材料系 News
バイオテクノロジーを活用した環境調和型高分子材料の創成
材料系では「金属」「有機材料」「無機材料」の3つの分野にフォーカスし、独創的かつ挑戦的な研究・開発を推進しています。
研究室紹介シリーズでは、ひとつの研究室にスポットを当てて研究テーマや研究成果を紹介。今回は、二酸化炭素やバイオマスを原料として、微生物の体の中でプラスチックを合成する研究に取り組む、柘植研究室です。
無機材料分野
ライフエンジニアリングコース・材料コース
研究室:すずかけ台キャンパス・J2棟605号室
准教授 柘植丈治
研究分野 | バイオマスプラスチック / 生分解性高分子 / バイオプロセス / 化学合成無機栄養細菌 |
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キーワード | バイオベースポリマー、生分解性ポリエステル、化学合成無機栄養細菌、二酸化炭素 |
Webサイト | 柘植研究室 柘植丈治 - 研究者詳細情報(STAR Search) |
近年、地球温暖化、酸性雨、海洋汚染、生態系の破壊など、深刻な環境問題が提起され、地球環境と調和する人間社会の形成が全世界的な課題となっています。柘植グループでは、持続可能な社会を実現するための科学技術の一つとして、再生可能な植物資源(糖、植物油)や二酸化炭素から生分解性高分子(バイオポリエステル)を微生物生産し、それらを高性能材料にするための基礎研究を進めています。とくに、バイオテクノロジーを駆使して、バイオポリエステルの生合成、関連酵素遺伝子の取得と解析、高生産微生物の分子育種、そして、生体高分子の構造解析と機能開発、生分解性高分子の材料設計という研究に関して、高分子科学と生物科学の両面から研究を進めています。
環境に調和する生分解性のバイオポリエステルを、再生可能な炭素源から効率よく大量に微生物生産するシステムの開発が大きな目標です。多くの微生物は、エネルギー貯蔵物質として(R)-3-ヒドロキシアルカン酸の光学活性ポリエステルを生合成し、体内に顆粒状に蓄えています。これらバイオポリエステルは、自然環境中の微生物によって完全に分解され、最終的に無機化される生分解性プラスチックです。これまでに、高性能バイオポリエステルを生産する微生物からポリエステル生合成遺伝子を取得し、その機能の解析をするとともに、安価な植物油から共重合ポリエステルを大量に生産する遺伝子組換え微生物の分子育種を行ってきました。遺伝子工学、代謝工学、タンパク質工学、進化分子工学の各基礎技術を応用し、ポリエステル生産のための代謝経路を最適化することで、糖、植物油などの再生可能資源からバイオポリエステルを効率的に生産する研究を進めています。
化学合成独立栄養細菌は、二酸化炭素を炭素源として、無機化合物をエネルギー源として生育する微生物で、優れた二酸化炭素固定能を有しています。この微生物を利用することで、二酸化炭素から直接的にバイオポリエステルやモノマーなどの有機物を作り出す研究を行っています。とくに、太陽光や風力のような再生可能エネルギーを化学エネルギーに変換して無機化合物に蓄え、さらに酵素反応を利用して生体エネルギーとして取り出すことで、微生物を用いたもの作りに応用する方法を研究しています。
理想的な生分解性高分子材料は、使用している間は優れた性能を発揮し、廃棄後は微生物によって完全に分解されて自然界の炭素循環サイクルに組み込まれる材料です。優れた性能をもつ生分解性高分子材料を分子設計するためには、材料の物性と生分解性を同時に制御できる方法論を構築する必要があります。高分子の分子・固体構造を制御することにより、合目的な性能や機能をもつ生分解性高分子材料を創成することを目的とした基礎研究を進めています。
以上のように、本グループでは高分子科学と生物科学の融合を目指し、理化学研究所・阿部英喜グループ(バイオプラスチック研究チーム)と連携して研究を進めています。また、北海道大学や東京大学、海外の大学などとも共同研究を行っています。バイオプラスチックや生分解性プラスチックに興味のある方、やる気のある方の参加を待っています。異分野からの参加も大歓迎です。
教員1名、博士研究員1名、博士学生4名、修士学生7名
高分子学会、日本生物工学会、日本農芸化学会、米国微生物学会ほか
材料系の全研究室を紹介したパンフレットは広報誌ページでご覧いただけます。
准教授 柘植丈治
E-mail : tsuge.t.aa@m.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5420
※この内容は2016年4月発行の材料系 無機材料分野パンフレットによります。最新の研究内容については各研究室にお問合せください。