物理学系 News&Information
固体表面、ナノ物質の新奇物性を解明する
物理学は、自然界に起きるさまざまな現象の中に法則性を見い出し、それを体系化していく学問です。その対象は、素粒子、原子核という極微のスケールから始まり、多彩な構造や性質をもつ原子レベルの物理、さらに我々を取り巻く宇宙まで、あらゆるものを対象にしています。物理学系の研究室では、そのほとんどすべての領域をカバーし、世界をリードする最先端の研究が行われています。
研究室紹介シリーズでは、ひとつの研究室にスポットを当てて研究テーマや研究成果を紹介。今回は、固体表面、ナノ物質の新奇物性を解明する、平原研究室です。
当研究室では量子力学、相対論的な効果が固体中でマクロに現れる現象を表面を通して実験的に観るという目標をかかげ、物質開発、実験手法開拓、そして新奇物理現象発見という3つの柱を軸として研究を進めていきます。
ノーベル物理学賞を受賞したPhilip Warren Andersonは"More is different"という有名な言葉を残されていますが、これは多様な物質の中に潜む統一的な原理を解明しようという物性物理学の本質を表しています。一方Wolgang Pauliは"God made solids, but surfaces were the work of the devil !"ということを言っており、これは物質の内部と表面では性質が全く異なるということを示しています。表面の研究の歴史は古く、真空技術や電子線の発展とは切っても切り離せず、量子力学の概念の構築に寄与しました。
現在でも表面を舞台にした低次元系は新たな観点から大きな注目を浴びており、私達の研究室では表面で起きているもっと新しく、面白い物理現象を解明したいと思っております。具体的にはスピン軌道相互作用の効果が物質表面での空間反転対称性の破れによって顕著に現れる例が多く見つかり(ラシュバ効果)、物質のトポロジカルな概念の浸透とともに(トポロジカル絶縁体)物性物理の一つのトレンドになりつつあります。トポロジカル絶縁体では表面にスピン偏極したディラック電子が存在し、多くの興味深い特性を示します。そして単原子層あるいは原子数層の厚さという究極に薄い物質では、素粒子物理においてさえまだ検出されていない新奇な粒子が出現し、それを比較的簡単に実験的に観測できることも分かってます。このような「物質中に広がる高エネルギー物理の世界」を開拓することが本研究室の目指すところです。
平原研究室は2014年6月に発足した比較的新しい研究室です。2015年度から学生さんが加わり本格的な研究活動を始めました。しかしまだまだ発展途上であり、やる気のある学生さんが新しい戦力として研究室に入ってくれることを期待してます。
大学院での研究生活はこれまで学んできたことを発展させ、物理を学問として研究するのみならず、それを通して今後の人生に役立つ思考力や問題解決能力を養う場であると私は考えております。ですので研究を通して、主体的に行動し物事の様々な局面で適切な判断ができるようになってくれることを願っています。また、自分の手を動かして様々な失敗を経験することで人間的にも一皮も二皮も成長できると思います。
研究内容は難しいですが、4年生でも基本的な知識と実験テクニックを身に付ければ最先端の研究に着手することができます。電子・光を使って表面・ナノワールドを体験して、これまで教科書を読んで知識として学んだことを実際に体験するとともに、未知の物理を開拓してみませんか?興味を持った方は、是非一度見学に来てください。
准教授 平原徹
E-mail : hirahara@phys.titech.ac.jp
※この内容は掲載日時点の情報です。最新の研究内容については研究室サイトをご覧ください。