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マクロライド排出ポンプの結晶構造解析に成功

―マクロライド系抗生物質の排出、病原性因子の分泌機構解明に光―

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2017.11.13

要点

  • 病原性細菌が持つ薬剤を排出するポンプの新しい構造が明らかになった
  • マクロライド系薬剤排出の仕組みが分かることで、マクロライド耐性克服の可能性
  • 病原性細菌が病原性の原因物質を分泌するためのポンプでもあり、その働きを抑制すれば病原菌の病原性を軽減できる可能性

概要

東京工業大学(以下、東工大)の村上聡教授と岡田有意助教(共に生命理工学コース主担当)は、大阪大学(以下、阪大)の山下栄樹准教授、英・ケンブリッジ大学(以下、ケンブリッジ大)のヘンドリック・ファン・ヴィーン上級講師らとともに、マクロライド排出ポンプ、MacBの原子レベルでの結晶構造解析に世界で初めて成功した。X線結晶解析により明らかになった構造により、緑膿菌、サルモネラ菌やアシネトバクターなどのグラム陰性細菌がどのようにしてマクロライド系抗生物質[用語1]を細胞外へ排出し、薬剤耐性化をもたらすのか?という仕組みが明らかになり、それを逆手にとることで耐性化問題克服への道が拓ける。さらにMacBは抗生物質排出のみならず、サルモネラ菌などが分泌する病原性の原因である病原性因子や毒素の分泌装置でもあり、MacBの働きを阻害することで、抗生物質の耐性化に歯止めが掛かるだけで無く、病原菌による病原性を軽減させることができるようになる。今回、この輸送体の分子実体が原子レベルで明らかになったことにより、阻害剤開発などの応用展開が期待される。この成果は、英国の科学誌「ネイチャー・コミュニケーションズ」に11月6日にオンライン掲載された。

研究成果

全てのグラム陰性細菌が細胞膜に備えている薬剤排出ポンプのうち、マクロライド排出ポンプ、MacBという新しいタイプの薬剤排出ポンプの結晶構造解析に成功した。日和見感染菌であるアシネトバクター由来MacBを結晶化し、大型放射光施設SPring-8でX線回折を測定し、構造解析を行った(図1)。

研究の背景

感染症はヒトの主な死因のひとつである。抗生物質が効かない薬剤耐性菌による感染症は、近年大きな社会問題である。薬剤が効かなくなる仕組みには数種あるが、そのうち薬剤排出ポンプは、薬剤を菌体外へと排出するポンプの様な蛋白質である。その分子実体を明らかにして、働きを阻害することは、薬剤耐性化問題の解決策として期待されている。また、近年の研究でこのポンプは薬剤の排出だけでなく、病原性細菌の病原性の原因物質を分泌する装置であることも分かってきた。そのためポンプの阻害は、薬剤耐性化克服だけでなく、病原菌の病原性低減にも有効であるとされ、その働く仕組みを本質的に理解し、働きを封じることが期待に集まっていた。

研究の経緯

研究チームを主宰する村上教授は薬剤排出ポンプの構造を2002年世界で初めて明らかにした。東工大着任後は、岡田助教を迎え今回構造を明らかにした新型ポンプに着目しX線結晶構造解析に着手、阪大、ケンブリッジ大との共同により、この度の構造解明にこぎ着けた。また、本年ノーベル化学賞を受けたクライオ電顕解析も行い、二枚の膜にまたがる巨大なポンプ複合体の構造も明らかにした(図2:本年5月にNature microbiologyに発表:こちらはケンブリッジ大グループが主著者)。今回の発表は、最も重要なポンプのエンジン部分にあたるMacBの構造を原子レベルで明らかにしたものである。

図1:MacBの結晶構造、図2:MacA-MacB-TolC複合体の構造モデル

緑膿菌、サルモネラ菌やアシネトバクターなどのグラム陰性細菌は細胞核と外膜の二枚の膜を持つ。その両方にまたがるダクト付きのポンプのような機構が存在し、効率よく細胞内から細胞外に抗生物質を排出したり、細胞毒素を分泌させる。ATPのエネルギーで駆動するこの機構のエンジン部分にあたるMacBの立体構造を明らかにした。

今後の展開

インフルエンザやエイズの治療薬開発では、原因蛋白質の立体構造を利用する合理的な薬剤設計(Structure based drug design)[用語2]の手法が用いられ、従来法に比べ、迅速且つ開発費を抑えた新薬開発が行われた。そのため、薬剤開発に際して、病態の責任蛋白質の立体構造情報は今では不可欠なものとなっている。今回MacBの構造が明らかになったことで、病原性細菌の薬剤耐性化克服へ向けた応用のほか、病原性毒素の分泌阻害への展開も期待される。細菌が抗生物質や抗菌剤による殺菌に対して抵抗性を示すことが耐性化を生む要因の一つであるとされており、今後は原因菌を死滅させず、害となる病原性を取り除く、いわば「虎を猫」にする治療法開発が薬剤耐性化を生まない新たな感染症治療法として期待されている。

用語説明

[用語1] マクロライド系抗生物質 : 現在最も使用されている抗生物質のひとつ

[用語2] Structure based drug design : 鍵と鍵穴に例えられる蛋白質による基質認識機の詳細な立体構造に基づき、それを填める化合物を合理的に設計する新薬開発方法

論文情報

掲載誌 : Nature Communications
論文タイトル : Crystal structure of tripartite-type ABC transporter MacB from Acinetobacter baumannii
著者 : Ui Okada, Eiki Yamashita, Arthur Neuberger, Mayu Morimoto, Hendrik W. van Veen, Satoshi Murakami
DOI : 10.1038/s41467-017-01399-2別窓

お問い合わせ先

東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系

村上聡 教授

E-mail : murakami@bio.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5748 / Fax : 045-924-5709

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