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細野・平松研究室 ―研究室紹介 #45―

世界の潮流となる新材料を創り出す

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2017.02.07

材料系では「金属」「有機材料」「無機材料」の3つの分野にフォーカスし、独創的かつ挑戦的な研究・開発を推進しています。

研究室紹介シリーズでは、ひとつの研究室にスポットを当てて研究テーマや研究成果を紹介。今回は、独自に打ち立てた材料設計指針をもとに、革新的材料の開発を目指す、細野・平松研究室です。

教授 細野秀雄 准教授 平松秀典 助教 飯村壮史 助教 金正煥

無機材料分野
材料コース
研究室:すずかけ台キャンパスS8棟502号室・R3D棟102号室
教授 細野秀雄 准教授 平松秀典 助教 飯村壮史 助教 金正煥

研究分野 無機機能材料 / 超伝導 / 透明半導体 / 新触媒材料
キーワード 新物質・材料開発、酸化物エレクトロニクス、元素戦略、ディスプレイ材料(TFT、有機EL)、半導体光電子物性、超伝導、エピタキシャル薄膜、デバイス作製
Webサイト 細野・神谷・平松研究室別窓
細野秀雄 - 研究者詳細情報(STAR Search)別窓
平松秀典 - 研究者詳細情報(STAR Search)別窓
飯村壮史 - 研究者詳細情報(STAR Search)別窓
金正煥 - 研究者詳細情報(STAR Search)別窓

1. 研究室の目指すもの

膨大な数の「物質」の中で、人間の社会に直接役立つものが「材料」です。私たちの研究室は、独自に打ち立てた材料設計指針をもとに、以下のような新しい材料を開発しています(図1)。

1. 物質固有の結晶構造を利用して材料としての新機能を探る
  • 層状構造を持つ混合アニオン化合物の研究から、新しい高温超伝導体「鉄系超伝導体」を2008年に実現しました。1986年の銅酸化物超伝導体に匹敵する大きな発見と見なされ、世界中で熱い研究が行われています。
  • 小さな「かご」構造からできているセメントの構成成分の1つ、12CaO・7Al2O3(C12A7)結晶を使って、高輝度電子放出源、有機ELテレビ用高性能電極、アンモニア合成触媒、透明金属、超伝導などの機能を開拓しました。
2. 材料研究の新しい潮流「ユビキタス元素戦略」

2015年3月に完成した元素戦略研究センター棟(S8棟、通称:元素キューブ)

写真1. 2015年3月に完成した元素戦略研究センター棟(S8棟、通称:元素キューブ)

今までは希少金属を使ってしか実現できていなかった機能を、豊富で無害な元素を使って実現しようとする「ユビキタス元素戦略」を私たちは提唱しています。これは政策の大きな柱の一つとなり、2008年から新しい国家プロジェクトが開始され、2012年には「元素戦略研究センター」が設置され、2015年3月には地上5F、地下1Fの専用の建物が完成しました(写真1)。全国の大学に先駆けて実現したもので、我が国の政策「元素戦略」の研究拠点となります。

3. シリコンを凌ぐ半導体デバイスが実現できる新材料を創り出す
私たちは「透明酸化物半導体」という新しい研究領域を開拓してきたパイオニアです。酸化物は、古くから陶磁器やガラスとして人類の発展を支えてきた材料です。それにもかかわらず、酸化物中で電子が主役を演ずる機能は殆ど見いだされていませんでした。これはその物質の本質によるものではありません。私たちは物質に内在する特徴的なナノ構造に着目し、その電子状態や欠陥構造を制御することで、新しい光・電子・磁気および化学機能をもつ材料を創り出すことを目指しています。その成果の一つが、当研究室が2004年にNature誌に発表したアモルファス酸化物半導体IGZOの薄膜トランジスタ(TFT)です。高解像・低消費電力スマートフォーンの実現につながりました。今年から有機EL-TV用の新材料を本格的に狙います。

当研究室から生まれた成果の例と発展

図1. 当研究室から生まれた成果の例と発展

材料探索研究は、既にある材料の改良に終始してしまいがちですが、これまでに創り出された画期的な新材料、例えばナイロン、カーボンファイバー、高温超伝導体などは、そのような改良研究からは決して生まれません。ただ試料を作るだけではなく、計算と実験の両面から電子状態を調べ、物質のイメージを作り、他人とは違った発想とアプローチにより、世界で「初めての」、「最高の」、あるいは「唯一の」結果が出せるよう、研究を進めています。

私たちが目的としているのは、このような独自のアプローチにより新しい物質と機能を創り出し、それらを人の役に立つ「材料」へと進化させることです。

Nature誌やScience誌などの世界トップの学術誌に掲載される研究成果を挙げ、企業と連携し産業化するとともに、その実践研究の過程で「真の材料研究」のセンスをもつ学生を育てることを理想としています。

