材料系 News
環境性能に優れた高温構造用材料の開発
材料系では「金属」「有機材料」「無機材料」の3つの分野にフォーカスし、独創的かつ挑戦的な研究・開発を推進しています。
研究室紹介シリーズでは、ひとつの研究室にスポットを当てて研究テーマや研究成果を紹介。今回は、金属系材料を中心に、組織制御と力学特性の観点から高温構造用材料開発のための基礎的研究を行う、寺田研究室です。
金属分野
材料コース
研究室:すずかけ台キャンパス・J2棟1404号室
准教授 寺田芳弘
研究分野 | マグネシウム合金 / 高温クリープ / ニッケル基単結晶 / 金属間化合物 / 熱伝導率 |
---|---|
キーワード | 耐熱ニッケル基調合金の時効折出挙動、フルラメラ型耐熱マグネシウムの合金の組織安定性と機械的特性、耐熱合金開発、金属組織制御、機械強度評価 |
Webサイト | 寺田研究室 寺田芳弘 - 研究者詳細情報(STAR Search) |
航空機、自動車、発電設備など、私たち人類の高度な社会生活は数々の高温構造用材料に支えられています。環境負荷の低減といった時代の要請に応えるためには、材料の進歩は不可欠であり、材料開発研究は現在もその社会的重要性を増しています。当研究室では、最も基本的な構造用材料である金属系材料を中心に、組織制御と力学特性の観点から高温構造用材料開発のための基礎的研究を行っています。
環境に対する負荷を最小化しながら社会の持続的発展に必要なエネルギーを確保することは、人類にとって必須の課題となっています。エネルギー効率向上のためには、過酷な使用環境下における耐熱材料に対し優れた高温強度を付与することが必要となります。当研究室では、材料組織を観察する目を養うことを重視しながら、高温耐熱材料の合金設計、組織制御の基礎となる相変態や結晶構造解析、高温クリープ変形挙動の評価と材料強化機構の解明に取組んでいます。現在実施している研究の中で代表的なものを紹介します。
二酸化炭素の排出削減のために、火力発電プラントはさらなる高効率化が求められています。現在開発が進められている700 ℃級A-USC発電プラントを実現するためには、700 ℃-100 MPaにおいて10万時間以上のクリープ破断寿命を有する耐熱材料が求められます。一般に、ニッケル基鍛造合金のクリープ破断寿命は、Larson-Millerパラメータから評価されますが、長時間側のデータは世界的にも限られており、短時間側のデータを外挿することにより寿命を予測する手法が用いられているのが現状です。クリープ破断寿命の予測精度を向上させるためには、組織の安定性を正確に評価することが必要となります。
金属系多結晶材料を高温でクリープ試験すると、結晶粒界における回復促進により粒界近傍に転位密度の低い軟化領域ができます。結晶粒内部と粒界近傍では変形抵抗が異なることを、ニッケル基単相合金における内部応力の綿密な計測から明らかにしました。この結果に基づいて、クリープ速度の結晶粒径依存性を定量的に取扱うコア・マントルモデルというクリープ変形モデルを提唱しました。このモデルは、金属系材料のクリープ現象に対し普遍的に成立し、本モデルに基づいて組織制御を行うことにより、優れた高温強度を有する耐熱合金を開発することが期待されます。
マグネシウム合金は高い比強度を有し、自動車用構造部材として広範に使用することにより、車体の軽量化および燃費向上を実現することができます。しかし、高温強度が低いため、その使用は現在のところ室温部材に限定されています。マグネシウム合金の適用をエンジン周辺部の高温部材にまで拡大するために、高強度を有する耐熱マグネシウム合金を創成することが社会的に求められています。このような背景を踏まえ、有害相であると一般に信じられているラーベス相を強化相として利用するという逆転の発想により、高強度耐熱マグネシウム合金を設計・創成しています。高温強度を最大限に高めるために、最終的にはフルラメラ組織に制御することを目指しています。
図3 クリープ変形を受けた耐熱マグネシウム合金AX52における透過型電子顕微鏡組織
材料系の全研究室を紹介したパンフレットは広報誌ページでご覧いただけます。
准教授 寺田芳弘
E-mail : terada.y.ab@m.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5630
※この内容は2016年4月発行の材料系 金属分野パンフレットによります。最新の研究内容については各研究室にお問合せください。