融合理工学系 News

江頭研究室 -研究室紹介 #18-

持続可能な開発を支える化学プロセス合成

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2021.07.19

研究室紹介シリーズでは、ひとつの研究室にスポットを当てて研究テーマや研究成果を紹介します。今回は、地球・地域環境、資源、エネルギー、などに関連するプロセスの合成や改善により、持続可能な開発を支える研究を行う、江頭研究室です。

江頭 竜一 准教授

地球環境共創コース
研究室:大岡山キャンパス・石川台4号館 304~308号室
准教授  江頭 竜一別窓、助教 鎺 広顕別窓

研究分野 化学工学 / 分離精製工学
研究キーワード 各種水処理 / バイオマス処理 / バイオ燃料製造 / 資源の分離・回収・リサイクル
Webサイト 江頭研究室別窓

研究室のアピールポイント

化学製品などを製造する化学プロセスを扱う化学工学、その中でも特に分離精製工学という分野に軸足を置きつつも、融合理工学系、地球環境共創コースの特色を活かして、化学工学的な側面だけでなく工学全般さらには扱うプロセスのある地域の様々な特色・条件や時代背景なども考慮しながら、地球・地域環境、資源、エネルギー、などに関連するプロセスの合成や改善により、持続可能な開発に貢献することを目標としています。

研究テーマ

パーム油製造プロセスの改善(各種水処理、バイオマス処理)

(説明は下記「研究成果/研究詳細」をご覧ください。)

ウキクサを利用した抗生物質汚染水のファイトレメディエーション(各種水処理)

医薬品工業などからの抗生物質を含む排水により、環境中の菌がその抗生物質に対して耐性を有するようになり、この菌に対してはその抗生物質が有効でなくなるという問題が起きています。これに対して、ウキクサ(図1)を利用したファイトレメディエーションにより環境水中の抗生物質を除去することを検討しています。

図1 ウキクサ(アオウキクサ Lemna aoukikusa )

図1  ウキクサ(アオウキクサ Lemna aoukikusa

溶媒抽出法によるレアアースメタル分離プロセス(資源の分離・回収・リサイクル)

レアアースメタル(希土類金属)の元素間の分離には主に溶媒抽出法が用いられています。この分離の重要な要素の1つとなる有機溶媒相に金属を取り込むための抽出剤の研究は盛んにおこなわれており、様々な抽出剤が開発されています。一方で、やはり重要な要素である分離プロセスにおける流れや運転条件についての検討は十分とは言えず、現場での試行錯誤に頼っているのが現状です。そこで、実験ならびにそこで実測したパラメータに基いた計算機シミュレーションにより、プロセスの改善やより良い運転条件の探索を行っています。(図2)

図2 溶媒抽出法によるレアアースメタル分離プロセス(向流多段抽出)

図2  溶媒抽出法によるレアアースメタル分離プロセス(向流多段抽出)

抽出剤を含む溶媒を利用した液液抽出による無電解銅メッキ排水の処理(各種水処理)

プリント配線板製造など非導電性の材料に対して銅メッキを行う場合には、無電解法を用います。この方法のメッキ液には極めて安定な銅錯体が含まれており、その排水はpHの変化に伴う沈殿および電気分解により処理され、銅および錯化剤が除去されます。しかしながら、この排水処理の方法は極めて大きなエネルギーを要するものであり、省エネルギー型の処理方法の開発が望まれています。これに対して、抽出剤を含む有機溶媒により銅錯体および錯化剤を抽出し処理することを検討しています。

天然ゼオライトによる酸性鉱山廃水の処理(各種水処理)

鉱物資源の豊富なインドネシア等では鉱床の開発に伴い重金属を含む酸性の廃水による環境水の汚染が深刻な問題となっています。そこで、やはりインドネシアに豊富に存在する天然ゼオライトを利用してこの酸性鉱山廃水を処理することを検討しています。

非食用油を原料としたバイオディーゼル製造プロセス(各種水処理、バイオマス処理、バイオ燃料製造)

