材料系 News

結合した2種高分子間の「つなぎ目」が鍵

半導体の微細加工に貢献する新しい高分子設計

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2022.03.02

概要

東京工業大学 物質理工学院 材料系 早川晃鏡 教授(材料コース 主担当)、難波江裕太 助教(エネルギーコース 主担当)、京都大学大学院 工学研究科 大内誠 教授、吉村智佳 同修士課程学生、森下智文 同修士課程学生(研究当時)らの共同研究グループは、次世代半導体微細加工材料として注目されているポリスチレン(PS)とポリメタクリル酸メチル(PMMA)によるブロック共重合体[用語1]であるPS-block-PMMAのつなぎ目にオリゴペプチドを精密に導入することで、PS-block-PMMAの相分離下限分子量よりも低い分子量で長周期のラメラ構造[用語2]の形成に成功しました。

ブロック共重合体(BCP)が自己組織化[用語3]して形成する周期的規則構造から一方の高分子成分を選択的に除去することで凹凸パターンを形成し、パターニング用保護膜材料[用語4]として用いる半導体微細加工の研究が注目されています。PS-block-PMMAはこの目的に適したBCPであり半導体関連企業での研究も盛んですが、PSとPMMAの反発力が小さいために低分子量体では規則構造の形成が難しく、微細化を目指す上で大きな課題を残していました。本研究ではアミノ酸6ユニットから成るオリゴペプチドをつなぎ目に導入することで、低分子量PS-block-PMMAの長周期ラメラ構造形成を実現しました。

本成果は2022年2月17日(現地時刻)に米国の国際学術誌「Macromolecules」にオンライン掲載されました。

ブロック共重合体のつなぎ目にオリゴペプチドを導入することで低分子量でも長周期ラメラ構造を形成

ブロック共重合体のつなぎ目にオリゴペプチドを導入することで低分子量でも長周期ラメラ構造を形成

背景

混ざり合わない2種類の高分子をつなげたBCPは、同じ高分子同士が集まろうとして自己組織化を起こし、数十ナノメートルから数百ナノメートルの周期的規則構造を形成します。このミクロ相分離[用語5]と呼ばれる現象は2種類の高分子が混ざり合おうとしない反発力(偏析力)を表すχ(カイ)パラメーターと重合度(分子量)の積が、ある値以上にならないと起こりません。また、ミクロ相分離によって形成される規則構造の形態(ラメラ構造、円柱構造、球状構造など)は、両者のミクロドメインの体積分率によって決まり、規則構造の周期長は主に分子量によって決まります。BCPを半導体材料として使う場合、基板に対する規則構造の配列配向制御、選択的な片成分除去、除去後の界面構造の粗さの低減など、様々な要件を満たす必要があることから、BCPの分子設計が鍵を握っています。とりわけ様々な特性バランスからPS-block-PMMAは最も有望なBCPの1つとして考えられ、これまで数多くの研究が大学や企業で実施されてきました。このPS-block-PMMAにおける大きな課題としてχパラメーターがそれほど大きくないために相分離させるためには高分子量体が必要であることが挙げられ、微細化を目指す上で低分子量体でも相分離させることが求められてきました。

ミクロ相分離は混ざり合わない高分子がお互いの界面をできるだけ減らすために起こる現象であり、相分離後に形成される界面にはBCPの「つなぎ目」が存在します。つなぎ目はBCPの分子全体から見るとマイナーな成分でありながら、BCPの相分離に大きな影響を与えると考えられ、これまでに両セグメントの界面に短いオリゴマーを導入して、低分子量PS-block-PMMAの相分離を促進する研究が報告されてきました。

研究手法・成果

本研究では、様々なオリゴペプチドをつなぎ目に導入したPS-block-PMMAを合成し、つなぎ目のわずかな構造の違いがミクロ相分離挙動に与える影響を調べ、低分子量PS-block-PMMAの相分離を目指しました。その合成手法として、原子移動ラジカル重合[用語6]で合成したPSの末端をアミノ基に変換し、その末端に対してアミノ基が保護されたアミノ酸を縮合し、脱保護によって再びアミノ基末端として、アミノ酸の付加を逐次的に繰り返すことで、オリゴペプチドを末端に有するPSを合成しました。これとは別に、原子移動ラジカル重合によって末端に活性化エステル結合を有するPMMAを合成し、両ポリマーの末端間で縮合させることで、オリゴペプチドをつなぎ目に有するPS-block-PMMAを合成しました(図1)。この手法の特徴を示すと以下になります。

  • つなぎ目が分子量分布を一切もたないオリゴマーであり、つなぎ目構造のわずかな違い(アミノ酸の個数、配列、組み合わせ)の影響を系統的に調べることができる。
  • PSとPMMAの数平均分子量を揃えて、つなぎ目のペプチド構造のみが異なるBCPを精密につくり分け、つなぎ目の影響を厳密に調べることができる。
  • アミノ酸はアミノ基とカルボキシル基を有する分子で、天然アミノ酸のみならず非天然アミノ酸も含めると、両官能基の間には様々な構造が存在し、その組み合わせによってつなぎ目を多種多様に設計できる。
  • アミノ酸の結合で形成されるアミド結合は水素結合によって相互作用が可能であり、つなぎ目間の凝集性を高める効果が期待できる。

