生命理工学系 News

高感度な酸素センサータンパク質を開発

生体内の酸素状態を簡便にモニタリング

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2018.08.27

要点

  • 蛍光タンパク質を利用した酸素センサーの開発に成功
  • 蛍光の消光を作動原理にして酸素濃度を明らかに
  • 非侵襲で簡便に生体内の酸素環境を確認

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所の野亦次郎助教と久堀徹教授(共にライフエンジニアリングコース主担任)は、蛍光タンパク質をベースとした新規酸素センサータンパク質「ANA (anaerobic/aerobic sensing fluorescence protein)センサー」の開発に成功しました。

組織や細胞内の酸素濃度を調べるため、これまで世界中で様々な測定技術が開発されてきましたが、細胞を侵襲する、あるいは大掛かりな測定装置が必要といった問題があり、生体内の酸素ダイナミクスの解明は大きく遅れていました。本研究で開発したセンサータンパク質を利用すれば、タンパク質自身が発する蛍光を測定することで簡便で非侵襲的な酸素濃度のモニタリングが可能になります。この研究成果は、これまで、ほとんど調べられていなかった生体内の酸素の動態の解明に貢献することが期待されます。また、このセンサーの作動原理である“蛍光の消光”を他の天然のセンサータンパク質に応用することで、新たなセンサータンパク質プローブ開発にもつながることが期待されます。

この研究成果は、2018年8月7日付けで、英国科学雑誌「Scientific Reports」に掲載されました。

背景

酸素は、呼吸など生物が地球上で生きる上で根幹となる代謝に必要不可欠な分子です。したがって、生体内部の酸素濃度や酸素の動態は、生命現象を理解する上で欠かせない重要な情報と言えます。これまで、組織や細胞内の酸素濃度を調べるため、様々な測定手法、分子ツールが開発されてきましたが、細胞を侵襲する、あるいは大掛かりな測定装置が必要になるなど様々な問題点があり、生体内部の酸素動態の測定を実現した例はほとんどありませんでした。

研究成果

野亦助教らは、細菌が持っている天然の酸素センサータンパク質(DosP; Direct oxygen sensor protein)に着目しました。DosPは血液中で酸素を輸送するタンパク質であるヘモグロビンと同じくヘムを含むタンパク質で、環境中の酸素濃度にあわせて酸素分子を結合・解離する性質を持っています。このDosPのヘム結合領域(DosH)と蛍光タンパク質を、最適な形状のポリペプチドリンカー[用語1]を使って結合させて融合タンパク質にすることで、酸素分子を結合したときにDosHが起こす吸収変化を蛍光タンパク質の蛍光の消光の度合いの変化に変換するという原理の新規の酸素センサータンパク質 (ANA: anaerobic/aerobic sensing fluorescence protein)を開発しました(図1)。

図1. 開発した酸素センサータンパク質プローブの構造モデル 蛍光の消光を作動原理とし、酸素存在下で強い蛍光を発する

図1. 開発した酸素センサータンパク質プローブの構造モデル 蛍光の消光を作動原理とし、酸素存在下で強い蛍光を発する

このセンサーは酸素分子を結合すると蛍光の消光が弱まるため、蛍光の強度を測定することにより、非侵襲的かつ簡便に酸素濃度をモニターすることが可能です(図2)。野亦助教らはANAセンサーを用いて、原核光合成生物のシアノバクテリアに光を当てたときに光合成によって発生する微量な酸素を検出することにも成功しました(図3)。このセンサータンパク質は、分光特性が似ている二つのタンパク質間で特異的に起こる蛍光の消光という現象を利用しており、タンパク質分子の構造変化そのものを利用する従来のFRET[用語2]型センサーとは異なる作動原理で機能します。

生物が実際に用いるセンサータンパク質には、シグナル分子の結合・解離による構造変化をほとんど伴わないものが多く存在します。このようなタンパク質の場合には、今回開発したセンサーのような蛍光の消光現象を応用することで、センサータンパク質プローブ開発の可能性を広げることが期待されます。

図2. ANAセンサーの酸素濃度に応じた蛍光強度変化

図2. ANAセンサーの酸素濃度に応じた蛍光強度変化

図3. ANAセンサーを利用したシアノバクテリアの光合成による酸素発生のモニタリング

図3. ANAセンサーを利用したシアノバクテリアの光合成による酸素発生のモニタリング

  シアノバクテリア培養液中にANAセンサーを直接加え、蛍光強度変化を経時的に測定した。光照射15分頃からセンサーの発する蛍光強度が急上昇しており、シアノバクテリアが発生した酸素をセンサーが検出したことがわかる。

今後の展開

近年の研究により、生物の細胞内の酸素濃度は常に一定ではないことが明らかにされつつあります。例えば、ヒトの細胞ではがん化に伴い低酸素化が引き起こされることや、バクテリアの細胞内は積極的に低酸素状態にすることで酸素に弱いタンパク質を保護していることなどが報告されています。さらに、酸素はシグナル分子として働き、様々な代謝経路が酸素により制御されていることも明らかになってきました。

今後、ANAセンサーを利用して、低酸素化をはじめとする様々な生体内の現象と酸素の動態との関連性を解明することができれば、医学的応用にもつながる知見が得られ、広く生物学研究に貢献することが期待されます。

本研究は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業(CREST)「ハイパーシアノバクテリアの光合成を利用した含窒素化合物生産技術」(代表:久堀徹教授)、および、科学研究費補助金・基盤研究(C)(代表:野亦次郎助教)の支援を受けて行われました。

用語説明

[用語1] ポリペプチドリンカー : 複数のアミノ酸が数珠つなぎになったもので、2つのタンパク質分子をつなぐために用いられる。ポリペプチドリンカーを構成するアミノ酸の種類により、その形状や化学的性質は異なる。

[用語2] FRET : 蛍光共鳴エネルギー移動(またはフェルスター共鳴エネルギー移動)。近接した2つの(蛍光)色素分子の間でエネルギーが移動する現象。供与体分子が吸収した励起エネルギーが受容体分子へと移動し、受容体分子が蛍光を発する。

論文情報

掲載誌 : Sci Rep. 2018 Aug 7;8(1):11849
論文タイトル : Development of heme protein based oxygen sensing indicators
著者 : Nomata J, Hisabori T
DOI : 10.1038/s41598-018-30329-5 別窓

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院
化学生命科学研究所 助教

野亦次郎

E-mail : nomata.j.aa@m.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5267 / Fax : 045-924-5268

東京工業大学 科学技術創成研究院
化学生命科学研究所 教授

久堀徹

E-mail : thisabor@res.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5234 / Fax : 045-924-5268

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