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低次元ナノ構造の新奇量子輸送現象を探索する
物理学は、自然界に起きるさまざまな現象の中に法則性を見い出し、それを体系化していく学問です。その対象は、素粒子、原子核という極微のスケールから始まり、多彩な構造や性質をもつ原子レベルの物理、さらに我々を取り巻く宇宙まで、あらゆるものを対象にしています。物理学系の研究室では、そのほとんどすべての領域をカバーし、世界をリードする最先端の研究が行われています。
研究室紹介シリーズでは、ひとつの研究室にスポットを当てて研究テーマや研究成果を紹介。今回は、低次元ナノ構造の新奇量子輸送現象を探索する、藤澤研究室です。
半導体ナノ構造を用いて、低次元電子系における電子(電荷、スピン)や準粒子(プラズモン、分数電荷)のダイナミクスに関する研究を行っています。人為的な制御により、少数電子系の非平衡状態・非定常状態の理解を深め、低次元系特有の量子輸送現象を探求しています。特に、時間応答、周波数応答、揺らぎなどの手法によって、単一の電子や電子スピン、相互作用によって出現する準粒子(プラズモン、分数電荷など)の動的な性質を調べる研究を得意としています。
微細加工技術によって数10ナノメートル程度の微細構造を作製した半導体ナノ構造では、電子の運動自由度が著しく制限された低次元電子系(2次元、1次元、0次元)の物理が現れます。例えば、強磁場を印加した2次元電子では、絶縁化した量子ホール状態(トポロジカル絶縁体)により、試料端に形成されるエッジ状態(カイラル1次元電子系)による輸送現象が重要になります。また、電子を0次元状態に閉じ込めた量子ドットは、原子の電子状態とよく似た人工的な多体状態を形成することから人工原子と呼ばれており、電子や電子スピンを1個ずつ制御できるようになります。このような低次元電子系においては、電子間の相互作用が顕著になり、特徴的で興味深い量子輸送現象が出現します。低次元電子系における単一電子(電子スピン)や準粒子(プラズモン、分数電荷など)に関する非平衡状態・非定常状態に関する研究に取り組んでいます。
研究室では、極低温(0.01 K~4.2 K)における電気伝導測定(高速電圧パルス信号やマイクロ波照射による高周波電気伝導測定、電流雑音測定)により、電子(電子スピン)や準粒子(プラズモン、分数電荷)に関する動的な量子輸送現象を観測することを得意としています。研究室で半導体微細構造を作製することができるため、自分のアイデアを活かして、量子ドットや量子ポイント接合などの素子を集積化した量子デバイスを設計・作製し、新しい量子輸送現象の発見・検証に挑んでいます。
これらの研究により、低次元電子系の量子電子物性、量子情報技術(量子コンピュータなど)、量子ホール系でのプラズモニクスなどの発展性を目指しています。
また、NTT物性科学基礎研究所と共同で研究を進めています。
研究者として成功するには、新しい知識を吸収できる力より(だけでなく)、自分のオリジナリティーを発揮できる力が重要です。研究を進める上で、ディテールにこだわり、問題点を指摘し、解決できる能力を身につけてください。
藤澤研では、半導体微細加工によって作製したデバイスにおいて電子の量子力学的性質を制御・観測する研究を行っており、「量子現象を人の手で操ることができる」という面白さがあります。実験装置の立ち上げから測定・解析方法、研究の取り組み方まで先生や先輩たちが懇切丁寧に指導してくださるので、研究を通して多くのことが学べるはずです。
興味がある方は、是非、研究室へ見学に来てください。
教授 藤澤利正
E-mail : fujisawa@phys.titech.ac.jp
※この内容は掲載日時点の情報です。最新の研究内容については研究室サイトをご覧ください。