融合理工学系 News
生態系のダイナミクスを探る
研究室紹介シリーズでは、ひとつの研究室にスポットを当てて研究テーマや研究成果を紹介します。今回は、生態系モデリング、沿岸生態学、数値シミュレーションなどの研究を行う、中村(隆志)研究室です。
研究分野 | 生態系モデリング / 沿岸生態学 / 生物地球化学 / 数値シミュレーション |
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Webサイト | 中村(隆志)研究室 |
サンゴ礁域やマングローブ域を研究対象として、生態学的な調査や地球化学的な手法を用いた水質等のモニタリングや生物実験、物理観測等を通して、生態系の複雑な挙動の理解および予測を行うための生態系の統合モデリングシステムの開発を行っています。これらを通して、近年の地球温暖化や海洋酸性化などに代表されるグローバルな環境変化やローカルな人為影響下での生態系の動態や、持続可能な人間-生態系のあり方について研究を進めています。
当研究室では、野外で研究対象や現象を実際に観て体感し、自らの手でデータを取得していくことを重要視しています。石垣島やフィリピン、インドネシア、パラオを主なフィールド調査の対象地域としており、ほとんどの学生が各々の調査サイトをもっていて、学生同士で協力しながら野外調査を行っています。調査が終わるころには、皆こんがりと日焼けして、精神的にも成長し頼もしくなって帰ってきます。
造礁サンゴを取り巻く環境は、様々なストレスや因子が複合的に絡み合っているため、飼育実験等でその影響の評価を試みた場合、膨大な実験の組み合わせが必要になってしまいます。さらにはサンゴ礁内の水温や炭酸系、栄養塩などの環境は非常にダイナミックに変動し、かつ生物の応答は非線形であるため、このような複雑かつ複合的な影響を飼育実験によって評価することは簡単なことではありません。このような背景から、当研究室では、ミクロスケールのサンゴ内部の生体システムの物理・化学・生理的な素過程とそれらの相互作用を詳細に定式化することで、海洋酸性化応答やサンゴの白化現象などの、複合的な環境因子に対するサンゴの応答を再現でき、さらには将来の環境変動に対する応答を予測可能なモデルの開発に取り組んでいます
サンゴ礁のように非常に遠浅な海域では、流動環境や熱環境、水質などが非常にダイナミックに変動しています。また生物はこのような環境や水質の変化に応答し、一方で水質にも大きな影響を与えており、環境-生物は密接に相互作用しています。このようなダイナミックな変動下で、サンゴ礁生態系が環境に対してどのように応答するかを探るために、上述のサンゴポリプモデルを3次元流動-物質循環モデルに結合させた生態系の統合モデリングシステムの開発を進めています。これによって、サンゴ- 環境の相互作用の元でのサンゴの環境に対するリーフスケールでの応答を知ることができるようになりつつあります。
海底被覆マップは生態学的に重要な基礎データであり、生態系モデルのインプットデータとしても必須であり、その精度向上が求められています。そこで当研究室では、衛星画像やドローン空撮画像を用いた海底被覆マッピング技術の開発を行っています。特に衛星画像を用いた底質の被度と水深を同時推定を行うSpectral Unmixing 法のアルゴリズム開発や高度化を進めています。また、近年ではドローンを用いた空撮を比較的簡単に行えるようになってきており、この高解像度ドローン画像を用いて、機械学習なども取り入れた新たな底質のマッピング手法の開発も行っています。
陸域から流出した栄養塩などの陸源負荷が、海域にどのように広がり、生態系にどのような影響を与えるかを知るために、陸源負荷モデルー海洋流動モデルーサンゴ礁生態系を結合させることで、生態系への人為影響を定量的に評価できる統合モデルシステムの開発を進めています。特に、サンゴを捕食するオニヒトデは、人為的か栄養塩負荷が引き金となって大量発生すると考えられており、この統合モデルシステムを用いることで、大量発生を起こす陸源負荷の閾値などの定量評価ならびに、人間活動と生態系との持続的な関わり方について模索しています。
海洋生態系が固定した有機炭素はブルーカーボンと呼ばれ、その大気二酸化炭素の固定能力から近年注目を集めています。特にマングローブや海草藻場は、近年減少傾向にありますが単位面積当たりのブルーカーボンの貯留量が多いため、いかにこれらブルーカーボン生態系を保全していくかは大気二酸化炭素の増加を緩和する上で重要な課題となります。当研究室では、これらのブルーカーボン生態系の炭素貯蔵能を精度良く見積もり、その動態をモデル化していく研究を進めています。
海や自然、生態系に興味のある方、ぜひ中村研のドアをたたいてみてください。
※この内容は掲載日時点の情報です。最新の研究内容については研究室サイトをご覧ください。