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貴金属フリー触媒開発に貢献
東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所の原亨和教授、喜多祐介助教と鎌田慶吾准教授(ともに材料コース 主担当)らの研究チームは、バイオマスに多く含まれるアルコールから医農薬品の原料として多用されるケトンを合成するマンガン触媒の開発に成功した。
ピロール類やキノリン類などの高価値化成品の製造では、従来は貴金属触媒が使われてきたが、価格の高さや希少性、リサイクルの難しさなどから、マンガン、鉄等の安価な金属を用いた代替触媒材料の開発が進められている。
本研究では、従来の研究で明らかになっていた、アルコールの変換反応における酸化マグネシウムの促進効果をマンガン触媒に適用した。この触媒では、特に窒素を含む原料を用いることで、腫瘍性疾患の治療薬の原料となるピロールやサプリメントとして市販されるビタミンB群の原料となるキノリンを合成することに成功した。さらに開発したマンガン触媒の反応機構や触媒効果についても検討しており、今後の貴金属フリー触媒開発に貢献する研究成果と言える。
持続可能な社会の実現に向けて、「安価で入手容易な元素」を用いた触媒の開発が望まれており、本研究成果は地球上に豊富に存在するマンガンの触媒作用に関する重要な発見である。
本研究成果は、米国化学会誌「ACS Catalysis」オンライン速報版に9月13日付で公開された。
医薬品や農薬、サプリメントの原料となるピロール類やキノリン類は高価値な化成品であり、その市場規模は1,000億円を超えている。これらの化成品はパラジウム、ルテニウムなどの貴金属を触媒として製造されるが、そのことが製造コストを大幅に押し上げる要因になっている。また、貴金属は埋蔵量が少なく、近年の触媒構造の複雑さから触媒材料のリサイクルも容易ではないため、代替の触媒材料の研究開発が進められている。このような背景の中で、マンガン、鉄等のユビキタスで安価な金属が貴金属代替材料として注目されている。
原教授の研究グループはこれまでの研究で、バイオマスに含まれるアルコールの変換反応において、酸化マグネシウム(MgO)が顕著な促進効果を示すことを報告している[参考文献1]。今回の研究では、このMgOの促進効果をマンガン触媒に適用することで、アルコールの炭素-酸素結合を炭素-炭素結合に変換可能なことを明らかにした。この反応により、医薬品や合成染料の合成中間体として利用されるピロール類やキノリン類の合成を達成した。このマンガン触媒は、既存のマンガン触媒や単純なマンガン酸化物だけでなく、同じ手法で調製した貴金属触媒よりも高い活性を得ることができた。
この反応機構を検討したところ、ヒドリド種[用語1]を経由した経路で反応が進行することが明らかになった。この反応機構の中では、MgOからマンガンへの電子供与によりマンガンとヒドリドの間の結合が伸長し、ヒドリド種の反応性を向上させることを確認している(図1)。この特異な反応経路を経ることで、一般的なマンガン触媒では変換することが困難な、脂肪族アルコールの変換も可能になっている。
不均一系マンガン触媒についてはこれまで、4価のマンガンが触媒活性種として形成することが報告されていた。一方、本研究では、高活性を示す触媒では2価が主として存在し、酸化数が大きくなると触媒性能が大きく低下した(図2)。高酸化数のマンガンは一般に酸化触媒として利用されることから、不活性ガス雰囲気と酸素雰囲気でそれぞれの触媒の性能を評価した。その結果、マンガンの酸化数が触媒性能に大きな影響を与えることを見出し、酸化数の低いマンガンはヒドリドを形成する反応経路(図3a)で進行し、酸化数の高いマンガンはアルコールの酸化を経る反応経路(図3b)で進行することが明らかになった。このように、マンガンの酸化数により触媒性能が大きく変化する触媒系は非常に珍しい。さらに、マンガン上に結合したヒドリド種の反応性について詳細に検討したところ、MgOからマンガン酸化物への電子供与が反応促進に寄与していることが確認できた。
本研究成果は、自然界に豊富に存在するマンガンやマグネシウム、アルミニウムを触媒として用いることで、入手容易な有機化合物から有用な有機化合物を少工程数かつ低コストで合成するという究極的な目標達成につながるものである。将来的には、環境負荷の高い金属触媒に頼る化学合成から脱却し、有用な有機化合物を提供することで、人類の持続的発展に貢献することが期待される。
本研究で開発したMgO共担持マンガン触媒は、ヒドリドを経由した変換反応を促進することから、分子状水素やヒドロシラン[用語2]などのヒドリド源を用いた変換反応にも適用できる可能性が高く、高付加価値な化成品合成に利用できると考えられる。金属の酸化数が触媒性能に与える大きな影響を、さまざまな非貴金属触媒において系統的に調べることで、特異的な触媒作用の開拓に大きく貢献することが期待される。
本成果は、日本学術振興会(JSPS)の科学研究費助成事業 基盤研究(S)(18H05251)および国際・産学連携インヴァースイノベーション材料創出プロジェクトの支援を受けて得られた。
[1] Y. Kita, M. Kuwabara, S. Yamadera, K. Kamata, M. Hara, Chem. Sci. 2020, 11, 9884. 2020年9月17日 東工大ニュース「バイオマス資源からアミンを直接合成できる新触媒 」
掲載誌 : | ACS Catalysis |
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論文タイトル : | Heterogeneous Low-valent Mn Catalysts for α-Alkylation of Ketones with Alcohols through Borrowing Hydrogen Methodology |
著者 : | Yusuke Kita, Midori Kuwabara, Keigo Kamata, Michikazu Hara |
DOI : | 10.1021/acscatal.2c03085 |
お問い合わせ先
東京工業大学 科学技術創成研究院
フロンティア材料研究所
教授 原亨和
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