2. 研究室の構成

スタッフ

細野(新電子機能材料(半導体、超伝導、触媒、光)、材料設計)

平松(材料探索、薄膜デバイス、光電子物性)

飯村(新超伝導体、高圧合成、固体化学)

金(酸化物半導体、電子デバイス、有機EL)

学生
博士課程 6名、修士課程 9名
プロジェクト
現在、次の2つのプロジェクトを通して研究を進めています。
  1. 1.文部科学省 元素戦略プロジェクト<研究拠点形成型>電子材料領域(期間:2012.8~2021.3)
  2. 2.JST ACCEL「エレクトライドの物質科学と応用展開」(期間:2013.10~2018.3)

これらのプロジェクトでは、特任教授4名、特任准教授2名、特任講師2名、特任助教8名、博士研究員4名、研究員4名が活躍しています。これらのプロジェクトメンバーだけでなく、同じ材料コースの神谷利夫教授、松石聡准教授のグループとも緊密な連携をして研究を遂行しています。

同窓会
同窓会

薄膜成長チャンバー3台と角度分解光電子分光をすべて超高真空一貫で接続  。試料を大気暴露することなく測定できる(S8棟3F)
薄膜成長チャンバー3台と角度分解光電子分光をすべて超高真空一貫で接続 。試料を大気暴露することなく測定できる(S8棟3F)

3. 方針

領域にとらわれずに世界で活躍できる一流の研究者を育てるため、実施研究を中心とした方針を採っています。最先端の設備を自由に使える環境の中で、個々の学生が高い独立性を持って研究をしています。優れた成果が得られれば、学生自身が国際学会へ参加したり、一流国際学術誌に論文を書いたりしています(これまで博士課程学生がScience誌やNature Commun.誌に論文を発表してきました)。

また、学生の研究成果が評価され、以下のような表彰を受けています(過去11年間)。

  • 国内学会:論文賞 3名、講演賞(応用物理学会、化学会等)11名
  • 国際学会:講演賞(米国材料学会等) 3名、ポスター賞2名
  • 井上研究奨励賞(自然科学全分野で50件/年の博士論文に授与)3件
  • 先端技術大賞材料分野 3件

4. 研究テーマ

(1)独自の攻め方で新材料を探す:新しい高温超伝導体の探索と薄膜・デバイス化

物質の結晶構造を観、電子構造に思いを馳せ、物性との関係について考えると、どのようなアプローチで新しい特性を持つ材料を作ったらよいか、アイデアが出てきます。

超伝導は数ある固体物性の中でも最も劇的でかつ明快な現象です。また、超伝導臨界温度(Tc)の高い新物質が見つかれば、その社会的インパクトの大きさは比類ないほど大きなものです。私たちの研究室では、2006年にまずこれまで磁性原子である鉄の化合物は超伝導にならないという常識を覆し、そして2008年にはTc = 26 KのLaFeAsOを報告し、その後世界的ブームを巻き起こしました。現在、最高のTcは55 Kに達し、銅系材料以外では一番高くなっています。どこまでTcが上がるか世界中で競争になっています(図2)。

本家である当研究室も秘策を持って新規物質探索を頑張っており、最近では、新しいタイプの超伝導体CeNi0.8Bi2や、鉄と同様磁性元素であるコバルトを有するにもかかわらず超伝導を示す新物質LaCo2B2を発見しました。

鉄系超伝導体の物性研究だけでなく、高磁場発生超伝導マグネット・超電導送電線などへの応用面で特に重要となる薄膜作製・デバイス化にも注力しています。図3、4は、私たちが鉄系超伝導体薄膜分野ではすべて世界に先駆けて実現してきた、エピタキシャル薄膜と超伝導量子干渉素子(SQUID)の例です。最近、高品質化した薄膜を利用して、銅酸化物超伝導体よりも優れた粒界特性を明らかにして(Nature Commun.誌) 、高磁場発生マグネット応用に期待できる高性能線材を開発しました(図5)。

超伝導の歴史。当研究室が発見した鉄系の超伝導臨界温度がどこまで上がるか、世界中が注目しています。

図2. 超伝導の歴史。当研究室が発見した鉄系の超伝導臨界温度がどこまで上がるか、世界中が注目しています。

超伝導薄膜 世界初の鉄系超伝導薄膜Co添加SrFe2As2の超伝導特性と試料の写真
図3. 超伝導薄膜
世界初の鉄系超伝導薄膜Co添加SrFe2As2の超伝導特性と試料の写真

SQUID 図3をさらに高品質化したBaFe2As2薄膜を利用して作製した超伝導量子干渉素子
図4. SQUID
図3をさらに高品質化したBaFe2As2薄膜を利用して作製した超伝導量子干渉素子

高品質 BaFe2As2:Co薄膜により明らかになった鉄系超伝導体の銅酸化物よりも優れた粒界特性(左)と、開発した超伝導薄膜線材の写真(右)

