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柴田研究室 ―研究室紹介 #13―

陽子と中性子のクォーク、反クォーク、グルーオン構造を探る

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2016.11.10

物理学は、自然界に起きるさまざまな現象の中に法則性を見い出し、それを体系化していく学問です。その対象は、素粒子、原子核という極微のスケールから始まり、多彩な構造や性質をもつ原子レベルの物理、さらに我々を取り巻く宇宙まで、あらゆるものを対象にしています。物理学系の研究室では、そのほとんどすべての領域をカバーし、世界をリードする最先端の研究が行われています。

研究室紹介シリーズでは、ひとつの研究室にスポットを当てて研究テーマや研究成果を紹介。今回は、陽子と中性子のクォーク、反クォーク、グルーオン構造を探る、柴田研究室です。

柴田利明 教授

研究テーマ
素粒子物理の実験。特に、クォーク・反クォークの物理、陽子のスピン1/2の起源、量子色力学(QCD)の実験と理論
Webサイト
柴田研究室別窓
研究者詳細情報(STAR Search) - 柴田利明別窓

研究内容

研究の分野は、素粒子物理学です。

宇宙創生から1ミリ秒もたたないうちにクォークから陽子が構成され、それ以来130億年以上がたっています。しかし近年では粒子加速器からの高エネルギー粒子を用いて、陽子の中のクォークの振る舞いを『見る』ことができるようになってきました。

宇宙創生の直後には、物質と反物質は同じ量だけあったと考えられるが、まだ解明されていない非対称性によって、現在では物質優勢の世界になっています。しかし、現在の世界の中には、つまり星や人の体を構成している陽子の中には、反クォークが存在しています。反クォークは陽子の運動量の一部を担っているだけでなく、陽子のスピンの一部を担っている可能性があります。反クォークの存在を特定する実験的手法があるので、それを用いて研究をしています。

研究詳細

研究詳細

素粒子物理は、宇宙の本質の解明を目指す物理の基本的な分野で、魅力ある未踏の研究テーマがたくさんあります。

クォークとクォークの間の力を媒介するのがグルーオンで、この力は「強い力」と呼ばれ、電磁気的な力よりもずっと短い距離で働きます。その理論は、量子色力学(QCD)と呼ばれています。発展がめざましい量子色力学を、様々な方法の実験と理論的解釈とによって研究しています。

物質の質量はそれを構成する原子の質量によるものですが、原子の質量のほとんどは原子の中の原子核の質量です。更に原子核の質量は陽子と中性子の質量によるものだが、陽子と中性子を構成するクォークは本来は質量がゼロの粒子です。クォークはヒッグス場との相互作用によっては数MeVの質量を得るだけなので、質量の残りの98%は「強い力」、つまりグルーオンの場に起因すると考えられます。このことが、質量の起源として強い力を研究する動機になっています。

柴田研究室では、具体的には次のような研究をしています。

  1. 1.反クォークの研究:高エネルギーの陽子-陽子反応におけるドレル・ヤン過程の実験(フェルミ国立加速器研)。片方の陽子の中のクォークともう一方の陽子の中の反クォークが対消滅してレプトン対(たとえばミューオン対)に崩壊するのがドレル・ヤン過程です。反クォークの存在を特定することができます。
  2. 2.高エネルギーの偏極した(つまりスピンの方向のそろった)陽子と陽子の衝突型実験(ブルックヘブン国立研)
  3. 3.高エネルギーの電子と陽電子の衝突によるクォーク・反クォーク対の生成(つくばのKEKのBelle実験)
  4. 4.量子色力学の理論的計算

1.は素粒子実験としては少人数の実験で、日・米の大学院生を主とした十数人が中心的な活躍をしています。したがって、大学院在学中に、測定器の設計・製作、データを取るソフトウェアの開発、データの物理解析、理論解析の全部をそれぞれの学生が行います。

特に「陽子のスピンの起源の謎」を解明する研究の先頭に柴田研究室は立っています。陽子のスピンは1/2だが、それがクォークやグルーオンのスピンから宇宙初期にどのように構成されたか、は「陽子のスピンの起源の謎」と呼ばれています。

データ解析の拠点は日本にあり、東工大にいて世界中の実験データを解析することができます。

理論的研究に主力をおいている大学院生もいます。

更に詳しくは、研究室のホームページを見てください。

学生に一言

柴田先生より
  1. 1.ものづくりは物理学の原点です。大型のドリフト・チェンバーを日本で製作して、最近、アメリカの実験室へ飛行機で搬送しました。
  2. 2.物理学は自然科学の一分野なので、自然を観測すること、および実験は、基本的で重要です。同時に、理論による予言・解釈も主要な役割を果たします。実験と理論は車の両輪のようなものです。自然科学としての物理の魅力を十分に感じるためには、実験と理論の両方が重要なので、両面での勉強を薦めています。
  3. 3.自分が身に着けた専門的な知識をわかりやすく人に伝えることは重要で、学年が進むにつれて物理学を介したコミュニケーションによって人との関わりが増えていくのがむしろ自然です。話が専門的すぎて人に伝わらない、ということのないようにすることが大切です。
    こうした考え方に基づいて、大学内での研究に加えて、町に出て積極的に人と関わる機会を研究室では提供しています。町の科学館などでの科学実験教室は、こうした取り組みの一環です。高校生などに物理実験とその背景にある理論を教えることによって、自ら得られる知識も多くあります。
  4. 4.研究室の輪講には、ポッフ他著・柴田利明訳「素粒子・原子核物理入門 改訂新判」丸善、を用いています。ポッフ氏はドイツの共同研究者です。

ドリフト・チェンバーを日本で製作して飛行機でアメリカ・フェルミ国立加速器研究所に輸送しました

ドリフト・チェンバーを日本で製作して飛行機でアメリカ・フェルミ国立加速器研究所に輸送しました

メンバー紹介

  • 教授:柴田利明
  • 助教:中野健一
  • 博士課程:永井慧、小林慶鑑
  • 修士課程:齋藤航、金兌亨、五十嵐浩二、国定恭史、玉虫傑、藤井勇紀、山田遥

学生の声

柴田研究室は、素粒子物理が中心だが、扱っている範囲は広く、それぞれが自分の興味に従って研究テーマを選んでいる。用いている粒子加速器は、日本国内、アメリカ、ヨーロッパにわたっている。

国際共同研究を多く行なっているので、外国人の大学院生や研究者の来訪が頻繁にあり、逆に東工大の大学院生が外国へ出かける機会も多くある。そのような際に、研究室の新しいメンバーなどとの親睦をはかっている。

SeaQuestの日本人メンバー、東工大柴田研究室実験室でテストドリフト・チェンバーを囲んで

SeaQuestの日本人メンバー、東工大柴田研究室実験室でテストドリフト・チェンバーを囲んで

お問い合わせ先

教授 柴田利明
E-mail : shibata@nucl.phys.titech.ac.jp

※この内容は掲載日時点の情報です。最新の研究内容については研究室サイト別窓をご覧ください。

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