材料系 News
東京工業大学 物質理工学院 材料系のマーティン・バッハ(Martin VACHA)教授(材料コース 主担当)と科学技術創成研究院 化学生命科学研究所の福島孝典教授が、2020年度高分子学会賞(科学部門)をそれぞれ受賞しました。公益社団法人高分子学会が2月24日、発表しました。
高分子学会によると、バッハ教授の研究題目は「単一分子分光法を用いた高分子の特性及び機能の研究」、福島教授は「精密分子集積化による機能性ソフトマテリアルの創製」です。
高分子学会賞は「我が国の高分子科学および技術の進歩をはかるため、高分子科学、技術に関する独創的かつ優れた業績を挙げた会員を対象に、その功労を顕彰すること」を目的に制定されました。
単一分子分光法は近年急速に発達し、材料や生体分子の構造・ダイナミクスのナノスケールレベルでの研究にとって非常に有用な新しい手段となってきている。分子個々の性質を調べて、通常の分子集団のアンサンブル測定では分からない重要な物性の分布とそのダイナミク、新しい現象などを明らかにすることができる。特に、高分子や有機物質を含む複雑系ソフトマターの研究では高いポテンシャルの手法であり、共役系高分子一本鎖のコンフォメーション、光物理特性の測定およびその制御、単一色素プローブによるポリマーナノスケール物性、半導体量子ドットおよびペロブスカイトナノ結晶の発光特性など、多くの興味深い課題への応用の試みを続けている。
このような基礎研究的な仕事が高分子学会賞の対象になったことは大変嬉しく思い、今後単一分子分光は高分子科学の分野で強力なツールとしてより多くの研究者が知られるようになり、広く貢献すると期待している。
分子の単位の接頭辞の一つであった「ナノ」という言葉が、学問分野を表す言葉として市民権を得て頻繁に学術誌に登場するようになったのは、ちょうど私が大学院で研究活動を始めた頃かと思われます。その後、2000年のクリントン大統領による国家ナノテクノロジー・イニシアティブ計画は世界を触発し、ナノメートルサイズの材料開発が急激に加速しました。とりわけ量産化が可能になったカーボンナノチューブやグラフェンといったナノカーボンが注目され、これらのナノ材料の機能化、プロセス、応用技術開発が精力的になされていました。期を同じくして、有機分子・高分子を基盤とする物質開発の分野においても、従来の超分子化学が対象としてきた溶液中における数分子の会合体形成から、分子配列や配向秩序をナノスケールの凝縮体で精緻に実現するための手法開発へと研究の方向性がシフトし始めました。しかし、それからおよそ10年の間に、有機エレクトロニクスをはじめとする多くの分野において、「ナノスケールで構造が作り込まれた物質を、実応用に資する巨視的な材料にいかにボトムアップするか?」という課題も浮き彫りになってきました。
このような背景のもと我々は、研究の第1フェーズでは、ナノカーボン、巨大π電子系分子・高分子などを構成要素とし、自発的な分子の集合化を巧みに制御することで、革新的な構造形成能や機能、ならびに新現象を発現するナノスケールのソフトマテリアルの構築を目的とする研究に取り組みました。そして第2フェーズでは、有機・高分子物質科学におけるナノとマクロをつなぐための方法論、すなわちスケール横断的な精密分子集積化法の開拓を目的に研究を発展させ、従来の常識を越える長さスケールで均一かつ三次元的に分子配列・配向が制御されたソフトマテリアルの開発を推進してきました。
今回、これらの研究から得られた成果が認められ、本賞を受賞することができました。受賞対象となった研究は、共同研究者、研究室スタッフ、学生諸氏の多大なご尽力のもとに成し得たものであり、これまでお世話になった皆様にここに深く感謝申し上げます。