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ギャップ長20 nmのナノギャップガスセンサの開発に成功

酸素ガスに対する応答速度が従来センサの約300倍高速化

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2021.06.23

要点

  • 20 nmギャップ長のナノギャップ酸素ガスセンサを開発
  • ガスセンサ応答が既存のガスセンサと比較して約300倍高速化
  • さまざまなガスに対応する既存のガスセンサの高速化・高機能化が可能

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所の真島豊教授(材料コース 主担当)、Phan Trong Tue(ファンチョントゥエ)助教(研究当時)の研究グループは、抵抗変化型ガスセンサの電極間隔(ギャップ長)に注目し、20 nmのナノギャップ電極[用語1]とすることで、従来のガスセンサと比較して約300倍高速化したガスセンサを開発することに成功した。

ガスセンサは、医療・健康分野、環境分野、安全分野などさまざまな用途で利用されているが、今後さらに生活価値(QOL)の向上に貢献するにはその高速化・高機能化が欠かせない。本研究では、一般的な抵抗変化型ガスセンサについて、電子線リソグラフィ[用語2]を用いてギャップ長を制御することで、ギャップ長とガスセンサ応答の関係を検討した。その結果、ギャップ長が35 nm以下になるとガスセンサ応答が高速化することがわかった。本研究で開発した20 nmのナノギャップガスセンサでは、酸素ガスに対する応答速度を、一般的なギャップ長(12 µm)のガスセンサの約300倍に高速化することに成功した。

今回開発したナノギャップガスセンサでは、ガス検出材料として酸化セリウム[用語3]を用いた。このセンサの酸素、水素、一酸化炭素に対する応答を検討したところ、酸素ガスへの高い選択性があることがわかった。ただし、ナノギャップガスセンサを構築する際に最適なガス検出材料を選択すれば、どのガスに対するガスセンサでも高速化・高機能化することが可能であるため、産業用途への幅広い応用が期待される。

今回の成果は、ガスセンサ分野で最も権威のある学術誌の1つであるSensors and Actuators B: Chemicalのオンライン版に5月9日に掲載された。

背景

ガスセンサは、大気または環境内のガスの存在や、その濃度を検出するデバイスである。これまでにさまざまな種類のガスセンサが開発され、ガス警報器などで使用されている。そのうち抵抗変化型ガスセンサは、ガスの濃度に応答してガス検出材料の抵抗が変化することを利用して、ガスの種類と濃度を検出する一般的な種類のガスセンサである。このガスセンサは、ガス検出材料の抵抗を測るために、対向する一対の電極でガス検出材料を挟む構造をとるが、この電極のギャップ長を0.1 µm以下とすることはこれまで検討されてこなかった。

研究成果

真島教授らはこれまでの研究で、電子線リソグラフィにより、20 nm以下のギャップ長を有する白金ナノギャップ電極を作製する技術を確立してきた。今回の研究では溶液プロセスにより、ガス検出材料となる酸化セリウム膜を形成した。具体的には、ボトムコンタクト型ナノギャップガスセンサ(図1左)と、先に酸化セリウム膜を形成し、後に白金ナノギャップ電極を作製するトップコンタクト型ナノギャップガスセンサ(図1中央、右)を作製することに成功した。

図1. ナノギャップガスセンサ(ボトムコンタクト型(左)、トップコンタクト型(中央)、20 nmギャップ長のトップコンタクト型ナノギャップガスセンサの電子顕微鏡写真(右))

  1. 図1.ナノギャップガスセンサ(ボトムコンタクト型(左)、トップコンタクト型(中央)、20 nmギャップ長のトップコンタクト型ナノギャップガスセンサの電子顕微鏡写真(右))

作製したガスセンサのうち、20 nmギャップ長のトップコンタクト型ナノギャップガスセンサについて、酸素ガス導入時の抵抗変化の応答速度を測定し、一般的な12 µmギャップ長のガスセンサと比較した(図2)。その結果、応答速度はそれぞれ10秒と3,200秒であり、ナノギャップガスセンサは約300倍高速に応答した。

ナノギャップガスセンサ-

一般的なガスセンサー

  1. 図2.20 nmギャップ長のトップコンタクト型ナノギャップガスセンサと12 µmギャップ長ガスセンサの酸素ガス導入時の抵抗応答

さらに応答速度のギャップ長依存性を調べたところ、ギャップ長が35 nm以下となると応答速度が格段に高速化することが明らかになった(図3)。ボトムコンタクト型ナノギャップガスセンサにおいても、トップコンタクト型と同等の応答速度が得られている。

図3. 応答速度のギャップ長依存性

図3. 応答速度のギャップ長依存性

研究の経緯

真島教授のグループでは以前から、数nmスケールの極めて小さい分子トランジスタの安定動作実現に向けた研究を進めてきており、ナノギャップ電極構築技術を確立してきた。本研究で開発したナノギャップガスセンサは、このナノギャップ電極をガスセンサに応用したものである。

今後の展開

今回報告したナノギャップガスセンサは、一般に使われているガスセンサのギャップ長を35 nm以下に狭くすることで高速応答を実現するものであるため、工業的な応用価値が高いといえる。今後は企業などと連携して、実用化に向けた研究開発を展開する。

Mind the Nanogap: Fast and Sensitive Oxygen Gas Sensors

  • 付記

本研究は、元素戦略プロジェクト<研究拠点形成型>電子材料領域の支援を受けて行われた。

  • 用語説明

[用語1] ナノギャップ電極 : 間隔がナノメートルオーダーの電極対。

[用語2] 電子線リソグラフィ : 半導体集積回路の製造過程において、電子線を使って回路パターンを形成する方法。

[用語3] 酸化セリウム : 希土類酸化物である化学式 CeO2で表されるセリウムの酸化物。化粧品、触媒、燃料電池、研磨剤など多様な用途がある。

  • 論文情報
掲載誌 : Sensors and Actuators B: Chemical
論文タイトル : 20-nm-Nanogap Oxygen Gas Sensor with Solution-Processed Cerium Oxide
著者 : Phan Trong Tue, Tsubasa Tosa, Yutaka Majima
DOI : 10.1016/j.snb.2021.130098別窓

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院
フロンティア材料研究所

教授 真島豊

E-mail : majima@msl.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5309 / Fax : 045-924-5376

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