材料系 News

小林能直研究室―研究室紹介 #18―

人類の発展に資する社会インフラ構築のための金属工学

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2016.10.28

材料系では「金属」「有機材料」「無機材料」の3つの分野にフォーカスし、独創的かつ挑戦的な研究・開発を推進しています。

研究室紹介シリーズでは、ひとつの研究室にスポットを当てて研究テーマや研究成果を紹介。今回は、原子力をはじめとした発電システムなどの社会インフラの安全性・信頼性を高めるための金属工学に取り組む、小林能直研究室です。

教授 小林能直

金属分野
原子核工学コース ・材料コース
研究室:大岡山キャンパス・北2号館328号室
教授 小林能直

研究分野 原子力安全金属工学 / 金属製精錬 / 金属リサイクル / 鉄冶金
キーワード 金属製精錬、高温反応熱力学、高温反応速度論、リサイクルプロセス、不純物制御・有効活用鉄製造プロセス、原子力安全金属工学、材料信頼性・健全性、過酷環境材料挙動
Webサイト 小林研究室別窓
小林能直 - 研究者詳細情報(STAR Search)別窓

はじめに

有史以来、人類は金属から多大な恩恵を受けてきました。その中でも特に鉄鋼は文明を発展させ、国家の礎となり、環境調和型の産業として現在も進化しています。その技術を高度に生かし、時代の要請に合った社会基盤材料を提供していくことが重要な使命です。当研究室では、鉄鋼製造技術の基礎である「鉄冶金学の発展に資する学問的研究」と、それを応用したエネルギー産業材料、中でも「原子力安全金属工学」を展開するための基礎研究を行っています。

研究について

今現在、何が長期的課題で、何が喫緊の課題なのか?材料工学を推進する上で、戦略的な展望は重要です。現在の我が国の中長期的な国際競争力・環境調和力を考えたとき、高効率・低環境負荷の高度鉄鋼製造技術の開発が必要である一方、エネルギー産業に目を転じると、ベースロード電源としての安全性確保を前提とした原子力材料技術、特に過酷事故対策技術は我が国が総力を挙げて取り組むべき問題としてクローズアップされています。これらに対応する当研究室の活動として、必要な構造材料・機能性材料の組成・組織を高品質・高効率で創り込むための高度製精錬・鋳造技術、これらの学問を応用した原子力超長期耐久材料の開発および過酷事故材料損傷挙動解析に関する研究などを紹介します。

研究テーマについて

1. 鉄鋼中不純物の濃度制御・影響制御・有効利用に関する研究

高品質の鉄資源の枯渇に伴い、低品質鉱石の活用および鉄スクラップのリサイクルの重要性が高まっています。低品質鉱石中のりんや硫黄に対しては、これらの不純物を十分に除去するため、カルシウム系を中心とした高い脱りん能・脱硫能を持ち、環境負荷も小さい精錬剤の開発を行っています。一方、鉄スクラップには銅などの除去困難な不純物が存在するため、この影響制御や逆転の発想による有効活用が重要です。影響制御法としては、銅による表面脆化の原因となる鋼表面の銅濃縮層を鉄酸化物スケール中へ吸収させる方法の開発を進めています。また、銅濃縮層の鉄層への侵入を防ぐためのバリア層のホウ素添加による形成メカニズムの解明を進めています。さらに、銅が鉄層に残留してしまった際にそれを硫化して微細な銅硫化物相として安定化させ、析出強化に役立てるという研究も行っています。

固相FeOと溶融Cu間の接触角測定(実験)と、鋼と酸化鉄間に生じた銅濃化液相(実プロセス)

図1 固相FeOと溶融Cu間の接触角測定(実験)と、鋼と酸化鉄間に生じた銅濃化液相(実プロセス)

2. 構造材料および機能性材料に関する脱酸技術に関する研究

ハイブリッドカーに使用される鉄鋼・鉄基合金材料

図2 ハイブリッドカーに使用される鉄鋼・鉄基合金材料

鋼などの構造材料の中でも高成形性が要求される場合は、欠陥の起点となる酸化物系介在物の徹底的な除去が望まれます。この介在物が生成しない脱酸プロセスとして注目されている電気脱酸について、スラグフリーの導線直接接触型の装置による基礎研究を行っています。また、高保持力磁性材料である鉄ネオジム系磁石に添加されているジスプロシウムなどの希少金属は供給が不安定になる懸念があります。そこで、これらの使用をセーブするための元素戦略としての鉄ネオジム系磁石の脱酸プロセスの熱力学を研究しています。

3. 原子炉における過酷事故事象解明と安全な材料処理のための研究

エネルギー産業の中でも格段に高い安全性・健全性の担保が必要な原子力安全材料の研究は中長期的課題として非常に重要です。一方で、現在我が国の喫緊の課題として、過酷事故原子炉への対応策が取り上げられています。まず炉心溶融を起こした炉から燃料溶融凝固物(デブリ)を取り出す際のアクセス性を検討するため、炉内構造物の損傷状況を把握しなくてなりません。過酷事故時に溶融した燃料と制御棒は、ステンレス鋼製の炉心下部構造物を巻き込みながら、炉心底部に至ったものと考えられています。この解明のため、デブリ模擬体とステンレス鋼の反応速度を研究しています。また、取り出したデブリを超長期にわたり安全に保存する容器は、これまでのキャニスターより格段に高い耐食性・耐反応性が求められます。要求を満たす材料開発のため、ジルコニウム系合金とデブリ系酸化物融体の反応機構の解明を行っています。

原子炉芯構造物とコールドクルーシブルによるデブリ模擬溶融試験

図3 原子炉芯構造物とコールドクルーシブルによるデブリ模擬溶融試験

材料系の全研究室を紹介したパンフレットは広報誌ページでご覧いただけます。

お問い合わせ先

教授 小林能直
E-mail : kobayashi.y.at@m.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3075

※この内容は2016年4月発行の材料系 金属分野パンフレットPDFによります。最新の研究内容については各研究室にお問合せください。

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