルギー輸送を止めて光ダメージを防ぐストッパーの役割をこなします。これは光捕集タンパク質と反応中心タンパク質が互いに連携することで初めて実現する巧妙なフィードバック型の光反応調整機能で、非常に興味深いのですが、その制御機構の詳細は未だに分かっていません。そこで創発研究では、複数のタンパク質が連携している様子を解析できる新たな顕微分光技術を開発しようと計画しています。近接する複数のタンパク質を分光学的に区別して同定できれば、ナノメートルスケールのミクロ領域で一体何か起きているのか?、を実験的に調べることが可能になります。さらに、独自のフェムト秒顕微分光技術を駆使することで、光エネルギーがタンパク質間を流れていく様子まで可視化したいと考えています。世界でまだ誰も見たことのない生体系の光反応過程を明らかにできると期待しています。技術的には非常に難度の高いチャレンジになりますが、地道に1つ1つの課題をクリアしていき、最終的には細胞内で起きる全ての光反応過程を時間と空間の両面からマッピングできれば言うこと無しです。これまで蓄積してきたノウハウに加え、新たに技術開発を進めることでこれらを実現していきたいと考えています。長期的な研究となるので、野心的で気概に溢れる学生さんに参加してもらえると大変心強いです。

-今後の目標を聞かせて下さい。

かなり漠然としていますが、技術的にも学術的にも兎にも角にも世界一を目指したいと思っています。欧米の二番煎じに甘んじることなく、日本から新しい科学の潮流を生み出すことができれば最高です。日本からはもうノーベル賞が出ないなどと囁かれて久しいですが、実際に日本の科学力は下降の一途を辿っているように感じます。様々な問題点が指摘されていますが、要は活気がないに尽きるのだと思います。社会全体の問題でもあり個人でどうにかできるレベルではないのですが、現在は研究室を主催する立場として学生を指導しているので、どうにか活力に満ちた若者を輩出していきたいと考えています。人材育成は社会的な乗数効果を生み出す最重要課題ですし、私個人としてできる最大の社会貢献でもあります。また、教育的な意味合いだけでなく、私個人の研究にとっても非常に重要な要素になります。というのも、私は人と会話するのが大好きな人間なのですが、その中でも特に、芯の通った価値観を持つ人間と科学的な議論をするのが心底楽しいと思っており、そういった議論の中から研究の新しい発想やアイディアが生まれていくと考えています。そのため、高レベルな話し相手人材の育成というのも個人的には非常に重要な目標になります。創発的研究支援事業では博士学生のサポートも行えるため、フルに活用して目標を達成したいと思います。

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2016年4月に新たに発足した生命理工学院について紹介します。

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