材料系 News
先端無機触媒材料の創製
材料系では「金属」「有機材料」「無機材料」の3つの分野にフォーカスし、独創的かつ挑戦的な研究・開発を推進しています。
研究室紹介シリーズでは、ひとつの研究室にスポットを当てて研究テーマや研究成果を紹介。今回は、不可能を可能にする触媒をつくる、原・鎌田研究室です。
無機材料分野
材料コース・エネルギーコース
研究室:すずかけ台キャンパス・R3棟407・404号室
教授 原亨和 准教授 鎌田慶吾 助教 喜多祐介 特任助教 服部真史 特任助教 チャンドラ・デブラジ
研究分野 | 触媒 / 化学反応 / 無機 / 不均一系触媒作用 |
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キーワード | 触媒、エネルギー変換、バイオマス変換、アンモニア、触媒化学、無機合成化学、物理化学、有機化学 |
Webサイト | 原・鎌田研究室 原亨和 - 研究者詳細情報(STAR Search) 鎌田慶吾 - 研究者詳細情報(STAR Search) 喜多祐介 - 研究者詳細情報(STAR Search) 服部真史 - 研究者詳細情報(STAR Search) チャンドラ・デブラジ - 研究者詳細情報(STAR Search) |
化石資源に頼らないエネルギーと化学資源の生産、人々を飢えさせない肥料生産、省エネで環境に優しいプロセス。これらは我々人類が末永く地球と共生するために解決しなければならない課題です。しかし、多くの「不可能」がこれらの実現に立ちはだかっています。
今日の不可能を可能にする触媒を生み出し、人類社会に貢献する。これが原・鎌田研究室のミッションです。これまで私たちは新たな科学技術を武器に前人未到の野を切り開き、革新触媒材料を創生してきました。現在3つの大型プロジェクトが進行中。今日の数多くの不可能を可能に変えて行く。これが私たちの挑戦です。
現代社会は石油、石炭、天然ガスといった化石資源によって支えられています。その結果、排出されたCO2は地球上の生命全てを脅かしています。それなのに、なぜ私たちは化石資源から脱却できないのか?それはエネルギーだけでなく、電子・通信機器、輸送、衣料、住空間に使われるプラスチックやポリマー、さらには農薬、医薬が化石資源を原料としているためです。現代文明は木材、石、金属だけで成り立ちません。さらに追い討ちをかけるように化石資源の枯渇が目前に迫っています。今や、CO2による地球規模の環境・生態系の破壊が先か、化石資源枯渇による現代文明の崩壊が先かの競争になっています。
再生する植物-バイオマス-からエネルギーと化学資源を生産すること、そしてエネルギー消費を極限まで減らして化学資源を生産することは環境破壊なしに現代社会が存続するための必須条件です。しかし、これまでの科学技術でこの条件を満たすことはできません。このような背景の中、私たちは新しいコンセプト、科学、技術を昇華させ、これらの問題を解決する革新触媒「ソリッドアシッド」達を生み出すことに成功しました。ナノグラフェンから生み出される「Protonic Solid」、「Sugar Catalyst」、水中でもルイス酸として働く無機酸化物触媒「P-ETO」。これらのソリッドアシッドはこれまで不可能だった化学資源生産や植物の化学資源化を実現する触媒として既に実用化されています。
しかし、まだまだ不可能なことはあまりにも多い。私たちの挑戦に終わりはありません。
19世紀初頭、西欧文明は崩壊の危機に瀕していました-産業革命で急増した人口に十分な食糧を供給できない-。この危機を救ったのが、人口アンモニア合成「ハーバー・ボッシュ法」による化学肥料の生産です。現在では、世界人口80%の生命をハーバー・ボッシュ法が支えています。しかし、100年以上私達を支えてきたハーバー・ボッシュ法ですら近年激増している人口をまかなえないことがわかってきました。19世紀初頭の危機が、今度は世界レベルで襲来します。
