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ストレス顆粒の消失促す脱ユビキチン化酵素を発見

神経変性疾患の新たな治療法開発にヒント

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2018.05.29

要点

  • 真核細胞の中のストレス顆粒は、異常に形成すると神経変性疾患[用語1]の発症の一因になる
  • 2つの脱ユビキチン化酵素がストレス顆粒の消失を促すことを発見した
  • 神経変性疾患の理解を深め、治療法の開拓に貢献する可能性

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 細胞制御工学研究センターの駒田雅之教授、福嶋俊明助教(共に生命理工学コース主担当)、生命理工学研究科 生体システム専攻の解玄(Xie Xuan)大学院生らの研究グループは、2つの脱ユビキチン化酵素がストレス顆粒の消失を促すことを発見した。ストレス顆粒は真核細胞の中に存在するRNA-タンパク質複合体に富む構造体で、細胞が熱などのストレスを受けると形成され、過剰に蓄積すると種々の神経変性疾患発症の一因になる。

研究グループは、タンパク質のユビキチン化修飾を外す2つの脱ユビキチン化酵素(USP5、USP13)が、ストレス顆粒に局在することを見出した。さらに、脱ユビキチン化酵素の機能を調べた結果、ストレス顆粒に含まれているタンパク質のユビキチン化修飾を外すことでストレス顆粒の消失を促す役割を果たしていることを発見した。ストレス顆粒を効率的に消失する手法を見い出せれば、神経変性疾患の新しい治療法開発に貢献できる可能性がある。

本成果は、2018年4月12日付けの英国の細胞生物学専門誌「Journal of Cell Science」電子版に掲載された。

研究成果

真核細胞は、熱・酸化ストレス[用語2]・低酸素・低栄養・ウイルス感染などのストレスに曝されると、細胞内のメッセンジャーRNA(mRNA)[用語3]の翻訳が停止する。翻訳停止中のmRNAは、RNA結合性タンパク質の一部と結合して集合し、細胞内部に直径1-2 μm(マイクロメートル)の顆粒を形成する。この顆粒は“ストレス顆粒”と呼ばれる。ストレス顆粒は翻訳停止中のmRNAの一時的な保管場所であるのみならず、細胞のストレス応答について必要な様々な反応の場として重要な役割を担っている。細胞が受けているストレスが解消すると、ストレス顆粒は消失し、保管されていたmRNAは再び翻訳に利用されるようになる。しかし、何らかの原因でストレス顆粒が消失せず過剰に蓄積する状態になると、筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの神経変性疾患を引き起こすと考えられている。ストレス顆粒の形成や消失を調節する分子機構は、未だに不明点が多いのが現状だ。

研究グループは、細胞を44 ℃の環境で培養することによって形成されるストレス顆粒を詳細に解析し、多くのユビキチン化タンパク質が含まれていることを見つけた。この熱誘導性のストレス顆粒には脱ユビキチン化酵素であるUSP5とUSP13の2つが引き寄せられており、これらはストレス顆粒内の様々な種類のタンパク質のユビキチン化修飾をはずす役割を担っていた。USP5やUSP13の働きを人為的に抑えると、ストレス顆粒にユビキチン化タンパク質が過剰に蓄積するようになり、ストレスの解消後もストレス顆粒が消失しにくくなった。これら一連の研究から、この2つの脱ユビキチン化酵素がストレス顆粒の消失を促す働きをもつことが明らかになった。

USP5やUSP13はストレス顆粒内のユビキチン鎖を分解する。この反応は、ストレス顆粒がストレスの解消後にすみやかに消失するために必要である。

背景と経緯

タンパク質のユビキチン化修飾は、標的タンパク質に小さなタンパク質“ユビキチン”が共有結合する反応である。多くの場合、すでに標的タンパク質に結合しているユビキチンに別のユビキチンが結合することにより、鎖状のユビキチンの重合体(ユビキチン鎖)が形成される。ユビキチン化修飾には標的タンパク質の分解を誘導したり、タンパク質複合体の形成を促進するなど様々な役割がある。

研究グループでは、ユビキチン鎖を分解する “脱ユビキチン化酵素” の研究を長年進めてきた。ヒトには脱ユビキチン化酵素が約90種類存在する。今回、2つの脱ユビキチン化酵素USP5とUSP13がストレス顆粒に局在することを見出し、この2つの酵素がストレス顆粒の調節に重要な役割を果たしていることを発見した。

今後の展開

ALSをはじめ、様々な神経変性疾患でストレス顆粒の構成タンパク質の遺伝子変異が見つかっている。最近の研究から、これらの遺伝子変異によってストレス顆粒が過剰に蓄積するようになり、神経変性疾患発症の原因になっていることが明らかにされつつある。今回、2つの脱ユビキチン化酵素がストレス顆粒の消失に重要な役割を果たしていることを明らかにした。この発見をもとに、例えばストレス顆粒に局在するこれらの脱ユビキチン化酵素の活性を高めるなどして、過剰に形成されたストレス顆粒を効率的に消失させる手法を開発できれば、神経変性疾患の新しい治療法の開発につながる可能性がある。

用語説明

[用語1] 神経変性疾患 : 脳や脊髄に存在する神経細胞のうち、特定の種類の神経細胞の機能が徐々に低下するあるいは死滅する疾患。ALSや脊髄小脳変性症などが含まれる。

[用語2] 酸化ストレス : 細胞内に過剰な活性酸素が存在することにより、タンパク質やDNAなどの生体成分が過剰に酸化される状態。タンパク質やDNAは過剰に酸化されると本来の機能を果たせなくなる。

[用語3] メッセンジャーRNA(mRNA) : 遺伝子であるデオキシリボ核酸(DNA)の塩基配列を鋳型としてRNA合成酵素により合成され、合成後はリボソームと結合してタンパク質合成(翻訳)に利用される。翻訳により作られるタンパク質のアミノ酸配列を指定する役割を果たす。

論文情報

掲載誌 : Journal of Cell Science
論文タイトル : Deubiquitylases USP5 and USP13 are recruited to and regulate heat-induced stress granules through their deubiquitylating activities
著者 : Xie Xuan(解玄)、松本俊介、遠藤彬則、福嶋俊明、川原裕之、佐伯泰、駒田雅之
DOI : 10.1242/jcs.210856 別窓

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院 細胞制御工学研究センター 助教

福嶋 俊明(ふくしま としあき)

E-mail : tofu@bio.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5702

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