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有害元素フリーの高効率青色発光体を実現

LEDをマイルドな製造環境で作製可能に

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2018.09.21

ポイント

  • 蛍光量子効率90%の青色蛍光体を開発
  • 有害元素を含まず室温で溶液から合成可能
  • 電子注入層、正孔注入層の組み合わせでLEDの作製可能

低消費電力で高輝度に光る発光ダイオード(LED)は、ディスプレイや照明などの光源として大きなニーズがあります。また、大面積で発光するデバイスとしては、発光層に有機分子を用い、適当な電子注入層と正孔注入層[用語1]で挟んで電圧を印可し電子と正孔を有機層で結合させる有機EL(OLED有機発光ダイオード)が知られており、近年では、大型テレビや高精細液晶ディスプレイに用いられています。しかしながら、有機発光層の寿命や化学的安定性などの問題を抱えていました。

東京工業大学 科学技術創成研究院の細野秀雄教授と元素戦略研究センターの金正煥助教ら研究グループは、ペロブスカイト[用語2]に類似した構造を持つ物質Cs3Cu2I5が青色発光し、その量子効率が90%以上あることを見出しました。この物質は、大気中でも安定で、溶液から容易に成膜することが可能です。ペロブスカイト型発光材料の研究は世界的に盛んに行われていますが、材料に鉛やカドミウムを含んだものが多く、このような有害成分を含まずに安定で高い発光効率を示す物質が求められていました。今回の発光物質はこのニーズに応えるものです。また、新たに見出した黄色発光物質を組み合わせることで、白色発光するLEDの作製にも成功しました。

本研究成果はドイツ科学誌「Advanced Materials」に速報としてオンライン版に2018年9月14日付で公開されました。

本成果は、以下の事業・研究課題によって得られました。

文部科学省 元素戦略プロジェクト<拠点形成型>

研究課題名
「東工大元素戦略拠点」
代表研究者
東京工業大学 元素戦略研究センター センター長 細野秀雄
PM
元素戦略研究センター 雲見日出也 特任教授
研究実施場所
東京工業大学
研究開発期間
2013年7月~2022年3月

研究の背景と経緯

電子と正孔を電極から注入して発光層で再結合させて光らせるLEDは、照明だけでなくディスプレイ用途でも急速に実用化が始まっています。これらは発光層に有機分子を用いたものですが、その材料自体の寿命や、水や酸素との反応による発光特性の劣化が問題でした。この問題を解決するために、半導体量子ドットやペロブスカイト系の発光材料の研究が世界的に活性化しつつあります。しかしながら、発光効率の高い材料は有害なカドミニウムや鉛を含んでいることから、有毒元素フリーで発光効率が高くかつ安定な発光材料が求められていました。

研究の内容

今回、有害な元素あるいは化学的に弱い有機物を含まない高効率な無機発光物質としてCs3Cu2I5(以後CCI325)に注目しました。この物質は、CuI4の4面体が2つ連結したユニットがCsイオンで囲まれている構造をとっています(図1)。

(ア)Cs3Cu2I5の結晶構造(緑:セシウムCs、青:銅Cu、紫:ヨウ素I)、密度汎関数計算から得られた(イ)伝導帯下端および(ウ)価電子帯上端の電荷密度

図1.(ア)Cs3Cu2I5の結晶構造(緑:セシウムCs、青:銅Cu、紫:ヨウ素I)、密度汎関数計算から得られた(イ)伝導帯下端および(ウ)価電子帯上端の電荷密度

このCuの2量体が発光中心のため、電子的には0次元と見做すことができます[用語3]。効率の高い発光には光で励起した際に生じる励起子が、室温でも十分に安定である必要があります。この物質中での励起子の結合エネルギーは、およそ500 meVもあり、室温の熱エネルギーの20倍に相当します。これまでの3次元的電子構造をもつ無機ペロブスカイト発光体よりも1桁大きな値になります。この強い結合エネルギーは、電子系が0次元のために励起子が強く閉じ込められた結果と考えることができます。

Cs3Cu2I5単結晶の(ア)発光している試料の写真および(イ)高分解能電子顕微鏡による原子配列像(ウ)溶液法で作製された薄膜の発光(PL)および励起(PL)Eスペクトル