ハーバー・ボッシュ法で使われている触媒は鉄をベースにした材料ですが、この触媒を出し抜く触媒はハーバー・ボッシュ法の生誕以来100年以上現れていません。しかし、細野研究室と原研究室の夢のコラボによって生み出されたアルミナセメント由来の「Electride Catalyst」はアンモニア製造100年の沈黙を破る超触媒として世界を震撼させました。
材料科学、固体物理、化学の申し子であるこの革新触媒は、低いエネルギー消費で桁違いの性能を発揮するため、他の追随を許さない触媒として、実用化が急ピッチで進んでいます。さらに、細野-北野-原連合はこの触媒を遥かに上回るカルシウム窒化物触媒の開発に成功(Chem. Sci. 7, 4036 (2016), ACS Catal. 6, 7577 (2016))。我々の敵は我々です。
酸化反応は、化学プロセスの3割を占める最も基本的かつ重要な反応の一つですが、反応制御の観点からは今なお多くの課題を抱えています。例えばプロピレン酸化でウレタン原料として重要なPOのみ合成したい場合、他の化合物(AA、CO、CO2など)の生成をいかに抑えるかがキーになります。そこで触媒という材料が重要な役割を果たします。
我々はこれまでに、水のみが副生成物である理想的な酸化剤である過酸化水素(H2O2)を用い、新規材料である金属酸化物クラスター触媒によるH2O2有効利用率ほぼ100%となる高難度選択酸化反応(例えば、プロピレンのエポキシ化反応、アルカンの水酸化)を実現してきました。一方、酸化剤として分子状酸素(O2)のみを用いる優位性にも関わらず、O2酸化の有用性や適用性は未だ限定されています。特に、O2を温和な条件下で活性化でき広範な基質に適用できる不均一触媒反応系の報告例はほとんどありません。原・鎌田研究室のコラボにより、二酸化マンガン触媒によるO2のみを酸化剤としバイオマス由来の5-ヒドロキシメチルフルフラールからの機能性高分子原料である2,5-フランジカルボン酸(FDCA)合成系の開発に成功しました。また、選択酸化に有効な“複核金属ユニット”あるいは“高原子価金属種”を構成元素とするペロブスカイト材料の設計・創出を行い、O2の還元的活性化と活性酸素種の反応性制御に基づいた選択酸化反応系の構築にも成功しています。これら知見を活かし、厳密な活性サイトをもつ革新的固体触媒に挑戦しています。「メタンハイドレートのエネルギーキャリア化としても注目されるメタンからメタノールへの直接酸化」や「モノマーやグリコール中間体として需要が急増しているプロピレンオキシドの直接酸化合成」といった“夢の触媒反応”を実現する革新触媒の創成を目指しています。
触媒学会 優秀ポスター発表賞、日本化学会 学生講演賞、CSJ化学フェスタポスター賞など
日本学術振興会特別研究員
東芝、JX日鉱日石エネルギー、トヨタ自動車、三菱樹脂、信越化学、本田技研工業、凸版印刷、日立製作所、日立化成、BASF、日本触媒、旭硝子、 日産自動車、 日東電工、太陽石油など
JST ALCA実用化、JST さきがけ、JSPS 基盤B
JST ACCEL、NOVACAM、CREST、A-STEP
教授:1名 原亨和、准教授:1名 鎌田慶吾、助教:3名 喜多祐介 服部真史 チャンドラ・デブラジ、秘書:1名、博士研究員:3名、研究員:5名、修士課程:12名、卒論(無機材料工学):2名
材料系の全研究室を紹介したパンフレットは広報誌ページでご覧いただけます。
教授 原亨和
E-mail : hara.m.ae@m.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5311
准教授 鎌田慶吾
E-mail : kamata.k.ac@m.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5338
※この内容は2016年4月発行の材料系 無機材料分野パンフレットによります。最新の研究内容については各研究室にお問合せください。