材料系 News
科学技術に関する研究開発、理解増進等において顕著な成果を収めたとして神谷利夫教授(材料コース 主担当)が令和3年度科学技術分野の文部科学大臣表彰 科学技術賞(研究部門)を、片瀬貴義准教授(材料コース 主担当)が令和3年度科学技術分野の文部科学大臣表彰 若手科学者賞を受賞しました。
文部科学省が4月6日、発表しました。表彰式は4月14日、文部科学省(東京都千代田区)で行われました。
科学技術賞(研究部門)は、科学技術の発展等に寄与する可能性の高い、独創的な研究又は開発を行った者が対象です。令和3年度は45件(57名)が受賞しました。
若手科学者賞は、萌芽的な研究、独創的視点に立った研究等、高度な研究開発能力を示す顕著な研究業績をあげた40歳未満の若手研究者を対象としています。令和3年度は97名が受賞しました。
東京工業大学の令和3年度科学技術分野の文部科学大臣表彰受賞者については東工大ニュースをご覧ください。
以前には、私たちが使っているコンピュータやディスプレイを駆動する半導体材料はシリコンに限られていました。今回受賞させていただいた私と野村研二カリフォルニア大学サンディエゴ校准教授は、細野秀雄栄誉教授とともにアモルファス酸化物半導体 (AOS) がアモルファスシリコンを凌ぐ特性を持つ薄膜トランジスタ (TFT) を作製できることを2004年に報告し、翌年からは日韓企業からの試作ディスプレイ動作の報告が相次ぎ、実用化研究が進みました。
一方で、AOSの基礎物性、欠陥物性については、ほとんど何もわかっていませんでした。私たちは、半導体デバイスの設計、実用化には基礎研究が不可欠と考え、計算材料科学も利用し、AOSの原子構造、電子構造、欠陥構造を調べてきました。その結果、下図に挙げている電子構造・欠陥を、世界で初めて発見し報告することができました。この中には、従来の半導体であれば補償ドーピングとして嫌われるはずの価電子帯直上欠陥や、酸化物であるにもかかわらず酸素自体が電子トラップとして働くこと、また、本来ドナーとして働くはずの不純物水素が大量に含まれているAOSが実用的な特性を示すTFTを作製できるということなど、様々な新しい発見が含まれており、そのなぞ解きをすることも非常に楽しい経験でした。本来は基礎材料科学の研究としてスタートしたAOSが、これらのような多くの新発見を生み出すだけでなく、多くの薄型ディスプレイや大型有機EL TVなど広く実用化されたこと、さらには本賞を受賞できたことは、研究者として望外の喜びです。
省エネルギー社会を実現するためには、エネルギーロスなく送電できる超伝導線材や省エネルギーで動作するデバイスが必要です。これまで、高性能な省電力デバイスは高品質単結晶材料で実現されてきましたが、用途によっては、多結晶やアモルファス材料の微構造を活用することで、より優れた機能を実現できると考えます。私は、第2の高温超伝導体である鉄系超伝導体の薄膜について研究を行い、臨界電流密度が急激に低下する結晶同士の接合角度が、銅酸化物系のそれより2倍も大きいことを見出しました(図左)。鉄系超伝導体が本質的に多結晶線材応用に適していることを初めて示したことで、簡易なプロセスの大電力送電多結晶線材への応用研究が一気に加速しました。また、遷移金属酸化物のメモリ素子の研究に取り組み、水を含んだ多孔質ガラスNaTaOxの薄膜を開発し、遷移金属酸化物の光/電気/磁気物性を同時に変調可能な多機能メモリ素子を実現しました(図右)。従来、このようなスイッチングには液体を使ったデバイスが必須でしたが、含水多孔質ガラスを用いることで全固体素子化を実現しました。これにより、多機能性を有する電子素子を用いた省電力デバイスの実現に繋がると期待できます。
受賞対象となった研究は、細野秀雄栄誉教授、神谷利夫教授をはじめとするご指導頂いた先生方や共同研究者の方々との共同研究成果です。この場をお借りして心より感謝申し上げます。