物理学系 News&Information
遠方の銀河から飛来する時空の歪みをとらえる
物理学は、自然界に起きるさまざまな現象の中に法則性を見い出し、それを体系化していく学問です。その対象は、素粒子、原子核という極微のスケールから始まり、多彩な構造や性質をもつ原子レベルの物理、さらに我々を取り巻く宇宙まで、あらゆるものを対象にしています。物理学系の研究室では、そのほとんどすべての領域をカバーし、世界をリードする最先端の研究が行われています。
研究室紹介シリーズでは、ひとつの研究室にスポットを当てて研究テーマや研究成果を紹介。今回は、重力波検出器KAGRAの開発を行う、宗宮研究室です。
重力波とはアインシュタインが一般相対論により存在を予言した時空のさざなみです。数億光年彼方でブラックホール連星が引き起こす時空の歪みなどが、我々のいる地球上にまで波として伝わってくると考えられています。重力波には、時空の歪みにより物体と物体の間の距離を変えるという性質があるます。 そのため、この変化を捉えられれば重力波を検出したと言えるのですが、その変化量はとても小さく、地球と太陽の距離が水素原子1つ分だけ変わるのよりさらに100倍ほど小さな信号なのです。重力波の直接検出はアインシュタインの予言から100年あまりの間、実現されていませんでしたが、2015年9月にアメリカのLIGOプロジェクトがブラックホール連星からの信号を検出し、史上初の観測に成功しました。KAGRAも早く観測を開始し、より多くの、そしてより遠くからの重力波の観測を実現し、新しい天文学の道を開拓することを目指しています。
我々の望遠鏡は岐阜県の神岡鉱山の中に建設中で、2018年頃に完成する予定です。望遠鏡と言っても目で覗いて見るようなものではありません。長さ3 kmの真空のトンネル中でレーザー光を何度も往復させる、干渉計型の望遠鏡です。光を反射する鏡は、高品質なサファイアでできていて、熱振動による雑音を減らすため、マイナス253度まで冷却されます。感度があまりによいため、量子論が要請する測定限界が問題となりますが、量子非破壊計測という最先端技術を導入することで、その限界を超えた感度を実現する予定です。
東工大の重力波グループは、KAGRAにおいて4つの役割を担っています。第一に干渉計全体の設計です。要求値の策定、インターフェイスの管理など、全体の整合性をとるためのシステムエンジニアリングも含まれます。次に、量子非破壊計測のために必要な出射光学系の開発です。東工大でプロトタイプ実験を行い、最終的には実機を作成してKAGRAにインストールします。また、さらなる量子計測技術については理論的な議論が盛んに行われており、他の研究機関の研究者と交流をしながら研究を進めております。もう一つは、データ解析です。実データが集まるのは数年後ですが、解析のパイプラインや検出器診断システムの開発などを進めていく予定です。またガンマ線と重力波の共同観測も視野に入れています。この他にも、大規模な実験プロジェクトのため、東大宇宙線研をはじめカリフォルニア工科大学やマックスプランク研究所、フロリダ大学といった海外の研究機関と共同研究を行うこともあります。最後は、KAGRAのさらなるアップグレードへ向けた先進技術の開拓です。新しいアイデアをどんどん出して、実験・理論の両面から望遠鏡の高感度化へ向けた努力を続けています。
※この内容は掲載日時点の情報です。最新の研究内容については研究室サイトをご覧ください。