土木・環境工学系 News
深海インフラの設計手法構築に貢献
宇部興産、港湾空港技術研究所、海洋研究開発機構、東京工業大学 環境・社会理工学院 土木・環境工学系の岩波光保教授(土木工学コース 主担当)および東京海洋大学の研究グループは共同で、深海インフラ構築に向けたセメント硬化体の力学特性の評価手法を確立し、世界初の実海域におけるデータ計測を開始しました。本検討にて、深海でセメント硬化体の内部に生じる圧力やひずみを実際の深海底で連続計測することで、将来的に深海におけるインフラ材料の開発や構造物の設計手法の構築に役立つことが期待されます。
本研究は、科学雑誌「Journal of Advanced Concrete Technology」Vol.19(3月26日オンライン公開)に掲載されました。
本研究は、高水圧が短期間及び長期間にわたって作用することで、セメント硬化体がどのように変形していくかを明らかにすることを目的としています。従来では潜水艇を用いて、深海から回収した後の硬化体の変化を測定していました。しかし、この手法では、回収の際に深海から浅海までの圧力変化により硬化体に変化が生じている可能性もあり、深海で生じた現象を正確に把握することができませんでした。また、深海と同等の高水圧の水槽を利用した実験では、実際の構造物のスケールで起こりうる現象や実際の潮流・生物付着などの影響が再現できません。
そこで、硬化体内部に生じる圧力やひずみを深海底で連続計測する方法を確立しました。これにより、深海で起こっている現象だけを抽出してデータを分析、考察することが可能になります。
研究グループは、2020年7月に駿河湾沖70 kmに位置する南海トラフ北縁部、水深約3,500 mの海域に硬化体と計測装置を設置しました。2021年度中に回収し、計測結果を解析します。
排他的経済水域(EEZ)及び領海の面積が世界第6位という海洋国家の日本にとって、積極的な海洋利用は重要な課題のひとつです。EEZに占める深海[用語1]の海洋面積は非常に広く、近年では様々な海洋資源の開発が検討されています。その他にも、潮力発電などの海洋エネルギー利用、海底を活かしたデータセンサーの設置や大型ニュートリノ検出器の建設、深海都市構想など、新しい科学・産業分野の開拓に繋がる様々な可能性が議論されています。
将来的に深海での海洋インフラの建設には、設計の自由度や汎用性が高いセメントの利用が検討されています。セメントは地下資源に乏しい日本で、ほぼ100%自給可能な資源である石灰岩をもとに製造されており、材料として安定的に供給できるというメリットもあります。
しかし、これまで深海の極限環境がセメントを使用した構造物にどのような影響を及ぼすかは、ほとんど評価されていません。最新の研究では、深海でセメント硬化体が著しく劣化したことが報告され※、既存の知見や設計手法だけでは深海インフラを構築できないことが明らかになってきました。深海インフラの構築にむけて、まずは基礎データの収集が重要となっています。
[用語1] 深海 : 水深200 m以深を深海とよびます。深海では高水圧が作用することや海水温が低いなどの特徴があります。今回の計測場所は水深約3,500 mにあり、そこでは大気圧の約350倍となる水圧が作用します。
掲載誌 : | Journal of Advanced Concrete Technology |
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論文タイトル : | Action of Hydraulic Pressure on Portland Cement Mortars - Current Understanding and Related Progress of the First-Ever In-Situ Deep Sea Tests at a 3515 m Depth |
著者 : | Keisuke Takahashi, Yuichiro Kawabata, Mari Kobayashi, Shinpei Gotoh, Shun Nomura, Takafumi Kasaya, Mitsuyasu Iwanami |
DOI : | 10.3151/jact.19.226 |
お問い合わせ先
東京工業大学 環境・社会理工学院 土木・環境工学系
教授 岩波光保
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