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衝撃破壊の瞬間、材料に何が起こるのか

パルスX線の応用でナノ秒間に起こる現象の目撃に成功

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2019.06.03

本研究成果のポイント

  • 衝撃破壊にともなう金属組織の微細化をパルス状の硬X線により直接捉えることに成功
  • 衝撃波進展にともなう金属組織のマイクロメートルサイズからナノメートルサイズへの変化を定量的に解析

概要

高エネルギー加速器研究機構(KEK)物質構造科学研究所、熊本大学 パルスパワー科学研究所、東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所、テクニコン-イスラエル工科大学、筑波大学の研究グループは、KEKの放射光実験施設 フォトンファクトリー・アドバンストリング(PF-AR)を用いて、金属内に伝搬する衝撃波によってナノ秒(1ナノ秒=10億分の1秒)の間に進行する金属組織の微細化を直接観測することに成功しました。

本成果は5月20日、科学雑誌Scientific Reportsオンライン版に掲載されました。

背景

形あるものは必ず壊れる。これは自然の摂理ですが、最も短い時間で起こる破壊が衝撃波による衝撃破壊です。衝撃波は、高速衝突・爆発・火山噴火・雷・隕石・超音速飛行中の飛行機などによって発生することが知られていて、特に高圧の衝撃波は1キロメートル毎秒以上の高速で物質に伝搬し、材料内部を不均一に後戻りできない状態に破壊します。 現代社会で安全な生活を送るためには衝撃破壊の正確な計測が必要となります。しかし、衝撃波は音速で伝搬するため、破壊は一瞬のうちに起き、不均一かつ非常に複雑です。衝撃波内の破壊現象についての評価は難しく、衝撃破壊前と後の物質を見比べて想像するしかありませんでした。

研究内容と成果

図1. 衝撃破壊前の純アルミニウム箔の金属組織図
図1. 衝撃破壊前の純アルミニウム箔の金属組織図
結晶粒のカラーマッピング(色は結晶構造の向きに対応)。

多くの金属材料は細かい金属結晶が集合した多結晶状態になっており(図1)、材料の機械的特性は金属結晶のサイズや状態によって決まります。材料に高い圧力の衝撃波を加えると衝撃圧力に耐えられなくなり、材料は破壊されます。衝撃波内では、まず元に戻ることができる変形(弾性変形[用語1])が起こり、元に戻れる限界を超えた変形(塑性変形[用語2])を経て破壊に至ります。

自治医科大学 医学部とKEK 物質構造科学研究所に所属する一柳 光平 博士、KEK 物質構造科学研究所の野澤 俊介 准教授、深谷 亮 特任助教、木村 正雄 教授、足立 伸一 教授、熊本大学 パルスパワー科学研究所の川合 伸明 准教授、東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所の中村 一隆 准教授、テクニコン-イスラエル工科大学のKlaus-Dieter Lis 教授、筑波大学 生命環境科学研究科の木 壮大 大学院生からなる共同研究グループは、衝撃破壊の瞬間を実際に見るために、純アルミニウム箔内の金属組織の衝撃破壊による微細化に注目しました。

KEKの放射光実験施設PF-ARビームラインNW14Aの、原子サイズの波長かつ100ピコ秒の時間幅を持つパルス状のX線を使った時間分解X線回折[用語3]を用いると、純アルミニウム箔の金属組織の微細化過程を精密に調べることができます。研究グループは、この測定法と、ナノ秒のパルス幅を持つ高強度レーザーを組み合わせた実験を考案しました(図2)。高強度パルスレーザーはたった1回、試料に集光照射させるだけで、試料表面のコート材を吹き飛ばすことにより5万気圧以上の高圧衝撃波を発生させることができます。それだけで試料に穴が開きます(図3)。

