材料系 News

伊藤・谷山研究室―研究室紹介 #6―

酸化物機能物質科学とスピン変換の物質科学

  • RSS

2016.09.13

材料系では「金属」「有機材料」「無機材料」の3つの分野にフォーカスし、独創的かつ挑戦的な研究・開発を推進しています。

研究室紹介シリーズでは、ひとつの研究室にスポットを当てて研究テーマや研究成果を紹介。今回は、酸化物の機能物質科学とスピントロニクス物質科学を研究する、伊藤・谷山研究室です。

教授 伊藤満 准教授 谷山智康 助教 安井伸太郎

無機材料分野
材料コース
研究室:すずかけ台キャンパス・J2棟703号室
教授 伊藤満 准教授 谷山智康 助教 安井伸太郎

研究分野 機能性酸化物 / 誘電性 / 磁性 / スピントロニクス
キーワード 新物質科学、強誘電体、マルチフェロイックス、イオン伝導体
Webサイト 伊藤・谷山研究室別窓
伊藤満 - 研究者詳細情報(STAR Search)別窓
谷山智康 - 研究者詳細情報(STAR Search)別窓
安井伸太郎 - 研究者詳細情報(STAR Search)別窓

はじめに

物質が特定の有用な性質を有するとき我々はそれらを材料と称します。いくつかの材料を組み合わせてデバイスや装置を組み立てます。我々の研究グループは、物質がなぜ特定の機能を有するかを問いかける根源的な研究(理学)をはじめとして、応用を志向した機能発現を目的とした研究プロセスを通して物質の研究を行っています。研究分野としては、固体化学、固体物理、構造化学を含む材料科学であり、常に、世界の研究者と議論しつつ共同研究を遂行しています。

「酸化物機能物質科学」と「スピン変換の物質科学とスピントロニクス」を主たる研究テーマとして研究を進めています。

酸化物機能物質科学

過去25年間、我々が精力的に進めてきたのは、強誘電性、強磁性、電気伝導性、イオン伝導性、発光特性を有する新物質の探索です。研究の対象とする物質はこれまでに誰も報告していない新物質であり、既知物質に対しては、興味ある機能を発現する起源とメカニズムを調べて報告しています。また、目的に応じて、自分自身でセラミックス(多結晶)、単結晶、薄膜を作製し、結晶構造や特性を評価する試料作製と物性評価を行うことによって物質・材料研究の全てを経験するように努めています。

実験装置は最新鋭のものをそろえていますが、研究室のモットーは、測定や解釈でブラックボックスを作らず原理を理解し、自分で意図した実験ができるように努めています。

研究は各人が興味あるテーマに取り組み、日常的な議論、あるいは月例報告での議論を通して問題点を解決しています。2年間の修士課程では、物質・材料に関する研究を通して研究者として孵化することを目指し、3年間の博士課程では、世界をリードする独立した研究者として羽ばたけるように日常的な訓練を行っています。

このため、学会発表は、物理学会、応用物理学会、化学会、セラミックス協会をはじめとする国内学会や国際会議で行っています。

また、重要かつ普遍的な研究を行うために、常に国内外の研究者と連携し、我々のグループではカバーしきれない分野については、随時共同研究を行っています。

研究テーマについて

1. 強誘電体・圧電体の新物質作製と機構解明

図1 新規珪酸塩強誘電体の構造

図1 新規珪酸塩強誘電体の構造

セラミックスの中で最も使われている部材はコンデンサー材料です。酸化物強誘電体材料は1940年頃に発見され、1950年頃からは実用が始まりました。しかし、強誘電性の発現機構については未解明のまま残され現在でも議論が続いています。我々はこれらの問題を解決するための多数の新物質を合成してそれらの構造と物性を解明することで本分野の基礎科学の発展に貢献しました。また、最近はアルミニウム、鉄、酸素等クラーク数上位の元素のみで構成された酸化物強誘電体の探索に取り組んでいます(図1)

2. エネルギー材料、発光材料

20年前に我々のグループで発見したリチウムイオン伝導性ペロブスカイト型酸化物に対する解析とメカニズムに関する普遍的情報はその後のリチウムイオン伝導性化合物の設計に活かされています。また、複数の遷移金属を含む酸化物内での価数動に関する知見は、リチウム電池の充放電に伴う正極内での電荷移動のメカニズム解析に役立っています。我々のグループでは現在、電池内での界面、電解質、電極に着目してリチウムイオン電池の実験と解析を行っています。

また、過去10年間に培った、物質中の格子波(フォノン)、電子バンド構造、および電子伝導性に関する知見を活かして、各種物質が有する熱電材料に求められる特性を構造化学的観点から解析を進めるとともに、新物質の合成も行っています。さらに、固体化学の知見を活かして多層構造からなる酸化物EL低電圧発光デバイスの作製と測定を行っています。

