融合理工学系 News
環境計画・政策による持続可能社会の構築を目指す
研究室紹介シリーズでは、ひとつの研究室にスポットを当てて研究テーマや研究成果を紹介します。今回は、環境計画・政策、環境アセスメント、合意形成、市民参加などの研究を行う、錦澤研究室です。
研究分野 | 環境計画・政策 / 環境アセスメント / 合意形成 / 市民参加 |
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研究キーワード | 再生可能エネルギー / 社会的受容性 / 環境紛争 |
Webサイト | 錦澤研究室 |
公共的な課題解決には、古びて錆びついた既存の社会システムを修復して、解決に向けた方向を提示することで、システムを再構築していくことが不可欠です。これは旧態依然とした社会を変えようとするダイナミックな世界であり、これを環境分野で実践するのが“環境計画”や“環境政策”といえます。
錦澤研究室では、環境計画・政策によるアプローチから社会システムを検証・提案することで、公共的な課題解決に貢献することを目指しています。具体的には、風力発電や太陽光発電事業などの再生可能エネルギーによる環境問題や環境紛争を解決・回避するための政策手法や計画技術の開発に取り組んでいます。
研究では実地調査を重視します。その対象は主として社会環境、すなわち、人の認識・意識・行動、それらを取り巻く組織・仕組み・制度です。このため、ヒアリング調査やアンケート調査、行政資料や議事録などを収集して、それらがデータソースとなります。
現代の市民社会では、公共的課題の解決のために社会の変容を促すのは、特定の専門家や行政に限らず、市民ひとりひとりです。そこで、多様な価値観を持つひとびとの考え方やアイデアをひとつの方向に束ねて実行していくための“合意形成”が重要になります。
公共的課題や合意形成の問題はひとびとの意識や価値観、立場や利害がぶつかり合う複雑な世界です。これらを丹念に調べていくことで見えてくる社会の構造、そしてそれらの知見を踏まえて実際の政策立案に関わることができること、これが環境計画・政策の魅力と言えるでしょう。
再生可能エネルギーの導入は国策として進められていますが、その普及にあたってはさまざまな問題や地域トラブルが生じています。このため、再エネ導入に伴う人間社会への影響、森林・生物等の自然環境への影響、それらに起因する苦情や環境紛争の問題を対象として、それらが生じる要因の解明に取り組んでいます。具体的には、風力発電施設による騒音等の影響認知の把握、紛争発生要因の解明を目指しています。本テーマは水素ステーションなど再エネ以外の施設を対象にすることもあります。
再エネ導入に伴う紛争解決には大きく2つのアプローチがあり、その1つが“地域便益”の創出です。売電収入の一部を地域に還元したり、地域産業の振興につなげたりすることで、地域との共生をはかることです。そこで、それらの仕組みが有効に機能するための要件や、それを実現するための合意形成プロセスを明らかにすることが求められます。その一例として、太陽光発電施設の導入と農業の振興を同時達成することを目指した“ソーラーシェアリング”の調査・研究にも取り組んでいます。
再エネ導入に伴う紛争解決のもう一つのアプローチは“環境配慮”です。このための有効な手段として“環境アセスメント”があります。近年、再エネが環境アセスの対象事業として追加されていますが、複数案の検討や、住民とのコミュニケーションの問題など、検討すべき課題は多くあります。欧米で先行する取り組みを対象にした海外調査もやります。これらの知見は学会発表だけでなく国や自治体の委員会等を通じて積極的に情報発信・政策提言しています。
地域の計画づくりや環境学習を促す市民参加のあり方に着目し、現実社会での会議実験を用いたアクションリサーチにも取り組んでいます。世界遺産の島・屋久島では、世代間交流ワークショップを提案・実施し、持続可能社会に対する市民の理解や学習を促す仕組みを提案・検証しました。また、無作為抽出を取り入れた討論会など参加型会議の社会実験を実施し、合意形成に役立つ知見の構築と提案も行っています。
クリーンなイメージがある再エネですが、現地に行くと、さまざまな課題があることに気づかされます。どのような仕組みやルールが必要か、環境計画・政策の視点から、共に考えてみませんか?
※この内容は掲載日時点の情報です。最新の研究内容については研究室サイトをご覧ください。