物理学系 News&Information
磁性体の量子多体現象を極める
物理学は、自然界に起きるさまざまな現象の中に法則性を見い出し、それを体系化していく学問です。その対象は、素粒子、原子核という極微のスケールから始まり、多彩な構造や性質をもつ原子レベルの物理、さらに我々を取り巻く宇宙まで、あらゆるものを対象にしています。物理学系の研究室では、そのほとんどすべての領域をカバーし、世界をリードする最先端の研究が行われています。
研究室紹介シリーズでは、ひとつの研究室にスポットを当てて研究テーマや研究成果を紹介。今回は、磁性体の量子多体現象を極める、田中研究室です。
様々な空間構造をもつ磁性体の基底状態、温度や磁場によって誘起される相転移と臨界現象、磁気励起と磁気共鳴などを主に量子効果と多体効果の観点から研究しています。また、磁性体を中心に新物質開拓に力を入れています。研究のスタイルは、実験試料すなわち結晶を自ら作成し、物質の磁性を様々な実験手段で調べることを基本方針にしています。実験は私達の研究室の装置及び、共同利用施設の装置を利用しています。また他機関との共同研究も積極的に行っています。
通常の強磁性体や反強磁性体ではスピンの秩序化が何の問題も無く起こります。ところが三角格子反強磁性体や籠目格子反強磁性体のような系では、人間社会と同じように三角関係が生じてしまい、フラストレーションが溜まってスピンの秩序化がすんなりと起こりません。その分、逆に顕著な量子効果が現れます。このような磁性体の問題児の変わった振る舞いはなかなか興味深いものがあります。
図:三角格子半強磁性体のスピン状態と磁場中で起こる磁化の量子化現象。
スピンを担う磁性原子が特殊な構造をもつ磁性体では量子効果のために基底状態が磁場を加えても磁化がでないシングレット状態になることがあります。また磁化曲線に磁場を増加しても磁化が変化しないプラトーが幾つか出現することがあります。これらのメカニズムを解明したり、このような系で起こる磁気励起、緩和現象を研究しています。
図:Ba2CoSi2O6Cl2の結晶構造と磁化曲線。
基底状態がスピンシングレットで励起状態との間にギャップがある磁性体をスピンギャップ磁性体とよびます。このスピンギャップ磁性体にギャップを壊すほどの強い磁場を加えると、ある温度で磁気秩序が起こります。この磁場誘起相転移はマグノン(スピン対のトリプレット状態)のボース-アインシュタイン凝縮であることが分かりました。マグノンのボース-アインシュタイン凝縮を起こるとマグノンのコヒーレントな流れが生じる可能性があります。これを是非観測したいと考えています。
図:左は研究対象のスピンギャップ磁性体TlCuCl3の結晶構造。右は磁場中のマグノンを表す模式図。
上記(1)~(3)の研究対象となる物質を私達の研究室で多数発掘開拓してきました。良質の結晶は内に潜む物理を暗示するかのように深い深い色をたたえていて、いつまで見ても見飽きません。新しい物理現象は新しい物質から生まれるという信念の下に、磁性体を中心に新物質開拓に力を入れています。
教授 田中秀数
E-mail : tanaka@lee.phys.titech.ac.jp
※この内容は掲載日時点の情報です。最新の研究内容については研究室サイトをご覧ください。