図2. 衝撃波伝搬下の時間分解X線回折測定の概略図

図2. 衝撃波伝搬下の時間分解X線回折測定の概略図

アルミコートとプラスチック材があることで、アルミニウム箔は吹き飛ばされずに衝撃波のみを受ける。

図3. 衝撃破壊後の試料

図3. 衝撃破壊後の試料

試料の大きさはおよそ5 mm角。パルスレーザー照射により一部分が後方へ吹き飛び、直径0.5 mmほどの穴が開いている。

測定ではまず、破壊前の試料のX線回折像(図4右側)を撮影します。高強度パルスレーザー照射1回の8ナノ秒間に、同期させた100ピコ秒間(1ピコ秒=1兆分の1秒)のX線パルスを1回だけ照射し、衝撃波が伝搬する間に衝撃破壊中の試料のX線回折像(図4左側)を撮影します。試料を替え、X線パルス照射のタイミングを3ナノ秒ずつずらして繰り返し測定を続け、計100組の回折像を得ました。破壊前と破壊中の回折像の各回折点を照らし合わせると、金属結晶が微細化していることはもちろん、金属原子の配置が粒子内でどれだけずれているか(不均一歪み)がわかります。

X線回折像の解析の結果、マイクロメートルサイズだった金属の結晶粒は衝撃破壊によりナノメートルサイズまで細分化し(図5)、さらに極めて小さくなった各金属結晶内部で結晶の不均一性(結晶内の原子位置のずれ)が瞬間的に増大していることがわかりました。パルスX線をストロボ的な測定に応用することで、衝撃破壊後に観測される金属組織の状態とは異なる、衝撃破壊中の組織の微細化や結晶の不均一性を観測することに成功しました。

図4. 衝撃破壊前後のX線回折像

図4. 衝撃破壊前後のX線回折像

(左側)破壊後:回折点が連続。結晶粒が小さいことを示す。(右側)破壊前:回折点が非連続。結晶粒が大きいことを表す。

図5. 高圧の衝撃波による金属組織の微細化過程

図5. 高圧の衝撃波による金属組織の微細化過程

本研究の意義、今後への期待

極めて短い時間に起こる現象の瞬間を捉える新しい測定技術が、材料科学の発展に大きく寄与することは言うまでもありません。

衝撃波が引き起こす高速破壊現象による金属組織の微細化過程を理解することは、これまで極めて困難であった衝撃破壊の評価を可能にするだけでなく、レーザーピーニング[用語4]などに代表される衝撃波を利用した組織微細化加工に応用できるものと期待できます。

本研究は、科学研究費 若手研究(A)「時間分解ラウエ回折法による衝撃破壊素過程の解明」(研究代表:一柳 光平)、同 挑戦的萌芽研究「角度分散型時間分解X線回折による3次元衝撃圧縮状態の研究」(研究代表:一柳 光平)、同 新学術領域研究(研究領域提案型)「ソフトクリスタル:高秩序で柔軟な応答系の学理と光機能」(研究代表:加藤 昌子)、東レ科学研究助成金「時間分解X線測定による多段衝撃波内の構造・反応ダイナミクス解析」(研究代表:一柳 光平)の支援を受けて実施されました。

用語説明

[用語1] 弾性変形 : 力を受けた固体に生じた変形が、力を取り除けば元に戻る変形。

[用語2] 塑性変形 : 力を加えて変形させたとき、永久変形を生じる変形。力を取り除いた後にも歪みが残る。

[用語3] 時間分解X線回折 : ある瞬間の原子の構造情報を得るための手法の一つ。今回の実験では、材料が変形する瞬間に短パルスX線を当てX線回折データを収集した。

[用語4] レーザーピーニング : 短い時間幅のレーザーを照射したときの局所的な衝撃圧縮により材料表面に圧縮の残留応力を付与し、表面を加工硬化する技術。

論文情報

掲載誌 : Scientific Reports(オンライン版5月20日)
論文タイトル : Microstructural deformation process of shock-compressed polycrystalline aluminum
(衝撃圧縮下における多結晶アルミニウムのミクロ組織変形過程)
著者 : K.Ichiyanagi, S.Takagi, N.Kawai, R.Fukaya, S.Nozawa, K.G.Nakamura, K.D.Liss, M.Kimura, S.Adachi.
DOI : 10.1038/s41598-019-43876-2 別窓

関連ページ

研究内容に関するお問い合わせ先

自治医科大学 医学部

大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構

物質構造科学研究所 協力研究員 一柳光平

E-mail : ichiyana@post.kek.jp
Tel : 029-879-6185

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