図2. Cs3Cu2I5単結晶の(ア)発光している試料の写真および(イ)高分解能電子顕微鏡による原子配列像(ウ)溶液法で作製された薄膜の発光(PL)および励起(PL)Eスペクトル

この物質は単結晶だけでなく、薄膜も溶液から合成することができます。発光のピーク波長は430 nm付近に存在し、強い青色発光を示します(図2)。そして、発光の量子効率は単結晶で90%以上、溶液からスピンコート[用語4]で作製した薄膜でも60%以上で、これまで報告された無機ぺロブスカイト発光体の中では最も高効率です(表1)。

表1. 従来のハライド系青色発光体との量子効率の比較

  電子構造の次元 State 発光中心(nm) 量子効率(%)
CH3NH3PbBr3 3D QD in solution 432 > 40
CsPbCl1.5Br1.5 3D QD in solution 455 37
Cs3Sb2Br9 2D QD in solution 410 46
C4N2H14PbBr4 1D Single crystal 475 20
Cs3Bi2Cl9 0D QD in solution ~400 0.09
MA3Bi2Br9 0D QD in solution 430 12
Cs3Cu2I5 0D Thin film (Spin coating) ~445 62.1
Single crystal 91.2

作製した薄膜を大気中に2ヵ月間放置しても発光効率は低下しませんでした。さらに、新たに開発した黄色発光体と組み合わせると白色発光します。またLEDを試作し、動作できることも確認しました。

今後、電子注入層と正孔注入層を最適化することで高い電流効率が得られると考えられます。

(ア)青色発光のCs3Cu2I5と新規黄色発光体の粉末を混合し、白色フィルムを作製(イ)混合比に伴う色度の変化(ウ)白色フィルムのPLスペクトル(エ)Cs3Cu2I5を発光層に用いた青色発光ダイオード

図3. (ア)青色発光のCs3Cu2I5と新規黄色発光体の粉末を混合し、白色フィルムを作製(イ)混合比に伴う色度の変化(ウ)白色フィルムのPLスペクトル(エ)Cs3Cu2I5を発光層に用いた青色発光ダイオード

今後の展開

今回、有害元素を含まず、高い効率で青色に発光する安定な発光体の開発に成功することができました。また、大気中でスピンコートするだけで形成できる実用的なLEDを製造できる可能性が高まりました。製造にあたり日本はヨウ素の埋蔵量が世界2位のため、元素戦略的にも課題は少ないと考えられます。注入する電子と正孔の濃度を同程度になるように電子注入層と正孔注入層を最適化することで、どこまで高効率化が図れるかが今後の課題となります。

用語説明

[用語1] 電子注入層と正孔注入層 : LEDでは両側の電極から電子と正孔を注入し、発光層でそれらを再結合させ発光させる。一般は電極と発光層の間にはかなりのエネルギー障壁が存在するが、そこにその障壁を低減させるために挟む半導体層。

[用語2] ペロブスカイト : 組成式RMO3(R、Mは金属カチオン)をもつ結晶で、立方晶の各頂点に金属Rが、体心に金属Mが、そして金属Mを中心として、酸素Oは立方晶の各面心に配置している。極めて多くの金属イオンの組み合わせが、この構造をとることが知られている。

[用語3] 0次元の量子閉じ込め : 電子の存在する場所が原子の大きさと同じくらい狭い領域になっており、「点」と見做すことができる。

[用語4] スピンコート : 基板に塗布したい物質を含む溶液を滴下して、そのあと回転させることにより膜を形成する方法。

論文情報

掲載誌 : ADVANCED MATERIALS
論文タイトル : Lead‐Free Highly Efficient Blue‐Emitting Cs3Cu2I5 with 0D Electronic Structure
著者 : Taehwan Jun, Kihyung Sim, Soshi Iimura, Masato Sasase, Hayato Kamioka, Junghwan Kim, Hideo Hosono(上岡隼人氏の所属は日本大学文理学部、他は東京工業大学)
DOI : 10.1002/adma.201804547 別窓

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院 教授
/元素戦略研究センター長
細野秀雄

E-mail : hosono@msl.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5009 / Fax : 045-924-5009

東京工業大学 元素戦略研究センター 助教

金正煥

E-mail : JH.KIM@mces.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5196 / Fax : 045-924-5196

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