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尾中研究室―研究室紹介 #7―

好奇心からはじめよう

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2016.09.16

材料系では「金属」「有機材料」「無機材料」の3つの分野にフォーカスし、独創的かつ挑戦的な研究・開発を推進しています。

研究室紹介シリーズでは、ひとつの研究室にスポットを当てて研究テーマや研究成果を紹介。今回は、材料の組織と強度を理解する、尾中研究室です。

教授 尾中晋 助教 宮嶋陽司

金属分野
材料コース
研究室:すずかけ台キャンパス・J2棟1505号室
教授 尾中晋 助教 宮嶋陽司

研究分野 金属 / 変形と破壊 / 強度 / 材料物理
キーワード 材料の力学物性とその微視構造依存性、材料組織における形の物理、超微細粒金属などの先進構造材料の創製
Webサイト 尾中研究室別窓
尾中晋 - 研究者詳細情報(STAR Search)別窓
宮嶋陽司 - 研究者詳細情報(STAR Search)別窓

はじめに

ライト兄弟の弟のほうの話しである。記者に「飛行機の発明には大学の教育なんて邪魔なものにすぎませんよね」と質問され、「大学の教育を受けていたら間違いなくもっと簡単にできただろう」と答えたそうだ。現在においても大学や大学院は、そこに集まる人間が夢や目標を設定し達成するための場、そのための素養を身につける場であり続けたいと思っている。

研究について

さて我々の研究室であるが、力学物性を中心にした材料物性に関する実験的・理論的研究を行っている。力学物性というと材料の変形や破壊に限られる話しと思うかもしれないが必ずしもそうではない。確かにそれらは大きな応用例ではあるが、材料のなかの力学的な状態は微細組織の形成と遷移を決める重要な因子の一つであり、それらを介して材料の機能的な性質にも影響を与える。

では、どのようなタイプの研究を行っているかというと、それは材料の中で起こる種々の現象についてそれらを支配する普遍的な基礎原理の獲得を目指した研究が多い。このような研究にはひろがりがあって興味深い。例えば、1000℃を越える温度での金属のクリープ変形と氷点下における氷河の流動がともに融点直下近傍での結晶性材料の変形挙動として統一的に理解できることは、意外に思えても理にかなったことであることに気付く。

研究テーマについて

材料における微細組織の形成と遷移に関する研究

材料組織は多様に変化し、その変化は材料全体の物性の変化と密接に関連する。材料における微細組織の形成と遷移について、その理由を実験的・理論的に考察している。図1は球と多面体のあいだの形になる金属中の析出物の観察結果とそのモデル化の例である。このような微細組織の形成と遷移は形の科学としても面白い。

Cuに微量のCrとCoを添加して熱処理をするとこれらの添加元素が集合体を形成し、(a の透過型電子顕微鏡写真に示すような球と立方体のあいだの形をした析出物ができる。材料の物性は、析出物の大きさや形状といった材料組織に依存して変化するため、析出物形成についての理解は材料開発に不可欠である。析出物は材料に内部応力をもたらすため、その状態の理解には力学的な議論が必要になる。そこで、(b)に示すような図をもとにモデル化を行って、析出物の成り立ちを考察している。

図1. Cuに微量のCrとCoを添加して熱処理をするとこれらの添加元素が集合体を形成し、(a)の透過型電子顕微鏡写真に示すような球と立方体のあいだの形をした析出物ができる。材料の物性は、析出物の大きさや形状といった材料組織に依存して変化するため、析出物形成についての理解は材料開発に不可欠である。析出物は材料に内部応力をもたらすため、その状態の理解には力学的な議論が必要になる。そこで、(b)に示すような図をもとにモデル化を行って、析出物の成り立ちを考察している。

超微細粒金属中の組織因子の定量と力学特性の評価

超微細粒金属では結晶粒径が100nmから1μm程度であり(図2. (a))、 一般に用いられている材料の結晶粒径に比較して1/100程度に小さくなっている。この大きさの比1:100とはピンポン玉の直径と相撲の土俵の直径の比ほどに甚だしく、これが「超微細」の「超」の意味である。このくらいまで結晶粒径が小さくなると、通常の材料とは異なる特異な性質があらわれるようになり、極めて興味深い。

超微細粒金属は高い強度と大きな伸びを示す先進強靱材料として期待されている(図2. (b))。この材料の変形機構を理解して組織の最適化を達成するため、種々の観察・測定手法によって組織因子を定量的に評価し、力学特性との関連を調査している(図3)。

図2.(a)

図2.(b)

図2. (a)は超微細結晶粒で構成されるNi多結晶の透過型電子顕微鏡写真である。結晶粒は白い粒としてみえる。(b)は材料の強度と延性のあいだの関係を示す図である。一般に用いられている通常の材料では、水色の線で示すように、強度を上昇させると延性は低下してしまう。これに対して超微細粒金属では、この図の赤点線の領域の性質を示す材料、すなわち、強度と延性の両方に優れた材料になると期待されている。

単結晶に塑性変形を加えた際に形成される縞状組織を示す走査型電子顕微鏡写真で、縞を構成する各色の領域はある方向に結晶方位が揃った領域に対応する。このような結晶方位がわずかにずれた積層組織の形成は塑性変形による結晶粒微細化の初期過程であり、その機構の解明は高強度材料の新たな創成につながる。

図3. 単結晶に塑性変形を加えた際に形成される縞状組織を示す走査型電子顕微鏡写真で、縞を構成する各色の領域はある方向に結晶方位が揃った領域に対応する。このような結晶方位がわずかにずれた積層組織の形成は塑性変形による結晶粒微細化の初期過程であり、その機構の解明は高強度材料の新たな創成につながる。

材料の力学物性についてのマイクロメカニックスによる解析

マイクロメカニックスは、材料組織の状態を取り入れたうえで、材料全体の力学的性質を定量的に考察するための理論といえる。計算より実験が好きという人もいるが、実験結果についてのある理解をぴったり裏付ける計算結果が得られたときの達成感も大きなものである。実験と計算の両方が自分でやったものなら、なおさらである。マイクロメカニックスに基づく考察を発展させることによって、各種の複合材料や第二相を含む合金の変形挙動そして材料組織形成についての理論的な予測を行っている。

おわりに

夢や目標を持つための出発点として好奇心はとても大事だが、材料・物質の持つ多様性には好奇心をそそられる数多くのことがらが含まれている。見過ごしてしまうようなことのなかにも実は興味深い現象が含まれていることが多く、材料・物質について知られていないことを探し出すのは大きな楽しみである。材料・物質の勉学と研究に関心を寄せる諸君の選択は間違っていない。さあ、好奇心から始めよう。

材料系の全研究室を紹介したパンフレットは広報誌ページでご覧いただけます。

お問い合わせ先

教授 尾中晋
E-mail : onaka.s.aa@m.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5564

※この内容は2016年4月発行の材料系 金属分野パンフレットPDFによります。最新の研究内容については各研究室にお問合せください。

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