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吉野研究室 ―研究室紹介 #15―

スピントロニクスとそのための新物質創成

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2016.11.24

物理学は、自然界に起きるさまざまな現象の中に法則性を見い出し、それを体系化していく学問です。その対象は、素粒子、原子核という極微のスケールから始まり、多彩な構造や性質をもつ原子レベルの物理、さらに我々を取り巻く宇宙まで、あらゆるものを対象にしています。物理学系の研究室では、そのほとんどすべての領域をカバーし、世界をリードする最先端の研究が行われています。

研究室紹介シリーズでは、ひとつの研究室にスポットを当てて研究テーマや研究成果を紹介。今回は、スピントロニクスとそのための新物質を創成する、吉野研究室です。

吉野淳二教授

研究テーマ
新物質創成による物性探索、スピントロニクス
Webサイト
吉野研究室別窓

研究内容

数ナノメートル程度の厚みをもつ磁性をもつ金属と磁性をもたない金属の薄膜を交互に積層した構造で発現する巨大磁気抵抗効果(GMR)は、発見から10年を経ずしてハードディスクに応用され、我々の日常にイノベーションをもたらしました。科学的発見を実用に結び付けるためには、通常30年を要するといわれる中、異常な速さです。この現象では、電子のもつスピンの自由度が、大きな役割を果たしており、関連する研究はスピントロニクスとよばれ、今日のエレクトロニクスに代わるものとして世界的に精力的な研究が進められています。

今日の様々なデバイスの機能は、界面、即ち、異種の物質の接合界面が、大きな役割を果たしています。我々は、物質中の原子配列の制御や異種接合形成によって新しい機能を設計・作製し、物性を評価すること、さらにその評価技術の開発を研究対象としています。現在は、特に、半導体と磁性体を組み合わせた新しい物質群を超高真空ベースとする手法を用いて実際に作製し、物性探索を行うことにより、有用な物性を創成することを一つの目標として研究を行っています。一方、既存でない原子配列を有する物質や異種接合を創るといっても、必ずしも自由に作れるわけではありません。そこで、物質表面を微視的に観測できるSTM(走査型トンネル顕微鏡)をはじめとする物質表面の解析手法を用いて「物質が形成される過程を理解し、異種接合界面を制御して作ること」をもう一つの重要な研究課題としています。

研究詳細

研究領域を一言で言い表すとスピントロニクスですが、表面・界面の物理と化学、デバイス基礎に関する実験研究で、物理とエレクトロニクス、物理と化学の境界領域が研究対象になります。以下に、現在の進行中の具体的な研究課題を示します。

1.強磁性半導体(Ga,Mn)Asの電子構造と磁気的特性の解明
実用半導体であるGaAsに3d遷移金属を添加した(Ga,Mn)Asでは、低温で強磁性が発現します。この磁性の起源を説明するモデルとして、いくつかの有力なモデルがありますが、まだ、決着がついていません。我々は、(Ga,Mn)Asの磁気特性が、10 nm以下の膜厚で強く膜厚に依存する現象を見出しました。現在、この現象を説明するという観点から磁性の起源に迫っています。また、同時に(Ga,Mn)As中のMn近傍の電子構造をスピン偏極走査トンネル顕微鏡法(SP-STM)を用いて直接観察することにチャレンジしています。
2.磁性体中の熱電現象の解明と機能開発
慶応大におられた斎藤英治先生のグループ(現東北大金研)は、強磁性体に温度勾配をつけると内部をmmというスケールで内部にスピン流が流れるという現象(スピンゼーベック効果)を発見し、磁性体中の熱電現象に注目が集まっています。我々は、その起源の解明に向けて(Ga,Mn)AsやYIG中の熱電効果の観測を行うとともに、熱電効果を促進させる新物質の設計・作製の研究を進めています。
3.ハーフメタル型電子構造を有する物質群の創成
通常の磁性金属のフェルミ準位は、上向きスピンバンドと下向きスピンバンドの両方を貫いています。このため、通常の金属から取り出される電子のスピン偏極の度合い、スピン偏極率は、100%より低くなります。フェルミ面が一方のスピンバンドのみを貫く電子構造は、ハーフメタルと呼ばれ、スピントロニクス構築のキーとなる物質と考えられていますが、実際に取り出した電子のスピン偏極率は、物質界面の電子状態に強く依存します。我々は、理想的な界面形成のできるハーフメタルの創成を目指して、閃亜鉛鉱型構造を有するMnAsやCrAsの物質の形成過程を調べています。
4.走査トンネル顕微鏡を利用した界面測定技術の開発
走査トンネル顕微鏡法は、表面近傍の局所状態密度を原子レベルで評価する手法ですが、界面の電子状態を調べるという目的では、あまり威力を発揮できません。我々は、探針から物質中に電子を打ち込み、その物質中の電子の弾道的伝導を捉えるSTM応用技術であるBEEM(Ballistic electron emission microscope)という測定手法を用いて界面の特性を調べる技術の開発に取り組んでいます。

学生に一言

吉野先生より
どんな種類の仕事や研究でも自分から自主的に、熱意をもって取り組むとある段階を越えると面白く感じられるものです。面白く仕事をするコツをつかんでください。また、研究には、分野の境界は無いと思います。様々な分野に興味をもって、視野を広げ、様々な分野にフランクに議論のできる仲間を増やしてほしいと思います。いずれも、将来の何よりの財産になると思います。

メンバー紹介

  • 助教:加来滋
  • 修士課程:今宮健太、浅野隼、安藤達人
  • 卒業研究:綾部貴仁、皆川哲哉

お問い合わせ先

教授 吉野淳二
E-mail : jyoshino@phys.titech.ac.jp

※この内容は掲載日時点の情報です。最新の研究内容については研究室サイト別窓をご覧ください。

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