3. 磁性・伝導性材料

図2 アルミニウムとシリコンから形成される新規マルチフェロイック物質の構造

図2 アルミニウムとシリコンから形成される新規マルチフェロイック物質の構造

遷移金属酸化物が示す特性のうちで最も重要な磁性と電子伝導性は固体科学のうち最も重要な分野です。我々は、磁性体のうち、結晶場に着目して興味ある磁気特性を示す物質や、スピン転移を示す物質の構造と電気伝導性に着目して新規物質を提案し、その特性を報告すると同時に、世界の代表的な機関の研究者と共同研究を行うことで議論を深めています。また、磁性を持ちながら強誘電性も持ち合わせる絶縁性物質の合成にも取り組んでいます(図2)。

自分で考えた新物質を作りその特性を評価するプロセスは物質科学の達人であることを意味します。そこでは物理、化学、結晶学、作製プロセス等、あらゆる分野の知識を必要とします。出身学部は問いません。研究室に入って、日常の議論を通して切磋琢磨し、世界をリードする研究者になることを希望する学生さんを歓迎します。

2014年研究室旅行(台湾)

2014年研究室旅行(台湾)

2015年研究室旅行(伊豆)

2015年研究室旅行(伊豆)

スピン変換の物質科学とスピントロニクス

図3 ナノスケール磁性とスピントロニクス―スピン変換の物質科学―

図3 ナノスケール磁性とスピントロニクス―スピン変換の物質科学―

物質の電子・原子スピンを操作し、新しい機能性を創出しようとする研究分野―スピントロニクス―が注目を集めています。我々のグループでは、ナノスケール磁性を中心として、電子や原子のスピン物性の解明と、それらを光学的、電気的に操作、検出するための新概念の提案を目標として、スピントロニクスの基礎研究を推進しています。スピントロニクスは、研究分野としての歴史が浅く、今後10年くらいの間にも新現象が続々と発見されることが大いに期待できる大変魅力的な分野です。また、基礎研究から応用研究までの一連のプロセスを体験できることも、この分野で研究に携わる醍醐味の一つです。

スピントロニクス分野ではナノスケール磁性体が主役を演じるため、量子力学や統計力学で解き明かされる物理現象に興味のある学生さんはもちろん、ナノデバイス・電子工学、磁性材料工学、エピタキシャル薄膜成長などに興味のある方も、この分野で研究の楽しさを満喫し、学術を追究することができます。皆さんがこの魅惑的な分野に参入し、果敢にチャレンジすることを期待しています。また、海外の大学への学生の派遣や国際会議での発表も積極的に進めていますので、早くから国際的な研究活動に関わりたい学生さんも大歓迎です。

研究テーマについて

1. 電子―原子スピン変換による磁気秩序制御

図4 電子スピン注入により誘起される磁気相転移

図4 電子スピン注入により誘起される磁気相転移

物質が示す多彩な磁気秩序は、原子が持つスピン角運動量(磁気モーメント)とそれらの間の多様な相互作用によって発現する統計力学的な物理現象です。我々のグループでは、磁性体を構成する原子スピンと伝導電子の持つスピン角運動量との間でスピン角運動量を変換することで磁性体の磁気秩序を制御するための原理の提案とその実証を行っています。具体的には、反強磁性―強磁性磁気相転移を示すような物質を薄膜や細線にナノスケール構造化して、スピン偏極した電子を注入することで反強磁性状態を強磁性状態に磁気状態変換する研究に取り組んでいます(図4)。

2. 原子スピン―格子変換による磁化配向、スピン偏極制御

図5 電気―磁気交差相関効果と磁性制御

図5 電気―磁気交差相関効果と磁性制御

スピンメモリ(Spin-RAM)などを構成する磁性薄膜の低消費電力・高速磁化制御は、エネルギー・環境問題の克服に向けたイノベーションへの大きな一歩となります。我々のグループでは、強磁性体と強誘電体のヘテロ構造を利用し、強磁性体に格子歪みを誘起することで磁化配向を電圧で制御するための技術開発を行っています(図5)。これは一種の格子―原子スピン変換のための界面物理現象の探求と技術開発と捉えることもできます。

3. 電子―光スピン変換による光偏光制御

電子が持つスピン角運動量を光に受け渡すことで、電子スピンの光による情報伝送が可能になります。我々のグループでは、電子―光スピン変換の原理を用いたスピン発光ダイオード(LED)の技術基盤の構築を行っています。また、フェムト秒レーザーを用い、電子スピンのピコ秒時間スケールでの動的な振舞いを実時間計測する研究にも取り組んでいます。

材料系の全研究室を紹介したパンフレットは広報誌ページでご覧いただけます。

お問い合わせ先

教授 伊藤満
E-mail : itoh.m.aa@m.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5354

※この内容は2016年4月発行の材料系 無機材料分野パンフレットPDFによります。最新の研究内容については各研究室にお問合せください。

  • RSS

ページのトップへ

CLOSE

※ 東工大の教育に関連するWebサイトの構成です。

CLOSE