食糧との競合を避けるために、バイオディーゼルの原料として非食用油(非食用植物油、廃油、など)を利用することを検討しています。特に非食用植物油としては、食用には適さない一方で肥沃ではない土壌でも栽培の容易なジャトロファの油脂を利用しますが、同時に得られる油脂採取後のジャトロファ果実の圧搾残渣(図3)を原料とした活性炭を作成しこれを製品バイオディーゼルの精製やプロセスからの排水の処理などに利用することも試みています。

図3 ジャトロファ果実の圧搾残渣

図3  ジャトロファ果実の圧搾残渣

その他、「ザンビア産廃松材おが屑を原料とした活性炭による鉱山廃水の処理」(各種水処理、バイオマス処理)、「溶媒抽出法によるバイオエタノール濃縮プロセス」(バイオ燃料製造)、「医薬品工業排水に含まれるアセトニトリルの分離回収プロセス」(各種水処理、資源の分離・回収・リサイクル)、「不稔性海藻による無機窒素摂取を利用した途上国型集約エビ養殖池の水質制御(図4 (左))」(各種水処理)、「ゴム木材製家具部品製造プロセスの改善」(各種水処理、バイオマス処理)、などのテーマもあります。

エビ養殖池見学(タイ・ラヨーン)(左)

炭鉱見学(タイ・チェンマイ)(右)

  1. 図4  エビ養殖池見学(タイ・ラヨーン)(左)、炭鉱見学(タイ・チェンマイ)(右)

研究成果/研究詳細

パーム油製造プロセスの改善

アブラヤシ(oil palm)の果実から採れるパーム油は、約80%がマーガリン等の食品、その他石鹸、などの原料として需要が高く、その生産量は植物油の中で世界最大です。 特にインドネシアおよびマレーシアにおいて生産が盛んであり、その歴史は100年以上と古く、生産量は世界全体の80%以上を占めています。また最近ではタイの南部でもアブラヤシの栽培およびパーム油の生産が行われるようになってきました(図5)。パーム油製造プロセスでは、原料であるアブラヤシの果実を水蒸気に曝して殺菌および軟化した後に圧搾して油を採り、これを精製して製品のパーム油とします。このプロセスからは、有害フェノール類、濃厚着色物質、などの汚染成分を含む排水、果実圧搾の際に生成する圧搾残渣、精製の際に除去された油分(パーム脂肪酸留出物)、なども生成します。排水については、インドネシアやマレーシアにおいては適切に処理されて環境に放出されている一方で、最近生産が行われるようになってきたタイでは、技術が十分に普及しておらず、調整池の利用などのみの不十分な処理のまま放出されており改善が求められています。一部燃焼によりプロセス内のエネルギー源として利用される以外の圧搾残渣についても適切な処理や廃棄が求められています。パーム脂肪酸留出物については、化粧品などの原料として利用されていますが、この中にはビタミンE、ステロール、スクアレン、などの生理活性を有する有用成分も含まれており、これらの有用成分の分離回収、有効利用が期待されています。これらのパーム油製造プロセスにおける問題解決や改善の要求は、近年のパーム油の需要すなわち生産量の増加に伴い、より強くなっています。そこで、我々は、圧搾残渣から活性炭を作成、この活性炭により排水中の汚染成分を吸着除去、およびパーム脂肪酸留出物に含まれる有用成分を吸着回収することを、研究室規模の実験と実験結果を利用した簡単なプロセスの計算により検討しています(図6)。これまでに、実験においては、上記の提案が可能であることを確認し、それぞれの現象を表すパラメータを実測、収集しています。またプロセスの計算においては、排水中に含まれる汚染成分の量に比較して、活性炭が汚染成分を吸着できる容量の方がはるかに大きく、この方法による排水の処理が実行可能であろうという結果なども得ています。今後は、より実用に近い条件を想定して、所要エネルギーなどの面からも実行可能性を確認していきます。

