材料系 News
世界の潮流となる新材料を創り出す
材料系では「金属」「有機材料」「無機材料」の3つの分野にフォーカスし、独創的かつ挑戦的な研究・開発を推進しています。
研究室紹介シリーズでは、ひとつの研究室にスポットを当てて研究テーマや研究成果を紹介。今回は、独自に打ち立てた材料設計指針をもとに、革新的材料の開発を目指す、細野・平松研究室です。
無機材料分野
材料コース
研究室:すずかけ台キャンパスS8棟502号室・R3D棟102号室
教授 細野秀雄 准教授 平松秀典 助教 飯村壮史 助教 金正煥
研究分野 | 無機機能材料 / 超伝導 / 透明半導体 / 新触媒材料 |
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キーワード | 新物質・材料開発、酸化物エレクトロニクス、元素戦略、ディスプレイ材料(TFT、有機EL)、半導体光電子物性、超伝導、エピタキシャル薄膜、デバイス作製 |
Webサイト | 細野・神谷・平松研究室 細野秀雄 - 研究者詳細情報(STAR Search) 平松秀典 - 研究者詳細情報(STAR Search) 飯村壮史 - 研究者詳細情報(STAR Search) 金正煥 - 研究者詳細情報(STAR Search) |
膨大な数の「物質」の中で、人間の社会に直接役立つものが「材料」です。私たちの研究室は、独自に打ち立てた材料設計指針をもとに、以下のような新しい材料を開発しています(図1)。
今までは希少金属を使ってしか実現できていなかった機能を、豊富で無害な元素を使って実現しようとする「ユビキタス元素戦略」を私たちは提唱しています。これは政策の大きな柱の一つとなり、2008年から新しい国家プロジェクトが開始され、2012年には「元素戦略研究センター」が設置され、2015年3月には地上5F、地下1Fの専用の建物が完成しました(写真1)。全国の大学に先駆けて実現したもので、我が国の政策「元素戦略」の研究拠点となります。
材料探索研究は、既にある材料の改良に終始してしまいがちですが、これまでに創り出された画期的な新材料、例えばナイロン、カーボンファイバー、高温超伝導体などは、そのような改良研究からは決して生まれません。ただ試料を作るだけではなく、計算と実験の両面から電子状態を調べ、物質のイメージを作り、他人とは違った発想とアプローチにより、世界で「初めての」、「最高の」、あるいは「唯一の」結果が出せるよう、研究を進めています。
私たちが目的としているのは、このような独自のアプローチにより新しい物質と機能を創り出し、それらを人の役に立つ「材料」へと進化させることです。
Nature誌やScience誌などの世界トップの学術誌に掲載される研究成果を挙げ、企業と連携し産業化するとともに、その実践研究の過程で「真の材料研究」のセンスをもつ学生を育てることを理想としています。
細野(新電子機能材料(半導体、超伝導、触媒、光)、材料設計)
平松(材料探索、薄膜デバイス、光電子物性)
飯村(新超伝導体、高圧合成、固体化学)
金(酸化物半導体、電子デバイス、有機EL)
これらのプロジェクトでは、特任教授4名、特任准教授2名、特任講師2名、特任助教8名、博士研究員4名、研究員4名が活躍しています。これらのプロジェクトメンバーだけでなく、同じ材料コースの神谷利夫教授、松石聡准教授のグループとも緊密な連携をして研究を遂行しています。
領域にとらわれずに世界で活躍できる一流の研究者を育てるため、実施研究を中心とした方針を採っています。最先端の設備を自由に使える環境の中で、個々の学生が高い独立性を持って研究をしています。優れた成果が得られれば、学生自身が国際学会へ参加したり、一流国際学術誌に論文を書いたりしています(これまで博士課程学生がScience誌やNature Commun.誌に論文を発表してきました)。
また、学生の研究成果が評価され、以下のような表彰を受けています(過去11年間)。
物質の結晶構造を観、電子構造に思いを馳せ、物性との関係について考えると、どのようなアプローチで新しい特性を持つ材料を作ったらよいか、アイデアが出てきます。