図5. 高品質 BaFe2As2:Co薄膜により明らかになった鉄系超伝導体の銅酸化物よりも優れた粒界特性(左)と、開発した超伝導薄膜線材の写真(右)

(2)ユビキタス(ありふれた)元素戦略:新コンセプト物質 エレクトライド

電子が陰イオンとして振舞う物質を「エレクトライド」と称します。

12CaO・7Al2O3(C12A7)は、酸化カルシウムと酸化アルミニウムというありふれた酸化物から構成されている、何の変哲もない物質と考えられてきました。ところが、原子レベルで結晶構造を見直してみると、陰イオン(通常はO2-イオン)を包接できるナノかご構造を持っています。私たちは、合成法を工夫することで、ナノかご構造中に、電子を包接させることで、世界初の室温で安定なエレクトライドC12A7:e-を実現しました(Science誌)。この物質は絶縁体ではなく、透明で金属のようによく電気が流れ、低温にすると超伝導を示します。また、この物質にルテニウム(Ru)を担持すると、優れたアンモニア合成触媒になることを見いだし(Nature Chem.誌、図6)、最近大きな感心を集めています。さらに、アモルファスC12A7エレクトライドは、IGZO-TFTで駆動する有機ELの電子注入材料として重要度が増しています。

2011年には、1600℃で融解したC12A7:e-の中にも電子が安定に存在し、液体金属として振舞うことを明らかにしました(Science誌)。これによって「電子の高温溶液」という新しい分野が生まれました。2013年には、Ca2Nでは層間に電子が存在し、金属の銀に匹敵する高い伝導度を示すことを見いだしました(Nature誌、図8)。これによって2次元エレクトライドという新領域が誕生しました。学問的にも応用の面でもこれからの飛躍が期待できるフェーズになりつつあります。

空気中の窒素からアンモニアを合成する際に優れた触媒作用を示すRu担持エレクトライドC12A7:e-。これまでの触媒の10倍の活性を示す。
図6. 空気中の窒素からアンモニアを合成する際に優れた触媒作用を示すRu担持エレクトライドC12A7:e-。これまでの触媒の10倍の活性を示す。

金属の銀に匹敵する伝導度を示す2次元エレクトライド物質Ca2N。電子は [Ca2N] 層の間に存在。
図7. 金属の銀に匹敵する伝導度を示す2次元エレクトライド物質Ca2N。電子は [Ca2N] 層の間に存在。

(3)新材料・機能を創るために:理論と実験による電子状態の解析

MEM/Rietveld解析で観測した電子密度と第一原理計算で求めた「かご」構造の電子密度。

図8. MEM/Rietveld解析で観測した電子密度と第一原理計算で求めた「かご」構造の電子密度。

やみくもに実験をしていても、新しい材料を見つけることはほとんど不可能です。私たちは、光電子分光法、パルス電子スピン共鳴法やX線回折法などを用いて、物質や欠陥の電子状態を直接的に実験で観察しています。さらに第一原理計算を併用することで物質のイメージを作り、物質探索や材料設計の指針をたてて開拓研究を進めています。図8は、C12A7の中でかご構造のひずみをX線構造解析と第一原理計算で調べた結果です。C12A7中の電子数が増えるにしたがってかごの形がきれいになり、電子の通り道である波動関数が拡がっていく様子が見えます。

(4)高性能透明トランジスタ

1997年に、世界で初めてP型透明酸化物半導体の設計法と具体例をNature誌に報告し、透明酸化物エレクトロニクスという新分野を私たちは開拓しました。2004年にはアモルファス酸化物半導体(IGZO)の特長を活かして、高性能TFTを実現しました。2012年から新型iPadやスマートフォーンへの搭載が始まり、自分たちの創った新材料で世界を席巻する例になりつつあります(図9)。

アモルファス酸化物半導体IGZOを用いた薄膜トランジスタ(TFT)は、これからのディスプレイを駆動する本命と目されている(左:TFTの構造、中央 : プラスチック基板上に作製したTFTの写真)。右の写真は、これを使うことで実現した4K大型有機ELテレビ。

図9. アモルファス酸化物半導体IGZOを用いた薄膜トランジスタ(TFT)は、これからのディスプレイを駆動する本命と目されている(左:TFTの構造、中央 : プラスチック基板上に作製したTFTの写真)。右の写真は、これを使うことで実現した4K大型有機ELテレビ。

材料系の全研究室を紹介したパンフレットは広報誌ページでご覧いただけます。

お問い合わせ先

教授 細野秀雄
E-mail : hosono@msl.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5009

准教授 平松秀典
E-mail : h-hirama@lucid.msl.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5885

※この内容は2016年4月発行の材料系 無機材料分野パンフレットPDFによります。最新の研究内容については各研究室にお問合せください。

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