融合理工学系 News
応用力学と共創デザインで革新的体験を創造する
研究室紹介シリーズでは、ひとつの研究室にスポットを当てて研究テーマや研究成果を紹介します。今回は、エンジニアリング・デザイン, 機械工学,マルチフィジックスを核とした研究を行う、因幡研究室です。
エンジニアリングデザインコース
研究室:大岡山キャンパス 石川台6号館 206号室
准教授 因幡和晃 講師 Mehrdad Sadeghzadeh Nazari
構成(2020年11月現在): | 学士課程 1名、修士課程 6名、博士後期課程 5名、 日本語研修生 1名 |
研究分野 | エンジニアリングデザイン / 機械工学 / マルチフィジックス |
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研究キーワード | デザイン思考 / 材料力学 / 流体力学 / イノベーション |
Webサイト | 因幡研究室 |
大学では様々な要素技術について研究が行われていますが、それらが社会で実装されない(使われない)のはなぜでしょうか?世界を変える技術は存在し、それらについて日々研究を行うことは大学の使命の1つです。一方で、優れた技術なのに社会で使われない理由があるとすれば、大学での研究が社会のニーズに必ずしも合っていない可能性が考えられます。因幡研究室では、世界を変えるべくマルチフィジックス(連成問題、たとえば流体と構造が互いに影響を及ぼしながら流れたり変形したりすること)に関わる要素技術の研究・開発を行っていますが、加えて社会との接点として大小様々な企業と産学連携による共同研究を行っています。これらの活動の中には、要素技術の開発を主として行うものもありますが、デザイン思考やエンジニアリングデザインのプロセスを活用して、ユーザーや企業と共創しながら見つけた課題を、材料力学、流体力学、構造力学、応用力学などを駆使してエンジニアリングで解決することで、ユーザーに革新的な体験を提供するためのプロジェクトも実施しています。因幡研の1番の特徴は、高速度カメラや3Dプリンターなどのプロトタイピングにより、物理現象やユーザー体験を「可視化(見える化)」して物理モデルを構築したり、ユーザー体験を創造したりできることにあります。
デザイン工房は、授業や産学連携プロジェクトを行うためのスペースで、学生/研究者/社会人、ユーザー/デザイナ/技術者/経営者など様々な人が互いの境界を乗り越えて、こと・ものを共創する場所です。それぞれの強みを生かしながら一体となって協業し、迅速に製品/サービスのプロトタイピングを繰り返しながら新たな価値を探ります。因幡研では、デザイン工房のハードウェアとしての機器の管理・運用に携わるとともに、産学連携プロジェクトで利用可能なソフトウェアとしての4つのラボとそこで用いられるデザインツールの開発を行っています。
花粉症などによる鼻の内側の粘膜に薬剤を届けるため、点鼻容器による薬剤の噴霧が行われています。現在は、薬剤が噴出する際に、トルネード式と呼ばれる回転による遠心力で微粒化されるタイプが主に用いられています。この産学連携プロジェクトでは、既存の容器における点鼻体験を高速度カメラや数値解析を用いて分析し、新たな点鼻体験をデザインするとともに、その点鼻体験に必要な要素技術を開発し、特許を出願しました(特開2019-150356)。因幡研では、このプロジェクト以外にも、大田区の中小企業などといくつかの産学連携プロジェクトを実施しています。
バンパーとサイドメンバーと呼ばれる自動車の部品の間に、クラッシュボックスと呼ばれる事故時のエネルギーを吸収するための部材が使われています。事故の際には、この部材が圧縮されてつぶれることで衝突時のエネルギーを吸収し、被害の低減を行っています。因幡研では、事故のエネルギーをできるだけ多く吸収しつつ乗員保護の観点からつぶれる際の荷重の変動が少なくなる形状や工夫を検討しつつ、理論モデルの構築や、要素技術の開発を行っています。
流体ポンプでは、運転を開始したり停止したりする際に流体の圧力が変動して、圧力低下が起こることで気泡が生じ、生じた気泡がつぶれる際にポンプの内壁に衝撃荷重が作用して、たこ壺状に多数の穴が開きます。これらの穴は、ポンプの構造自体には影響がなくても、流体特性を低下させるため、凹凸部を削った後に複合材料などで形状を整えることで延命化する補修方法が提案されています。その一方で、気泡がつぶれる際にどのような衝撃荷重がどのように作用するかは十分には解明されておらず、その結果生じる材料の損傷についても材料疲労が影響していることは報告されていますが、材料物性や表面の凹凸が気泡のつぶれ方にどのような影響を及ぼすかについては明らかになっていません。因幡研究室では、ポンプの内壁を補修するための複合材料の母材として用いられるエポキシ樹脂に、引張負荷を作用させながらキャビテーション壊食試験を実施することで、材料が気泡からの衝撃荷重でどのように壊れていくか、材料に発生したき裂がどのように成長していくかを研究しています。また、ポンプの外側から内部に作用する衝撃荷重を簡単なセンサで推定するための手法の開発を行っています。
管内の流体と管壁が相互に影響を及ぼしながら圧力波動が伝播する現象を水撃と呼びます。この水撃では、管壁が厚くなったり硬い材料になったりすると、流体中を伝わる波動は周囲に何もない状態の音速に近づきます。市販の鋼管などでは、水の音速、約1500 m/sに近い速度で伝播しますが、体内の血管では10数 m/s程度まで減速します。動脈硬化を評価する際に用いる指標は、この物理現象に基づいて構築されています。因幡研では、厚肉の鋼管からアルミや複合材料、さらにはポリカーボネートなどの高分子材料を用いた水撃の実験、数値解析を行っています。通常は、数10から数100 mの管を用いて行う実験を、水撃波の先頭波面のダイナミクスを観察し解明することを目的として、1 m程度の短い管を用いた実験を行い、ひずみゲージや高速度カメラで計測しています。数値解析も同時に行うことで、物理現象の解明や、健全性を評価するための手法の開発などを行っています。
因幡研で一緒に世界を変える技術を研究・開発しませんか?東工大デザイン工房を活用した産学連携プロジェクトや、エンジニアリングとデザインの融合によるユーザーの革新的な体験の創造、流体構造連成などのマルチフィジックスに関連した研究プロジェクトに関心がある学生さん、産業界の方々はぜひご連絡ください。様々な協力方法を提案いたします。
※この内容は掲載日時点の情報です。最新の研究内容については研究室サイトをご覧ください。