超伝導は数ある固体物性の中でも最も劇的でかつ明快な現象です。また、超伝導臨界温度(Tc)の高い新物質が見つかれば、その社会的インパクトの大きさは比類ないほど大きなものです。私たちの研究室では、2006年にまずこれまで磁性原子である鉄の化合物は超伝導にならないという常識を覆し、そして2008年にはTc = 26 KのLaFeAsOを報告し、その後世界的ブームを巻き起こしました。現在、最高のTcは55 Kに達し、銅系材料以外では一番高くなっています。どこまでTcが上がるか世界中で競争になっています(図2)。
本家である当研究室も秘策を持って新規物質探索を頑張っており、最近では、新しいタイプの超伝導体CeNi0.8Bi2や、鉄と同様磁性元素であるコバルトを有するにもかかわらず超伝導を示す新物質LaCo2B2を発見しました。
鉄系超伝導体の物性研究だけでなく、高磁場発生超伝導マグネット・超電導送電線などへの応用面で特に重要となる薄膜作製・デバイス化にも注力しています。図3、4は、私たちが鉄系超伝導体薄膜分野ではすべて世界に先駆けて実現してきた、エピタキシャル薄膜と超伝導量子干渉素子(SQUID)の例です。最近、高品質化した薄膜を利用して、銅酸化物超伝導体よりも優れた粒界特性を明らかにして(Nature Commun.誌) 、高磁場発生マグネット応用に期待できる高性能線材を開発しました(図5)。
電子が陰イオンとして振舞う物質を「エレクトライド」と称します。
12CaO・7Al2O3(C12A7)は、酸化カルシウムと酸化アルミニウムというありふれた酸化物から構成されている、何の変哲もない物質と考えられてきました。ところが、原子レベルで結晶構造を見直してみると、陰イオン(通常はO2-イオン)を包接できるナノかご構造を持っています。私たちは、合成法を工夫することで、ナノかご構造中に、電子を包接させることで、世界初の室温で安定なエレクトライドC12A7:e-を実現しました(Science誌)。この物質は絶縁体ではなく、透明で金属のようによく電気が流れ、低温にすると超伝導を示します。また、この物質にルテニウム(Ru)を担持すると、優れたアンモニア合成触媒になることを見いだし(Nature Chem.誌、図6)、最近大きな感心を集めています。さらに、アモルファスC12A7エレクトライドは、IGZO-TFTで駆動する有機ELの電子注入材料として重要度が増しています。
2011年には、1600℃で融解したC12A7:e-の中にも電子が安定に存在し、液体金属として振舞うことを明らかにしました(Science誌)。これによって「電子の高温溶液」という新しい分野が生まれました。2013年には、Ca2Nでは層間に電子が存在し、金属の銀に匹敵する高い伝導度を示すことを見いだしました(Nature誌、図8)。これによって2次元エレクトライドという新領域が誕生しました。学問的にも応用の面でもこれからの飛躍が期待できるフェーズになりつつあります。
やみくもに実験をしていても、新しい材料を見つけることはほとんど不可能です。私たちは、光電子分光法、パルス電子スピン共鳴法やX線回折法などを用いて、物質や欠陥の電子状態を直接的に実験で観察しています。さらに第一原理計算を併用することで物質のイメージを作り、物質探索や材料設計の指針をたてて開拓研究を進めています。図8は、C12A7の中でかご構造のひずみをX線構造解析と第一原理計算で調べた結果です。C12A7中の電子数が増えるにしたがってかごの形がきれいになり、電子の通り道である波動関数が拡がっていく様子が見えます。
1997年に、世界で初めてP型透明酸化物半導体の設計法と具体例をNature誌に報告し、透明酸化物エレクトロニクスという新分野を私たちは開拓しました。2004年にはアモルファス酸化物半導体(IGZO)の特長を活かして、高性能TFTを実現しました。2012年から新型iPadやスマートフォーンへの搭載が始まり、自分たちの創った新材料で世界を席巻する例になりつつあります(図9)。
材料系の全研究室を紹介したパンフレットは広報誌ページでご覧いただけます。
教授 細野秀雄
E-mail : hosono@msl.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5009
准教授 平松秀典
E-mail : h-hirama@lucid.msl.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5885
※この内容は2016年4月発行の材料系 無機材料分野パンフレットによります。最新の研究内容については各研究室にお問合せください。