材料系 News
強くて優しい社会基盤材料を創る
材料系では「金属」「有機材料」「無機材料」の3つの分野にフォーカスし、独創的かつ挑戦的な研究・開発を推進しています。
研究室紹介シリーズでは、ひとつの研究室にスポットを当てて研究テーマや研究成果を紹介。今回は、代表的な社会基盤材料である金属材料について、製造プロセス、組織、力学的性質の関係を探求する、熊井・村石研究室です。
金属分野
材料コース
研究室:大岡山キャンパス・南8号館212号室 / 211号室
教授 熊井真次 准教授 村石信二 助教 原田陽平
研究分野 | 軽金属材料の組織と特性 / 新規鋳造プロセス開発 / 先端的手法による異種金属接合 / 転位動力学 |
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キーワード | アルミニウム合金、非鉄金属材料、異種金属接合、シミュレーションと実験による接合メカニズムの解析、高速双ロールキャスト法によるクラッド材の製造、着色腐食法による凝固組織解析、金属の力学特性と組織、マイクロメカニクス、非鉄金属材料、機能性薄膜材料、Insitu-TEM観察 |
Webサイト | 熊井・村石研究室 熊井真次 - 研究者詳細情報(STAR Search) 村石信二 - 研究者詳細情報(STAR Search) 原田陽平 - 研究者詳細情報(STAR Search) |
我々は3名の教員が協力して研究室を運営し、研究・教育に取り組んでいます。学生の皆さんが毎日の研究生活において「金属材料」の面白さを実感し、その意義を理解し、さらに研究を進める上で遭遇する様々な問題を乗り越え、それぞれの将来を切り開くために必要な「自分自身で育つ力」を身につけてもらえるよう、全力で指導します。
本研究室では代表的な社会基盤材料である金属材料について、製造プロセス、組織、力学的性質の関係について探求しています。実用材料が抱えている材料科学・工学的課題を解決し、さらにその中から新しい基礎研究の種を見出すことを目標に、教員と学生が一丸となって研究に取り組んでいます。循環性に優れたアルミニウムとその合金を中心に研究を進めていますが、材料の種類に拘らず、また常に新しいテーマにチャレンジし、研究領域の拡大ならびに異分野とのコラボレーションを積極的に進めています。常に社会との接点を明確にし、時代の要請に応え得るような研究成果をもって社会に貢献すること、研究室のメンバーの一人ひとりが研究活動を通じて独自の舌(テイスト)や独自の物差し(スケール)を育み、明日を担う技術者、研究者、教育者として成長することを目指して努力しています。
金属板同士を電磁力や火薬の爆発力を利用して超高速で傾斜衝突させ、衝撃圧接する研究を行っています。接合に要する時間は数マイクロ秒です。種々の同種・異種金属接合材について、特異な波状接合界面形態と衝突時に発生するメタルジェットについて解析を進めています。電磁力衝撃圧接時に起こる衝突点からのメタルジェット放出を、高速ビデオカメラを用い、世界で初めて撮影することができました。(図1)
衝撃解析ソフトを利用した粒子法により、図2のように衝撃圧接過程をシミュレーションによって再現し、接合機構の解明を行っています。さらに最近は、熱解析ソフトによるシミュレーションを組み合わせることによって、接合界面における局所溶解や金属間化合物等の中間層の生成過程を再現することにも成功しています。
電磁力は衝撃圧接だけではなく、成形にも利用できます。通常の成形法では困難な微細加工が瞬間的に可能です。数~数十マイクロ秒間にどのように金属が変形しているのか、またこのような超高速塑性変形はどのような変形メカニズムによってもたらされているのかについて明らかにするために、TEMによる組織解析や衝撃解析シミュレーションを駆使して研究を行っています。
放電大電流を用い、温度上昇や変形、溶接痕の発生なしに、数ミリ秒間でスタッドと薄板を強固に高速固相接合する実験も実施しています。この手法を用いることにより、従来困難であった樹脂を薄いアルミニウムで被覆したクラッド材へのスタッド接合も可能になりました。
縦型高速双ロールキャスト法により、溶融アルミニウム合金から直接、秒速数mの高速度で薄板を製造する手法を開発しています。本手法の急冷凝固効果を活かし、アルミニウムリサイクル材に含まれる不純物の無害化や、鋳物・ダイカスト用再生合金を展伸材用合金として使用可能とするアップグレードリサイクルシステム構築を目指しています。さらにタンデム式縦型高速双ロールキャスターを用い、in situで熱交換器用クラッド材を直接製造する省エネルギープロセス技術の開発も併せて実施しています。(図3)
このような実用化研究のほか、「ロールキャストの凝固学」なる学問分野を確立すべく、Al-Si、Al-Mg、Al-Mn等のモデル合金を用いて本手法特有の凝固組織の形成機構、ならびに鋳造欠陥や偏析の生成機構に関する系統的な研究に取り組んでいます。
従来は電子顕微鏡やX線マイクロアナライザーを用いて、ごく狭い領域しか解析できなかった半溶融・半凝固材の固液共存中における固相内の溶質濃度分布の変化を、溶質濃度差に極めて敏感な腐食液を用いることで、光学顕微鏡レベルで、広範囲かつ迅速・簡便に明らかにすることに成功しました。(図4)
異種金属同士が高速で衝突し、波状界面を形成するまでの所要時間はわずか数μsecです。異材接合界面では衝撃の伝播による瞬間的な塑性変形とともに、そのエネルギー損失に起因した局所的な急速加熱と冷却の過程を辿ります。したがって光学顕微鏡で観察される波状界面の内部には極めて微細で非平衡な金属組織の形成が考えられます。
爆発圧接によるAl/Fe異材接合材をFIB加工することで、波状界面の断面組織をTEM観察した結果、Al側の中間層近傍では直径数μmのセル状組織、Fe側では、界面と平行に引き伸ばされた結晶粒と高密度の転位が残存していることが明らかとなりました。最も塑性変形と温度上昇が見込まれる波状界面の中間層内部には(図5)、Al中にFe原子が過飽和に固溶したAl(Fe)、Fe2Al5、FeAl3の金属間化合物で構成された急冷組織であることが解明されました。
耐食性に優れるAl-Mn系合金は、Al6Mnの析出を利用した回復・再結晶組織制御とMnの固溶強化により、自動車用熱交換器や飲料缶材料に実用されています。状態図に示されるAl中のMn固溶限は2%程度であるのに対し、当研究室の縦型双ロール法では、4%にも達する高濃度Mnが過飽和に固溶することが、X線回折、比抵抗測定から明らかとなってきました。また、Al-Mn系合金を代表する析出相Al6(Mn,Fe)が特異なナノ結晶の集合体として観察されており(図6)、今後更なる研究によって、その形成メカニズムの解明が期待されます。
金属材料が塑性変形する上で重要な役割を担う転位は、そのすべり運動において周囲の転位や固溶原子、析出物などと弾性的な相互作用をすることで材料の強化に寄与します。当研究室では、TEM内その場観察を可能とする温度可変引張りホルダーを用いて各種合金中の転位運動の素過程を直接観察するとともに(図7)、Green関数法による転位動力学の数値計算から、巨視的な塑性変形や破壊挙動の素過程を解明する研究を進めています。
材料系の全研究室を紹介したパンフレットは広報誌ページでご覧いただけます。
教授 熊井真次
E-mail : kumai.s.aa@m.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2559
准教授 村石信二
E-mail : muraishi.s.aa@m.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3131
※この内容は2016年4月発行の材料系 金属分野パンフレットによります。最新の研究内容については各研究室にお問合せください。