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連続発電を可能にする双回路Ge増感型熱利用電池

回復時間のない継続的放電で低温廃熱利用の応用に期待

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2025.04.15

ポイント

  • Ge増感型熱利用電池(Ge-STC)の新たな双回路設計により、回復時間なしの連続発電を実現。
  • 60℃という低温で、回路のスイッチングによって継続的に放電することをシミュレーションと実験で確認。
  • IoT機器などの低温廃熱利用における新たな可能性を開拓。

概要

東京科学大学 物質理工学院 材料系の陳科廷大学院生(修士課程1年)、松下(生方)祥子准教授(株式会社elleThermo代表取締役CEO)らの研究チームは、半導体増感型熱利用電池(STC)[用語1]において、新たな双回路設計を提案し、回復時間のない持続的な発電が可能であることをシミュレーションおよび実験を通じて確認しました。

STCは、半導体の熱励起電荷で電解質イオンを酸化還元させて発電する熱エネルギー変換技術です。一度放電が終了した後、スイッチをオフにして熱源に保持することで、再び発電可能になりますが、従来のSTCでは、スイッチオフ状態でイオンを元の状態まで拡散させる回復時間が必要でした。

そこで本研究ではこの回復時間の短縮を目指して、2つのSTCを入れ子状態にした双回路型STCを提案しました。この双回路型STCでは、一方の回路の放電が終了した時点で、もう一方の回路では放電するに十分な量のイオンが電極/電解液界面近傍に存在するため、これらの回路を繰り返し切り替えることで継続的な放電が可能になります。実験では、試作セルの開回路電圧(Voc)が約270 mV、短絡電流(Isc)が約0.30 μA(Jsc=5 μA/cm2)であり、60℃の条件での3回のスイッチングで継続的な放電を確認しました。

本研究の成果は、IoTデバイスの電源供給など、低温廃熱を有効活用する技術としての可能性を提供します。さらに、従来は回復時間が必須で連続発電が難しかったSTCで、本設計による継続的な放電の実現で持続的に発電することが可能となり、安定した電源供給が求められるデバイスへの応用が期待できます。本研究成果は、東京科学大学 リサーチインフラ・マネジメント機構 コアファシリティセンターの松谷晃宏部門長、遠西美重のサポートによって行われ、2025年3月1日にオンライン公開され、5月1日付の「Energy Conversion and Management」に掲載されます。

背景

従来の熱電変換システムは、温度差を必要とするゼーベック効果によるものが多く、応用範囲に制約がありました。本研究では、熱で直接発電が可能な半導体増感型熱利用電池(STC)という、熱励起電荷による酸化還元反応を利用した発電技術を採用しました。STCは、半導体の熱励起電荷により起こした酸化還元反応によって、低温熱(<200℃)を直接電力に変換する技術です。さらに、一度放電が終了した後、スイッチをオフにして熱源に保持することで、再び発電可能になるという特性があります。

STCの放電終了は、放電によって開回路状態の平衡状態に達すること、および作用極と対極でのイオン(酸化還元種)供給が追い付かなくなること、の2通りの仕組みで起こると考えられます。このために従来のシステムで再放電させるためには、イオンを元の状態に拡散させる回復時間が必要であり、STCの効率向上における課題となっていました。

本研究ではこの課題を克服するために、櫛形(IDA)電極を用いた双回路型Ge-STC[用語2]を提案し、1つのSTC内で2つの回路を交互に切り替えることで、回復時間をなくし(<1 s)、継続的な放電によって持続的な発電を可能にしました。

研究成果

図1. 双回路型Ge-STCの構造と60℃における電気化学的特性。

図1. 双回路型Ge-STCの構造と60℃における電気化学的特性。 (a)双回路型Ge-STCの模式図。(b)双回路型STCの回路1におけるCV曲線(掃引速度:10 mV s−1)。
(c)双回路型STCの回路2におけるCV曲線(掃引速度:10 mV s−1)。(d)回路スイッチングにより得られたCP曲線(3回スイッチング、180 nAで放電)。

今回検討した電極構造は、GeとPt をそれぞれ作用極(半導体極)と対極として持つ櫛形電極 2 対を向かい合わせて、電解液を挟むようになっています(図1a)。この構造では、上下の対電極での発電により、イオン濃度分布の偏りが生じます。さらに1枚の櫛形電極内の電極間距離が小さいためにイオンが水平方向に拡散しやすくなります。こうした長所を利用して、放電電極を対向電極で交替する、つまり回路をスイッチングすることで回復時間が短縮する、または不要になる可能性を、シミュレーションと実験の両方で検討しました。2Dモデルを用いたシミュレーションでは、双回路型STCが一方の回路が放電を終了すると、もう一方の回路で酸化還元反応が継続するのに十分な反応イオン供給が観察され、回路を切り替えた直後に継続的に放電することが確認されました。さらに実験では、試作セルの開回路電圧(Voc)が約270 mV、短絡電流(Isc)が約0.30 μA(Jsc=5 μA/cm2)であることが示され(図1 b、c)、さらに60℃において回路1→回路2→回路1→回路2という形で3回スイッチングした場合に継続的放電が見られ(図1 d)、シミュレーション結果を裏付けました。

社会的インパクト

本研究の成果は、電解質の酸化還元反応によりSTCが発電していることを裏付ける学術的成果のみならず、IoTデバイスへの電源供給など、低温廃熱を有効活用する技術への応用の可能性があります。さらに、従来は回復時間の制約により再放電の運用が難しかったSTCで、継続的放電による持続的な発電を可能にすることで、安定した電源供給が求められるデバイスへの応用が期待されています。

今後の展開

現在のSTCでは、Ge電極と基板の熱膨張係数のミスマッチによる電極の安定性に課題があります。今後、電極基板の材料を改良することで、電極の安定性向上を目指します。

また本研究のシミュレーションでは2Dモデルを用いましたが、イオン移動の全体を把握するのに限界があるため、今後、3Dモデルの開発や、材料特性をより詳細に組み込んだ2Dモデルの改良によって、シミュレーションの精度を向上させる必要があります。

さらに、より優れた熱安定性を持つ代替電極材料の適用を検討し、STCの耐久性向上を図ります。また、本技術を活用した新たなデバイスの開発や、より高効率な熱利用電池の設計も検討します。

  • 付記

本研究にご協力いただいた科学研究費助成事業 基盤B(21H02041)、(株)三櫻工業、(株)サカタインクス、(株)トーニック、東京科学大学CFC、横浜国立大学 生方俊准教授に感謝の意を表します。

  • 用語説明
[用語1] 半導体増感型熱利用電池(STC):STCはSemiconductor-Sensitized Thermal Cellの略。
[用語2] Ge-STC:Ge増感型熱利用電池。
  • 論文情報
掲載誌: Energy Conversion and Management
タイトル: Simulation-based study on a dual-circuit design for achieving continuous power generation in Ge-sensitized thermal cells under isothermal conditions
著者: Keting Chen; Mie Tohnishi; Akihiro Matsutani; Sachiko Matsushita
DOI: 10.1016/j.enconman.2025.119678別窓

お問い合わせ

東京科学大学 物質理工学院 材料系

准教授 松下 祥子

E-mail : matsushita.s.ab@m.titech.ac.jp

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