図5 アブラヤシ(oil palm)の農園(左)とパーム油製造工場(右) (いずれもタイ・クラビ)

図5  アブラヤシ(oil palm)の農園(左)とパーム油製造工場(右)(いずれもタイ・クラビ)

図6 パーム油製造プロセスの改善

図6 パーム油製造プロセスの改善

出版リスト

代表論文:

  1. [1]  Boontham, W., H. Habaki, and R. Egashira; "Removal of Phenol from Oil Mill Effluent Using Activated Carbon Prepared from Kernel Shell in Thailand's Palm Industry," Journal of Chemical Engineering of Japan, 53, (11), 682~688 (2020)
    DOI: https://doi.org/10.1252/jcej.20we052別窓
  2. [2]  Habaki, H., T. Hayashi, P. Sinthupinyo, and R. Egashira; "Purification of glycerol from transesterification using activated carbon prepared from Jatropha Shell for biodiesel production," Journal of Environmental Chemical Engineering, 7, (5), (2019)
    DOI: https://doi.org/10.1016/j.jece.2019.103303別窓
  3. [3]  Shimada, Y., D. Bi, H. Habaki, and R. Egashira; "Mass Transfer Rate in Separation of Coal Tar Absorption Oil by Emulsion Liquid Membranes," Journal of Chemical Engineering of Japan, 46, (6), 376~382 (2013)
    DOI: https://doi.org/10.1252/jcej.12we250別窓
  4. [4] Egashira, R., S. Tanabe, and H. Habaki; "Removal of Heavy Metals from Model Mine Wastewater by Adsorption Using Mongolian Natural Zeolites," Journal of Chemical Engineering of Japan, 46, (1), 50~55 (2013)
    DOI: https://doi.org/10.1252/jcej.12we137別窓
  5. [5] Sinthupinyo, P., H. Habaki, and R. Egashira; "Factors Influencing the Use of Various Low-Value Oils in Biodiesel Production," Journal of Chemical Engineering of Japan, 43, (2), 214~223 (2010)
    DOI: https://doi.org/10.1252/jcej.09we130別窓
  6. [6] Othaman, R., K. G. Lim, S. Konishi, M. Sato, N. Shi, and R. Egashira; "Thermal Treatment of Wood Residues and Effective Utilization of Its Products to Improve Rubberwood Manufacturing Process," Journal of Chemical Engineering of Japan, 41, (12), 1149~1158 (2008)
    DOI: https://doi.org/10.1252/jcej.08we166別窓
  7. [7] Egashira, R. and K. Sato; "Water Quality Control for Intensive Shrimp Culture Ponds in Developing Countries Using Ammonia-Nitrogen Uptake by Seaweed," Journal of Chemical Engineering of Japan, 40, (5), 454~462 (2007) DOI: https://doi.org/10.1252/jcej.40.454別窓
  8. など。

主な著作:

  1. [1]江頭 竜一(分担)、「プロセスケミストのための化学工学(基礎編)」、日本プロセス化学会 編、化学工業日報社、2015年11月24日発行
    ISBN: 978-4-87326-659-6
  2. [2]江頭 竜一(分担)、「分離技術ハンドブック」、分離技術会編、分離技術会、2010年2月発行
    NCID: BB01735224

教員からのメッセージ

  • 江頭 竜一 准教授より

冒頭の「キャッチフレーズ」や「研究室のアピールポイント」に加えて、エンジニアリング的な観点から「解決しなければならない問題をできるだけ簡単な方法で」というのもモットーです。これらに合致していて、研究室の環境(設備、経験、など)が許せば、上記以外の自分の希望するテーマを研究することも可能です。現地の調査、研究室規模の実験、これらで得られるパラメータを利用した実用規模でのプロセスの計算、などをバランスよく併用しながら研究を進めています。

お問い合わせ先

准教授 江頭 竜一

E-mail : regashir@tse.ens.titech.ac.jp

この内容は掲載日時点の情報です。最新の研究内容については研究室サイト別窓をご覧ください。

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