図1. つなぎ目にオリゴペプチドを有するPS-block-PMMAの合成

図1. つなぎ目にオリゴペプチドを有するPS-block-PMMAの合成

本研究グループは、まず4つのアミノ酸の導入によって相分離挙動に与える影響を調べ、フェニルアラニン(F)4つからなるオリゴペプチド(FFFF)の導入が相分離の誘発に効果があることを見出しました。しかし、長周期規則構造の形成には至りませんでした。そこでつなぎ目の運動性の付与と、つなぎ目とポリマー間の立体障害の低減が重要と考え、FFFFの両端にアルキルスペーサーを有する6-アミノヘキサン酸(Hex)を導入し、HexFFFFHexの配列を有するオリゴペプチドをつなぎ目として有するPS-block-PMMAを合成しました。小角X線散乱(SAXS)と透過型電子顕微鏡(TEM)での観測から、このBCPはミクロ相分離して長周期ラメラ構造を形成することがわかりました(図2)。同じ分子量でつなぎ目の構造が異なるものではこのような長周期ラメラ構造の形成は確認できなかったことから、ミクロ相分離がつなぎ目構造に特異的であることがわかりました。

図2. HexFFFFHex配列のオリゴペプチドをつなぎ目に有するPS-block-PMMAとSAXSとTEMによる長周期ラメラ構造の確認

図2. HexFFFFHex配列のオリゴペプチドをつなぎ目に有するPS-block-PMMAとSAXSとTEMによる長周期ラメラ構造の確認

波及効果、今後の予定

従来の研究では連鎖重合をベースとしてBCPのつなぎ目を合成していたために、つなぎ目構造に分子量の分布が存在しましたが、本研究グループの手法ではつなぎ目に分子量分布が一切無いオリゴマーを導入でき、さらにアミノ酸の個数、配列、組み合わせを変えることで、つなぎ目構造の僅かに違うPS-block-PMMAをつくり分けることが可能です。この論文ではつなぎ目の構造のみが異なる6種類のPS-block-PMMAを用いて相分離の影響を調べていますが、その後の研究ではアミノ酸の種類、組み合わせ、配列を変えることでつなぎ目の構造が異なる10種類以上のPS-block-PMMAを系統的に合成し、つなぎ目の構造がほんのわずかに違うだけで、相分離挙動が変化することが分かっています。つなぎ目のオリゴペプチドの凝集とBCPの相分離が協調して自己組織化していると考えられ、半導体材料以外にBCPが用いられる材料(エラストマー材料、薬運搬材料、分散剤材料など)にも展開できる設計指針として興味が持たれます。

  • 研究プロジェクトについて

本研究は文部科学省科学研究費助成事業(19H00911,20K21222,20H02785)の支援を受けて実施しました。

  • 用語説明

[用語1] ブロック共重合体(BCP, Block Copolymer) : 2種類以上の単量体からつくられた異なる高分子が線状に連結してできた高分子。

[用語2] ラメラ構造 : 平板状の構造。ブロック共重合体の場合、構成するそれぞれの高分子が形成するラメラ構造が交互につながった構造を指す。

[用語3] 自己組織化 : 構成成分が自発的に秩序構造やパターンを形成する過程。

[用語4] 保護膜材料 : 半導体デバイス面を保護する材料。例えば光で照射することで硬化する、あるいは溶けやすくなる高分子を保護膜材料として使えば、光照射によって半導体シリコン基板上に保護膜が残っている部分と残っていない部分を形成させることができる。保護膜が残っていない部分に対してシリコンを腐食することで、パターン構造を得ることができる。

[用語5] ミクロ相分離 : 一般に異なる2種類の高分子は混ざり合わず、マクロスケールで相分離を起こす。一方、混ざり合わない2種類の高分子が線状に連結したブロック共重合体は、ミクロスケールで相分離を起こし、さまざまな形態をもったミクロスケールの周期構造が形成される。この構造を活かしてエラストマー材料や固体電解質材料が開発されている。

[用語6] 原子移動ラジカル重合 : 1994-1995年に京都大学の澤本光男名誉教授と米国カーネギーメロン大学のKrzysztof Matyjaszewski教授が独立に見出した制御ラジカル重合法の1つ。遷移金属錯体を触媒、有機ハロゲン化合物を重合開始剤として用いるラジカル重合法であり、高分子の分子量、末端基を制御でき、工業的にも利用されている。英語のAtom Transfer Radical Polymerizationを略してATRPと呼ばれている。

  • 論文情報
掲載誌 : Macromolecules
論文タイトル : Long-Range Ordered Lamellar Formation with Lower Molecular Weight PS-PMMA Block Copolymers: Significant Effects of Discrete Oligopeptides at the Junction
(低分子量PS-PMMAブロック共重合体の長周期ラメラ形成:つなぎ目オリゴペプチドの絶大な効果)
著者 : Tomoka Yoshimura, Tomofumi Morishita, Yoshihiro Agata, Kodai Nagashima, Kevin Wylie, Yuta Nabae, Teruaki Hayakawa, and Makoto Ouchi
DOI : 10.1021/acs.macromol.1c02569別窓
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教授 大内誠

E-mail : ouchi.makoto.2v@kyoto-u.ac.jp
Tel : 075-383-2600 / Fax : 075-383-2601

東京工業大学 物質理工学院 材料系

教授 早川晃鏡

E-mail : hayakawa.t.ac@m.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2421

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