生命理工学系 News
理工学・医科学と人文学・社会科学の学際・融合研究をリード
東京工業大学が参画機関としてまとめた提案「レジリエント健康長寿社会の実現を先導するグローバルエコシステム形成拠点」(代表機関:公益財団法人川崎市産業振興財団(KIIP))が10月25日、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)による「共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT) 共創分野・本格型」に採択されました。東工大は5つの研究開発課題のうちの2つを担当し、本研究を通じて理工学・医科学と人文学・社会科学の学際・融合研究を推進します。
少子高齢化の進展に伴い、日本における就労人口1人あたりの要介護者数は年々増加の一途をたどり、このままの推移が続けば2040年には現在の1.5倍の負担となることが統計学的に予想されています。この上昇傾向を鈍化させるためには、老化の進行を遅らせ自律的な生活を営むことができる期間、すなわち健康寿命を延伸させることが必要だと以前より言われてきました。しかしながら効果的な解決策はいまだないというのが現実です。そこで、科学技術創成研究院の西山伸宏教授(ライフエンジニアリングコース主担当)や環境・社会理工学院 イノベーション科学系/技術経営専門職学位課程の仙石愼太郎教授らの研究グループは、さまざまな領域の方々とヒアリングの場を持ち、健康寿命を延伸させるために効果的なものをリサーチしてきました。その結果、在宅医療における看護の現場が、これまであまり手が付けられていないものとして浮かび上がりました。「病院では、看護師が24時間患者に寄り添い適切なケアを施すが、在宅ではそれができない。24時間患者に寄り添うのは家族であり、患者を取り巻く環境は一軒一軒異なる。健康寿命を延伸するにはケアの質を向上させることが必要であるため、市民のケアリテラシー向上と誰でも手軽に家で使える看護の道具が必要。医師と看護師でなければ使えない道具では困る」という声が訪問看護師や地域中核病院の医師から寄せられ、理工系研究者が進むべき新たな方向性が見出されました。「医工看共創が先導するレジリエント健康長寿社会」を目指すべき拠点ビジョンとして掲げ、4つのターゲットと5つの研究開発課題を策定しました(図1、2)。ここでの「レジリエント」とは、病に対して「しなやかな復元力」を有する状態と定義し、年齢を重ねるごとに進む体調の変化を日常生活の中で体系的に捉え、必要に応じて復元させる技術の開発を目指します。
採択された提案は、市民のケアリテラシーを高めるとともに家族など医療の専門家でない方でも自宅にいながら看護ができる道具や仕組みを創出しようとするものです。また、2045年に実現を目指す体内病院構想において研究が進むスマートナノマシンを老化のスローダウンに応用する研究も始めます。これまで看護は、その活字が意味するように「手と目で護る」ことを基本としてきたため理工学的なイノベーションが他領域と比べて遅れており、新産業の創出に繋がる可能性が高い領域といえます。
大学などが中心となって未来のあるべき社会像(拠点ビジョン)を策定し、その実現に向けた研究開発を推進するとともに、プロジェクト終了後も、持続的に成果を創出する自立した産学官共創拠点の形成を目指す産学連携プログラム。JSTの既存の拠点形成型プログラムの1つである、センター・オブ・イノベーション(COI)プログラムがコンセプトとして掲げる「ビジョン主導・バックキャスト型研究開発」を基軸とした制度設計を行ったことから、本プログラムの愛称を「COI-NEXT」ともいいます。知と人材の集積拠点である大学等のイノベーション創造への役割が増している中、これまでの改革により、大学等のガバナンスとイノベーション創出力の強化が図られてきました。今後、「ウィズ/ポストコロナ」の社会像を世界中が模索する中、日本が、現在そして将来直面する課題を解決し、世界に伍して競争を行うためには、将来の不確実性や知識集約型社会に対応したイノベーション・エコシステムを「組織」対「組織」の産学官の共創(産学官共創)により構築することが必要となります。