融合理工学系 News
論文テーマ:「太陽光発電事業に対する地域住民の賛否態度の規定要因に関する研究」
環境・社会理工学院 融合理工学系の錦澤 滋雄准教授と村山 武彦教授(ともに地球環境共創コース 主担当)が令和6年度「日本計画行政学会論文賞」を受賞しました。
「日本計画行政学会論文賞」は、優れた研究業績によって計画行政学の発展に著しく寄与したものを対象とし、研究実績に基づき、その意義や貢献が多大であると判断できる研究業績に対して一般社団法人 日本計画行政学会より授与される賞です。
授賞式は、2024年9月6日に開催されました。
この論文は、本学の修士課程の学生であった前川陽平さんや特別研究員であった長岡篤さんらとの共著論文です。太陽光発電事業は再生可能エネルギーの導入の観点からはその普及が期待される一方で、当該施設の周辺住民の立場からは迷惑施設にもなりかねないことから、事業計画段階において紛争が発生した稼働中の太陽光発電施設の周辺住民に対するアンケート調査を通じて、当該施設に対する態度形成モデルを構築し、賛否態度の規定要因を明らかにしています。アンケート調査にあたっては、紛争発生事例とその主な争点・場所の整理、分析対象施設の立地自治体への調査や事業の特性分析を行っており、分析を実施するうえでの丹念な準備がなされていることも、類似の研究において大変参考になると評価されています。
アンケート調査では、調査範囲内で配布可能なすべての住居を対象とし、分析対象施設の視認の可否、事業による景観変化への感じ方、土砂災害発生時の被害の懸念、太陽光発電事業への賛否態度から太陽光発電施設に対する住民の意識を把握しました。そのうえで、重回帰分析により、太陽光発電事業への反対態度と景観変化への不快感の要因分析を行い、住民の反対態度形成モデルを作成しています。これによれば、山林への設置が景観変化への不快感に強く影響し、それが事業への反対態度に影響しており、太陽光発電事業に対する地域の理解を得るためには、事業規模を考慮するとともに、事業の立地場所への配慮、適切な事業実施プロセスが重要であることを指摘しています。
このたび論文賞という大変な栄誉を賜り、誠に光栄に存じます。この論文は、第一著者の前川陽平さん(当時・東京工業大学大学院修士課程在籍)とともに研究枠組みを構築し、アンケート調査と分析は前川さんが中心に進めたものであり、彼なくしてこの成果は得られなかったといえます。また本研究は、中部大学国際GISセンター「問題複合体を対象とするデジタルアース共同利用・共同研究拠点」の事業として研究助成を受け、共著者の竹島喜芳先生、安本晋也先生から貴重な可視解析データを提供頂きました。これらのご尽力やご協力に、改めて感謝申し上げます。
さて、本研究で着目した再生可能エネルギー事業による地域紛争は、今日、社会的な問題になっています。私たちの研究グループでは、この動向を10年余にわたって調べてきましたが、それによると2010年頃から野立て太陽光発電施設による地域紛争が起こるようになり、現在では全国のいたるところで報告されています。本論文では景観問題の事例を取りあげましたが、土砂災害や土砂流出、モジュールの反射光、洪水による小火などで苦情や反対が絶えません。残念なことに今日では、太陽光や風力発電が迷惑施設の代表になってしまいました。
このような中、一部の再エネ施設では、災害時に電源を開放し地域住民に利用してもらったり、耕作放棄地でソーラーシェアリングと呼ばれる営農型太陽光発電を展開して市民農園や収穫祭、環境教育などの地域振興につなげたりする事業がみられるようになりました。これらの事業では施設に対する地域住民の受容性が高くなることが期待されますが、どのような要因が受容性に関わっているのかについては、今後の研究課題としてさらなる検討が求められ、引き続き探求していきたいと考えています。