生命理工学系 News

オイル生産性が飛躍的に向上したスーパー藻類を作出

バイオ燃料生産における最大の壁を打破

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2018.08.21

要点

  • 藻類のオイル生産性向上を阻害していた課題を解決
  • オイル生産と細胞増殖を両立しながらオイル生産性を飛躍的に向上
  • バイオ燃料生産の実用化への道を拓く

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所の福田智大学院生(研究当時)、平澤英里大学院生(研究当時)、今村壮輔准教授(ライフエンジニアリングコース主担当)らの研究グループは、藻類で“オイル生産”と“細胞増殖”を両立させることにより、オイル生産性を飛躍的(野生株と比べ56倍)に向上した藻類株の育種に成功した。藻類がオイルを合成・蓄積する条件は、藻類の増殖に適さず“オイル生産”と“細胞増殖”は相反するため、これまで藻類バイオ燃料生産実現の大きな障壁になっていた。

研究グループは、オイル生合成遺伝子の一つGPAT1の発現を強化させることで、「オイル生産」と「細胞増殖」が両立することを発見した。今回の発見は、藻類でのオイル生産性向上における最大の課題を根本的に解決したと言え、藻類によるバイオ燃料生産実用化へのブレークスルーになると期待される。

本成果は8月17日、英国の科学雑誌「サイエンティフィック・リポーツ(Scientific Reports)」オンライン版に掲載された。

研究成果

研究グループは、藻類オイル[用語1]が蓄積する条件における遺伝子の発現に注目。その中で、各種条件で共通して発現が上昇する二つのオイル生合成に関わる遺伝子GPAT1GPAT2を見出した。

その後、それぞれの遺伝子を単細胞紅藻シゾン[用語2](図1)細胞内で人為的に過剰発現させ、オイル蓄積量への変化を観察した。その結果、GPAT1過剰発現株では、オイルの高蓄積がオイル非蓄積条件(栄養充足条件)にも関わらず観察された(図2)。興味深いことに、GPAT1過剰発現株の増殖スピードは、親株と同じだった。すなわち、GPAT1過剰発現株は、“オイル高生産”と“細胞増殖”が両立する株であり(図3、右)、そのオイル生産性(単位時間・単位体積当たりのオイル蓄積量)は、最大で従来の56倍に増加していた(図4)。

単細胞紅藻シゾンの細胞と実験室における培養の様子

図1. 単細胞紅藻シゾンの細胞と実験室における培養の様子

GPAT1過剰発現によるオイル蓄積

図2. GPAT1過剰発現によるオイル蓄積

オイル(中性脂質)を特異的に認識する色素で染色した画像。緑色のドット状のシグナルが藻類内で蓄積したオイル。赤色は葉緑体の自家蛍光。

オイル生産と細胞増殖の関係

図3. オイル生産と細胞増殖の関係

オイルを生産させる現状の条件では、オイルは生産されるが、細胞の増殖は阻害される。一方、本研究で作出した藻類株では、オイル生産と細胞増殖が同時に引き起こされるため、オイル生産性の劇的な改善が達成された。

GPAT1過剰発現によるオイル生産性の飛躍的改善

図4. GPAT1過剰発現によるオイル生産性の飛躍的改善

GPAT1過剰発現株におけるオイル(中性脂質であるトリアシルグリセロール)の生産性を親株と比較した結果。

背景

国連が掲げる持続可能な開発目標(SDGs)では、クリーンで持続可能なエネルギーの利用の拡大、地球温暖化への具体的なアクションを起こすことなどが盛り込まれている。微細藻類を用いたオイル生産は、SDGsを達成するための重要な技術と考えられている。しかし、微細藻類がオイルを生産する条件は、栄養が欠乏していなければならないなど、細胞の増殖には適さない。そのため“オイル生産”と“細胞増殖”を同時に実現することは、藻類を用いたオイル生産性の向上において解決すべき課題となっていた(図3、左)。

研究の経緯

研究グループは以前、藻類にオイルを作らせるスイッチタンパク質TORキナーゼ[用語3]を同定している(東工大ニュース別窓)。TORキナーゼは、オイル生合成のON/OFFを決定付けるが、スイッチがONになった後、オイル合成が引き起こされるメカニズムは不明であった。そこで、研究グループは、TORタンパク質が作用する遺伝子を特定してその機能を強化することで、オイル生産能の向上を藻類に付与できるのではと考えた。

今後の展開

GPAT1遺伝子がコードするグリセロール3リン酸アシル基転移酵素[用語4]は、藻類のオイル生合成に必須であるため、他の藻類においてもオイル生産性を向上させるための優れた標的となると考えられる。また、GPAT1の過剰発現による“オイル生産”と“細胞増殖”の両立がなぜ引き起こされたのかを詳細に解明することで、さらなるオイル生産性の向上が期待される。

研究サポート

この研究は、科学研究費補助金、科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業、長瀬科学技術振興財団研究助成金の支援を受けて実施した。

用語説明

[用語1] 藻類オイル : ここでは、藻類が生産するオイルの中でも、バイオ燃料の原料となる中性脂質であるトリアシルグリセロールを指す。トリアシルグリセロールをいかに効率よく生産できるかが、バイオ液体燃料生産実現における一つの大きな課題となっている。

[用語2] シゾン : 学名はCyanidioschyzon merolae(通称シゾン)。イタリアの温泉で見つかった単細胞性の紅藻(スサビノリ、テングサの仲間)。真核生物として初めて100%の核ゲノムが決定されるなど、モデル藻類、モデル光合成真核生物として用いられている。

[用語3] TORキナーゼ : 真核生物に広く保存されたタンパク質リン酸化酵素。アミノ酸やグルコースなどの栄養源により活性が制御されている。標的分子のリン酸化を通してタンパク質合成を調節し、細胞の成長(大きさ)を制御している。

[用語4] グリセロール3リン酸アシル基転移酵素 : 脂肪酸転移反応を触媒する酵素。脂質の新規合成の一番初めの反応を触媒する。

論文情報

掲載誌 : Scientific Reports
論文タイトル : Accelerated triacylglycerol production without growth inhibition by overexpression of a glycerol-3-phosphate acyltransferase in the unicellular red alga Cyanidioschyzon merolae
著者 : Satoshi Fukuda, Eri Hirasawa, Tokiaki Takemura, Sota Takahashi, Kaumeel Chokshi, Imran Pancha, Kan Tanaka, Sousuke Imamura
DOI : 10.1038/s41598-018-30809-8別窓

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所

准教授 今村壮輔

E-mail : simamura@res.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5859 / Fax : 045-924-5859

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