オートファゴソーム前駆体を小胞体につなぎとめる仕組みを解明

オートファジーは真核生物に備わった細胞内の分解機構です。オートファジーではオートファゴソームと呼ばれる膜小胞が形成され、その中に分解すべきものを取り込みます。大隅良典博士のグループが発見したAtgタンパク質^[用語1]と呼ばれるタンパク質群が協調的に働いてオートファゴソームは形成されますが、そのメカニズムはよくわかっていません。

東京工業大学生命理工学院の小谷哲也博士研究員、中戸川 仁准教授、科学技術創成研究院の大隅良典栄誉教授らは、機能が全く分かっていなかったAtgタンパク質であるAtg2について解析を行い、Atg2が伸張中のオートファゴソーム前駆体膜を小胞体につなぎとめることを明らかにしました。これまでオートファゴソームの膜の供給源の候補と考えられてきた小胞体とオートファゴソーム前駆体膜との関係を示した本研究成果はオートファゴソーム形成機構の解明への糸口となると期待されます。

本研究成果は、2018年9月25日発行の米国科学アカデミー紀要 （Proc. Natl. Acad. Sci. USA）電子版に掲載されました。

オートファジーとはタンパク質やRNAなどの細胞質成分や細胞小器官を分解する機構であり、酵母からヒトにいたるまで真核生物に広く保存されています。栄養飢餓などによりオートファジーが誘導されると、隔離膜と呼ばれる扁平な小胞が現れ、分解対象を取り込みながら球状に伸張し、閉じることで二重の膜構造を持ったオートファゴソームが形成されます（図1）。完成したオートファゴソームはリソソームや液胞と融合し、リソソームや液胞の内部にある分解酵素によってオートファゴソームの内容物が分解されます。これまでにオートファゴソーム形成に関わるATG遺伝子/Atgタンパク質が数多く同定されていますが、個々のAtgタンパク質の膜形成における具体的な役割の理解は不十分であり、オートファゴソーム形成の詳細なメカニズムは未だに明らかになっていません。

本研究グループは、出芽酵母を用いてオートファゴソーム形成に関わるAtgタンパク質の１つであるAtg2の機能解析を行いました。Atg2は1592個のアミノ酸からなる大きなタンパク質ですが、アミノ酸配列からは既知のドメイン構造は予測されません。Atg2はホスファチジルイノシトール3-リン酸（PI3P）^[用語2]と結合するタンパク質であるAtg18と複合体を形成して、Atgタンパク質の中で最後にオートファゴソーム形成の場に局在化することが分かっていましたが、具体的な機能は全く分かっていませんでした。異なる生物種間でのAtg2の一次配列の保存性を調べると、N末端領域とC末端領域は非常に保存性が高いことが分かりました。そこでこれら2つの領域に注目して様々なAtg2の変異体を作製し、オートファジーの活性を評価しました。その結果、N末端領域とC末端領域内にAtg2の機能に重要な領域があることを突き止めました。さらに酵母から精製したタンパク質と人工膜小胞^[用語3]を用いた試験管内での実験により、どちらの領域も膜へ結合する機能を有しており、この2つの膜結合領域を介してAtg2が2つの膜構造体をつなぎ合わせることを示しました。また、C末端領域がAtg2の結合相手であるAtg18のPI3Pを含む膜への結合に必要であり、Atg2-Atg18複合体のオートファゴソーム形成の場への局在化に必要であることを明らかにしました。一方、N末端領域はAtg2-Atg18複合体がオートファゴソーム形成の場へ局在化した後に重要な役割を果たすこと、さらにAtg2と小胞体との結合に関与する可能性があることを示しました。以上の結果から、Atg2はオートファゴソーム前駆体を小胞体につなぎとめて、オートファゴソームの形成を開始し、膜の伸張を媒介するモデルを提唱しました（図2）。

オートファジーの研究は世界中で活発に行われていますが、オートファジーの最大の特徴である二重の膜構造を持ったオートファゴソームの形成機構については、膜がどこからどのようにして供給されるのかなど、未だに多くの疑問が残されています。これまでに小胞体がオートファゴソーム形成のための膜の供給源であることを示唆する結果が報告されています。また、本研究によりAtg2が隔離膜と小胞体を繋ぎ合わせる可能性が示されました。しかし、小胞体から隔離膜へどのように脂質が輸送されるのかといった膜伸張反応に関する機構に関しては未だに不明のままです。Atg2が小胞体のどこと結合しているのか、結合した後何が起きるのかを詳細に解析することで、膜伸張反応のメカニズム解明へと近づけると期待されます。

オートファジーは神経変性疾患や癌といった様々な疾患と関連することが報告されています。オートファゴソーム形成機構の理解は、これらオートファジーが関わる疾患の治療のための創薬における基盤情報になると期待されます。