材料系 News

大場研究室 ―研究室紹介 #24―

先端計算科学を駆使して新材料を発見する

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2016.11.18

材料系では「金属」「有機材料」「無機材料」の3つの分野にフォーカスし、独創的かつ挑戦的な研究・開発を推進しています。

研究室紹介シリーズでは、ひとつの研究室にスポットを当てて研究テーマや研究成果を紹介。今回は、先端計算科学を駆使して新材料を発見する、大場研究室です。

教授 大場史康 特任講師 熊谷悠 助教 赤松寛文

無機材料分野
材料コース
研究室:すずかけ台キャンパス・R3棟501・505号室
教授 大場史康 特任講師 熊谷悠 助教 赤松寛文

研究分野 計算材料科学 / 無機材料科学 / 電子材料 / エネルギー材料
キーワード 第一原理計算、電子材料、エネルギー材料、電子構造
Webサイト 大場研究室別窓
大場史康 - 研究者詳細情報(STAR Search)別窓
熊谷悠 - 研究者詳細情報(STAR Search)別窓
赤松寛文 - 研究者詳細情報(STAR Search)別窓

はじめに

昨今の計算科学の進展とスーパーコンピュータの演算能力の向上は目覚ましく、量子力学に基づく第一原理計算から既知の材料を原子・電子レベルで深く理解するだけでなく、全く新しい材料の存在やその機能を高い信頼性で予測することも可能になってきました。 当研究室では、このような「 計算材料科学」を駆使して材料を探究するとともに、これまでにない高機能材料を見出すことを目指しています。

メンバー

当研究室は2015年に新設されました。2016年4月に第1期生が配属され、研究室の構成員は、教授1名、特任講師1名、助教1名、外国人研究員1名、事務支援員1名、修士課程学生3名です。教員・研究員の層が厚く、学生の研究を強力にサポートする体制が整っています。

研究テーマ

電子デバイスや太陽電池などに使われる半導体材料やエネルギー材料を対象に、 幅広く研究を展開しています。 様々な結晶構造や構成元素をもつ材料に対して、機能の起源となる原子・電子レベルの構造まで掘り下げて系統的に理解できることが第一原理計算の利点です。卓越した機能だけでなく、安価で高い環境親和性を有することなど、材料に対するニーズはますます厳しくなってきています。このやりがいのある課題に計算材料科学からアプローチしています。具体的な研究テーマは以下の通りです。

1. ハイスループットスクリーニングのための基盤技術の構築

膨大な計算データを蓄積し、そこから効率的かつ自動的に有望な材料を選び出すハイスループットスクリーニングの基盤技術の開発を進めています。これにより高精度な理論予測を行い、選出された材料を連携している実験グループに提案することで、新しい材料の開発を加速することが目標です。このシナリオを実現するため、計算手法の開発や計算の自動実行に取り組んでいます。

半導体表面のバンドアライメント。高精度な第一原理計算によりバンド位置の実験値がよく再現されています。この計算手法を使えば、実験値が報告されていない物質についても信頼性の高い理論予測が可能になります。(Phys. Rev. Lett., 2014)

図1. 半導体表面のバンドアライメント。高精度な第一原理計算によりバンド位置の実験値がよく再現されています。この計算手法を使えば、実験値が報告されていない物質についても信頼性の高い理論予測が可能になります。(Phys. Rev. Lett., 2014)

例えば図1に示す半導体のバンドアライメントは、半導体材料やデバイスを設計する上で最も基本的かつ重要な情報になります。 最近になって、第一原理計算の手法・近似を突き詰めることで、バンド位置の実験値をよく再現できるようになってきました。これにより実験値が報告されていない物質についても高精度な予測が可能であり、半導体材料としての性能を評価できます。ヘテロ界面や後述のような点欠陥についても、高精度かつ系統的な予測のための計算手法の開発を進めています。また、図2に示すように、実験グループと連携することで、計算により予測された新物質を実証するなど、具体的な材料開発に関する成果も出ています。

コンピュータシミュレーションによる新物質探索の具体例。希少元素を含まず赤色発光を示す新しい窒化物半導体を予測し、実験により実証しました。(東工大ニュース、Nature Commun., 2016)

図2. コンピュータシミュレーションによる新物質探索の具体例。希少元素を含まず赤色発光を示す新しい窒化物半導体を予測し、実験により実証しました。(東工大ニュース別窓Nature Commun., 2016)

2. 材料機能の起源の探究

材料の機能の多くは完全な結晶ではなく、点欠陥、表面、界面等の格子欠陥に由来します。「欠陥」と聞くとネガティブな印象があるかもしれませんが、実は格子欠陥をうまく活かすことで新しい機能を付与している実用材料がたくさんあるのです。当研究室では材料機能の起源となる格子欠陥について、計算科学からの原子・電子レベルでの詳細な理解を進めています。

例えば図3に示す新しい青色蛍光材料では、窒化ホウ素に添加したセリウム原子(点欠陥)が発光の中心になっています。窒化ホウ素を構成するホウ素と窒素のサイズに対して、セリウムは非常に大きく、一見添加することは困難です。そこで第一原理計算により検討すると、セリウムの周りのホウ素が複数抜けた特殊な欠陥構造になることで、サイズのミスマッチをうまく補償できることが予測されました。この理論予測の結果は走査透過型電子顕微鏡観察により確認されています。

この例の他に酸化物半導体や太陽電池用化合物半導体の格子欠陥についても、その特徴を原子・電子レベルで明らかにしています。材料の機能の起源を正確に理解することで、新しい機能の創出につなげます。

セリウム添加窒化ホウ素単結晶における青色発光中心。(左)結晶のカソードルミネッセンス像と(右)第一原理計算により予測されたセリウム複合点欠陥の局所構造。セリウムが複数の空孔を伴う特殊な構造をとることで、ホウ素や窒素とのサイズのミスマッチが緩和されています。(Phys. Rev. Lett., 2013)

図3. セリウム添加窒化ホウ素単結晶における青色発光中心。(左)結晶のカソードルミネッセンス像と(右)第一原理計算により予測されたセリウム複合点欠陥の局所構造。セリウムが複数の空孔を伴う特殊な構造をとることで、ホウ素や窒素とのサイズのミスマッチが緩和されています。(Phys. Rev. Lett., 2013)

おわりに

古くから築かれてきた計算材料科学がコンピュータの性能向上と相俟って、材料の研究・開発において真に役立てる時代になってきました。今後その役割はますます重要になるはずです。当研究室では、この計算材料科学分野を先導することを目指して研究に励んでいます。研究内容に少しでも興味をお持ちでしたら、ぜひ一度見学にお越しください。

材料系の全研究室を紹介したパンフレットは広報誌ページでご覧いただけます。

お問い合わせ先

教授 大場史康
E-mail : oba@msl.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5511

※この内容は2016年4月発行の材料系 無機材料分野パンフレットPDFによります。最新の研究内容については各研究室にお問合せください。

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